鋼の女に転がされる
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
嘘告されたら、こんなメンタリティで行こう、全人類。
私も過去を屠るよ。
男友達との罰ゲームで嘘告をする事になった。告るのは裏で『鋼の女』と称される程、無表情で機械的な女だった。多分彼奴らの数少ない良心で『此奴なら嘘告しても傷つかないだろう』という心理が働いたからだと思う。
「付き合って欲しいんだけど」
すると彼女は少し考える様に上を向き、それから指先を眺めて弄った。
「……何処かへ行動を共にする、または恋人同士の関係になる、の何方かと思いますが、後者という認識で宜しいので?」
鋼の女というあだ名に似合った無表情で、彼女はそう問い掛ける。射抜くような目にたじろいで、俺は視線を逸らしたまま顎を引いた。
「良いですよ」
其れが嘘告から始まった、恋人関係だった。
恋人になってからでも俺達の関係はそう変わらなかった。話す事も、一緒に帰る事もしない。元々好意なんかなかったから、そうなるのも必然で。けれどもそろそろ嘘バレをしないといけない気がしている。それは身勝手な罪悪感からか。あるいは。
「今度、お前と何処かへ行きたいんだけど」
「えぇ。構いませんよ。場所は決まっておいでで?」
「いや、まだ」
指を顔に近付けて、先をなぞる様に擦り合わせる。初めて嘘告した時と同じ反応だった。
「……では、私の趣味で宜しければ」
待ち合わせに指定されたのは、隠れ家的な喫茶店だった。躍動感溢れるクラシックが流れるそな中で、彼女は静かに珈琲を啜る。
言わなくては。『あの時の告白は嘘で、お前に興味なんかないんだ』『ただの罰ゲームなんだ』不味い絵面が悪すぎる。そう一人で焦っていると、彼女の方から口を開いた。
「物好きな方だなぁと思ってますよ。こんな無愛想で、機械的な女を選ぶなんて。……男性が選ぶとは思えません。さしずめ、貴方方のお友達同士の悪戯と言ったところでしょう」
彼女は全てを見透かした様にそう言って、静かにため息を着いた。
全てバレている。俺が彼女に好意が無いことも、罰ゲームで嘘コクした事も、全部。言い訳しようと口を開いても、続く言葉が見つからない。結局、情けなく狼狽える事しか出来なかった。
「そろそろ辞めに致しませんか? こんなお遊戯」
それからは袋の中の鼠だった。絞り出すように詫びて、訳を話した。彼女はそれを黙って聞いていた。話している間何も言わなかった。
「本当に……すみませんでした」
「まぁ、良いでしょう。貴方が一人焦っている姿は大変に見ものでしたし、其れを見てほくそ笑む私も大概と言ったところ」
そう言って僅かに口角を上げて、ほくそ笑んだ。初めて笑っている姿を見た気がする。彼女はテーブルの上を軽く見回した後、立ち上がって鞄の中を漁り出した。俺も慌てて準備をする。会計は彼女が一括で払った様で、特に呼び止められる事はなかった。
「さて、ではこれから私は本屋を巡ります。貴方はこれからの午後を有意義にお使い下さい。ただでさえ、嫌な午前でしたでしょうし」
そう言ってまた笑った。からかわれている事に気が付くのに、随分と時間がかかった。
凄い人間らしい小説で好きなんですよ。
嘘告って傷つける行為をさせながら、『此奴なら傷つかないだろう』と言うような気持ちの悪い良心とか。
そして自分だけが助かりたいが為に、早く謝ろうとか。
本当に気持ち悪い。最高。まさに人間。
中学生の時にされた嘘告を今でも引き摺って、執念深く恨み続けるねちっこい人間なので、定期的に燃やします。これこそが私の復讐。
※性格悪いね。こうなっちゃ駄目だよ。
嘘告されて傷ついてウジウジするのもなんか癪に障るので、困惑した姿を楽しむのに尽力しなくてはと思うんですよ。
こんな冷静で、鋼の精神を持った人間になりたいです。