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第1話

 第一話 異世界ラノベ

 「あああああああぁぁぁもう〜〜〜また死んだぁぁぁぁぁ!!!」

 つんざくような金切り声。いつもの光景だけどほっとくといつまでも続くので反応しとく。

 「どーしたの女神ちゃん」

 「どうしたもこうしたもないですよぉ!異世界に送ったチート君がまた死んだんですよ!」

 そりゃ大変だ。女神ちゃんが大騒ぎしてしまう。

 「今月何回目だっけ?」

 「4回目ですよ!なぁんでチート能力持ちで死ぬんですか!」

 「なんだっけ。死んだのめっちゃでかい剣持ってった子だっけ」

 「や、それは2回目の子で今回のはなんか炎系のやつ」

 「ふわっとしすぎだろ」

 テキトーか。異世界に送り出した張本人が。

 「チート付与してるの私じゃないもーん。公平を記すために偉い人がくれたランダムチート生成機から出てくるんだもーん」

 「でもあたかも自分が授けました感満載で演出してるよね」

 「それは...女神の威厳的に?」

 しょーもないところで見栄張るなよ女神。

 「はああ、天使ちゃんは覚えてないかもしれないけど結構いい子だったんですよ?むしろいい子すぎるが故に仲間を守るために自分ごと爆発四散したみたいですけど」

 「それめっちゃいいやつだけど主人公じゃなくてサブキャラ枠じゃん」

 「とにかくまた新しい子送り込まないとなー」

 「今回の異世界けっこう劣勢だよね」

 一口に『異世界』といっても無数にある。そのいくつかを管理するのが女神ちゃんの仕事だ。

 そして今回担当しているところがなかなか上手く行っていないらしい。というのも女神ちゃん一人で運営しているわけではなく魔物サイドはまた別の管理人がいるのだ。

 なので世界を操るゲームマスターというよりは人間サイドを扱うプレイヤー側という感じだろうか。

 わかりやすく言えば陣取りゲーで女神ちゃんが劣勢。


 「魔王さんサイドはチート無い分基礎ステータス高めで強いんですよぉ!こっちは運ゲーなのに」

 「あっちは後ろ盾も強いしね」

 「私が頼りないみたいな言い方やめてください!根性が足りんのですよ!根性が!」

 「いつの価値観...?てか遊んでないで仕事しなよ」

 「いくら女神といえど現世から魂が送られてこないと何もできないんですぅー」

 ぶーぶー拗ねるな女神。

 「じゃあそれまで待機?このまま魔王軍に蹂躙されるわけだ」

 「そうでもないですよ。スローライフ送ってる系の子たちもいますからその周辺は大丈夫でしょうね」

 そういえばたまに居たな。来た時は死んだ魚の眼した子。

 ちなみに今は超イキイキしてる。

 「やっぱ現世に疲れてる系もダメです。闘争心が足りません。その場に居座るロケット花火みたいです。自身のパワーに気づかず停滞しますからね」

 「その例えいる?普通に伝わらないし」

 「とにかく来るなら若くて素直で愛嬌のある子じゃないと」

 「若さは女神ちゃんの趣味でしょ」

 「え!?ショタが嫌いな人なんているんですか?」

 近い、詰め寄るな。

 「ショタというか子供好きは人類共通のテーマでしょ。なんなら天使だし、無垢なもの好きだよ。女神ちゃんみたいに歪んだ目で見てる人の方が少ないよ」

 「ふふーん。天使ちゃんは狭い世界で生きてるんですね。これを見るがいい!」

 女神ちゃんは得意げに右手を差し出してきた。

 「さっきから人が話してんのにちらちら何見てんのって思ったら天界御用達のSNSアプリのカミッターかよ」

 「そうです。世界の真理がここにあります」

 世界の真理お手軽すぎる。

 「ほら!カミッターにはこんなにも多くの同志たちがいるんですよ」

 >さっきショタ天使見た。最高すぎ。

 >ショタ天使は成長することがないから良き。

 >は?永遠とか何がいいわけ?人間みたいに儚いからいいんだろが。

 >はい出ましたー。刹那主義者。私たち永命が定命を尊ぶのエモい的観点。

 >釈迦ってんじゃねえぞこら。

 「ケンカしてますよ。その同志たち」

 「え...さあ仕事仕事」

 ごまかすな女神。

 「仕事も何もカミッター見てるだけじゃん」

 「あーね。さっきカミッターで余ってる魂がないか募集かけといたんですよ」

 「ライブのチケット感覚?」

 魂の扱い雑すぎでしょ。一度叛逆されればいいのに。

 「そういえば前から疑問に思ってたんだけど何で転生前の魂ってジャパンの多いの?」

 「そりゃスシ、ゲイシャ、テンプーラ大好きデース」

 「エセ外国人やめろ」

 「簡単に言えば楽だからですよ」

 「楽って?」

 「『あなたは異世界転生します』でほぼ通じるから」

 確かに。言われてみれば大体の人はそうだった。

 「そもそも何で異世界の存在が現世にバレてんだろ」

 「異世界からの帰還者が吹聴してるからでは?」

 「いやいや、異世界から帰還する際記憶の消去は義務付けられてるし、個々の人間が語ってもただの妄想で片付けられるのがオチでしょ」

 違う世界では勇者でしたとか超やばいやつじゃん。

 「歴史なんかもそうですけど物語にすると浸透しやすいんですよ。教科書よりも漫画の方がとっつきやすいでしょ?わたしも三国志漫画でしか知りませんし」

 「えっと、つまり?」

 「世の中にある異世界ラノベはほぼ自伝です」

 「そうだったの!?ヒロインとのいちゃつきから全部?」

 「いえーす。脚色されてる部分もありましたけどね。最後まで誰とも深い仲になれなかったのにハーレムになってたり」

 ケタケタ笑ってるんじゃないよ女神。大問題でしょうよ。

 「だって記憶残ってるのはおかしいよ。すぐにでも偉い人に報告しないと」

 「......最初はチート無双者が現世とのギャップに挫けるの見たかっただけなんですけどね」

 「は?」

 「それが帰る人帰る人、みんな文才ありすぎですよね。女神ちゃんびっくりー」

 おま、お前か〜〜〜。そしてさらっと性格悪いんですけどこの女神。

 「はあっ」

 「ちょ、天使ちゃんどこに行くんですか?」

 「決まってるでしょ。この女神の大失態報告しにいかないと」

 「ちょちょちょーーーっと待ってください!そんなことされてら私女神じゃいられなくなりますから!」

 「じゃあ悪魔にでもなりなよ」

 「お慈悲を!お慈悲を〜〜!」

 きったな。鼻水擦り付けて懇願する姿がもう女神じゃないんですけど。

 「わかったよ。今回だけだよ?次からはちゃんと天界の規定に則って記憶消すこと」

 「それはできません」

 「よし、行くか」

 「ストップ!ドントウォーリー!ギブミーチョコレート!」

 「テキトーな英語羅列するんじゃないよ。低学歴バレるから。懇願さえすればいいと思ってるでしょ」

 「待ってください!面白いんですよ!帰還者のラノベが!これ読むのがもう私の趣味なんです!」

 「え〜」

 「良いものは残さないと!女神として。未来の文豪を私の手で摘むことなんてできません!」

 「これ黙ってたら僕まで怒られるんだけど」

 「バレなきゃいいんですよぉ」

 たった今バレたでしょうが。

 「チャンスをください。私のこのオススメラノベ貸しますから」

 「僕あんまり活字はな〜」

 「そういう人の為のライトノベルですから!」

 こういう時の女神ちゃんは良いっていうまで聞かないからな。

 「わかった、読んでみる」


 ーーーーー数時間後。


 ほどよい読後感を抱えながらコーヒーを淹れようとキッチンへ向かう。コポコポとコーヒーメーカーが音を鳴らすと芳醇な香りが部屋中に広がる。その香りが鼻を伝い脳まで到達すると疲労感を味わった脳に癒しを与えた。

 そしてお気に入りの白いマグカップに注ぐと段々と中身が黒く染まっていく。そのままそれを口に含むと苦味、酸味、濃厚な香りが口一杯に満たされていく。

 ふう、と一息をついた。ここまでが僕の至福のひとときだ。

 女神ちゃん、と僕は声をかけた。

 ゆっくりと、幸せを逃がさないように。

 「良いものは...残さないとね」

 「これで共犯ですね!」

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