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13.

 (※父親視点)


「まさか、お父様とお母様が、裏切るなんて……」


 地面に倒れたダリルは、私と隣にいる妻を見てそう言った。

 私と妻は、棒で彼をさらに殴った。

 彼はもう、動かなくなっていた。


 私と妻は、ダリルが持ってきていた火炎瓶を拾い上げた。

 そして、妻と顔を見合わせ、憲兵の駐屯所に火炎瓶を投げ入れた。

 これで、中の牢屋にいるスージーは、命を落とす。

 

 つまり、遺産は私たちが相続することができる。


 最初から、そのはずだった。

 あの遺産は本来なら、私が一番多く受け取るのが順当なところだ。

 それなのに、妙な遺書を書き残していたせいで、小娘にすべて奪われてしまった。

 そんなこと、許せるはずがない。


 少し回り道をしたが、ようやく遺産を手に入れることができる。

 あとは、屋敷に帰って、アネットの遺体があることを憲兵に通報したら、すべてが終わる。

 彼女の死は、自殺だと思われることだろう。


「あなた、あとは帰って、遺体を発見したふりをすればいいだけよ」


「ああ、そうだな」


 私と妻は屋敷に帰ろうと思った。

 しかし、いつの間にか憲兵に取り囲まれていた。


「え……、どういうことだ!?」


「どうして、こんなにタイミングよく見つかってしまうのよ!?」


「それは、我々があなたたちをマークしていたからですよ。あなたたちは既に、有力な容疑者だったのです」


「そんな……」


 憲兵の言葉に、私は驚いた。

 まさか、既に目をつけられていたなんて……。

 

 私も妻も、あっけなく捕まった。

 駐屯所の方を見ると、既に火はほとんど消えていた。

 対処が迅速だったおかげだろう。

 まさか、こんなにあっけなく、終わってしまうなんて……。


 私たちは失敗した。

 それはつまり、人生の終わりを意味していた。

 遺産は相続されず、逮捕され、立場も失ってしまう。

 

 ああ、こんなことになるくらいなら、遺産を巡っての争いなんて、しなければよかった……。


     *


「とりあえず、事件は一段落したみたいですねぇ」


 私はモフモフ天国を満喫しながら、大きなため息とともに呟いた。


「ええ、父親と母親は、殺人未遂と放火で、何十年も牢に入れられます。生きている間に出ることはないでしょう。それと、ダリルの方は、一命を取り留め、意識は回復しましたが、体は一生動かない状態です。それに彼は、アネット殺害の容疑で逮捕しました。それと、グリフはどうやら、アネットが崖から落としたみたいですね。彼らが二人で森の方へ行く姿を目撃されていますし、証拠も次々と出てきますね。彼らもいろいろと偽装をしようと試みていたみたいですが、お粗末なものでした」


「まあ、後先考えず、遺産を奪うことしか考えていない人たちですからねぇ。所詮はその程度だったということです」


 私はモフモフ天国を満喫しながら、憲兵の言葉に答えた。

 とりあえず、これで私が命を狙われる心配はなくなった。

 危機は去ったので、私は胸をなでおろした。


「大量の水も用意しておいてよかったです。彼らが火を用いるという貴女の予想は、見事に的中しましたね」


「まあ、あの状況で彼らが考えることといったら、火をつけるか、保釈金を払って私を牢屋から出してから殺すくらいかなと思っただけです」


 話している間に、私の周りにいる二人のモフモフに、押し倒されてしまった。

 あぁ……、モフモフ、最高……。


 そして、事件から、数日が経過した。


 私はまだ牢屋の中にいるままだ。

 保釈されるのは、いつだったかしら?

 現在憲兵たちは、町の見回りに出かけている。

 駐屯所内にいるのは、私が股間を蹴り上げた憲兵一人だけである。


「あのぉ、すいません、私って、いつ出られるんですか?」


 私は大きめの声で彼に呼び掛けた。

 しかし、彼は私の声を無視して書類仕事をしている。


「あの、いつごろ出られるか、知りたいんですけれど」


 私は再び彼に呼びかけた。

 しかし、また無視されてしまった。

 どうして、私を無視するの?

 まるで、自分が幽霊にでもなった気分だった。


 え……、幽霊みたいって思ったけれど……、私……、まさか、本当に幽霊になっているの?


 だから、私の声は、彼に届かないの?

 自分で死んでしまったことにも気づかず、私はこの世をさまよっていたの?


 実は……、既に彼らのうちの誰かに、殺されていたということ?

 だから私は、自分でも気づかないうちに幽霊になっていた。

 幽霊になっているから、彼にも声が届かない……。


 シェリーちゃんだけは、こちらを見上げている。

 そうだ……、猫は幽霊が見えるというのは、どこかで聞いたことがある。

 猫が何もないところを見上げるのは、そこに幽霊がいるからだと……。


 ごめんね、シェリーちゃん。

 おじいちゃんからも頼まれていたのに、私が先に死んでしまったみたい。

 私も、成仏したら、おじいちゃんの元へ行くのかな……。


「あ、お待たせしました。貴女を保釈するための書類が、たった今完成しましたので、サインをお願いします」


 私は憲兵に声を掛けられた。

 

 あ、なんだ、普通に書類作りに忙しくて無視していただけだったのね。 

 はは、無視されると、私って思考がネガティブになっちゃうから。

 あぁ、生きててよかった。


 ということで、私はようやく牢屋から出ることができた。


 駐屯所の外に出て、大きく深呼吸した。

 そして、シェリーちゃんを抱きかかえ、私は憲兵に別れの挨拶をした。

 彼の側にいたゴードン君にも。


「ゴードン君、また遊びに来るからねぇ。その時はまた、モフモフさせてね」


 私は彼にモフモフしながらそう言った。


 そして、抱きかかえたシェリーちゃんに、頬をすりすりしながら歩き始めた。

最後まで読んで頂きありがとうございます。よろしければ、ほかの作品もご覧ください。

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