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04 転がされる師匠

「おう、ミレンティ。お前が受付に立つなんてどうしたよ?」


 受付にいくと、いつもは裏方のミレンティがいた。


 ミレンティとはこの町にきたときからの付き合いだが、受付に立っているのを見るのは数度しかない。なんかあったのか?


「ミドさんこそどうしたんですよ。大森林に入るなんて去年以来じゃないですか」


「弟子に仕事してこいと追い出された」


 いつもはメビアーヌが大森林に入っていたのに、師匠に入れとか鬼である。


「ふふ。いい弟子を持ちましたね」


 なぜかメビアーヌが絶賛されています。師匠に優しくないのに……。


「あ、入るなら気をつけてくださいね。どうもまた蟻が巣を作ったみたいなんですよ」


 ミレンティが言ってる蟻は爪先くらいの通常の蟻ではなく、魔物の蟻のことだ。


「また出たのか。蟻もしぶといことだ」


 魔物の蟻が大森林にやってくるのは多々あり、発見次第軍によって討伐されているのに、諦めずやってくるのだ。


「どこら辺かわかってるのか?」


「ニアビ岩があるところです。近日中に討伐に出ると思いますよ」


 またあそこか。蟻に取って重要なところなのか?


「蟻の被害は?」


 大きさが狼くらいあり肉食だから、蟻が出ると大森林の生き物が食い殺され、狩りで食ってる冒険者には死活問題になるのだ。


「今のところは大したことありませんね。冒険者が何人か出会って怪我をした者は数人いますが」


 冒険者に怪我はつきもの。騒ぐほどでもない。まあ、怪我をした者は大変だろうがな。


「蜜蟻がいたらいいな」


「弟子に媚びてどうするんですか」


「だってあいつ、おっかないんだもん」


「もんって、いい歳をしたオヤジが言う言葉じゃないでしょうが。師匠でしょうに」


 魔法以外のことはメビアーヌに握られてしまったんだからしょうがないだろう! 後ろにはリオ夫人がいるし……。


「そんなことより、暇してる冒険者がいるなら紹介してくれよ。手伝ってもらいたいからさ」

 

 銀貨三枚を出した。


 薬草探すのって手間なんだよ。なのにあのババアは一人じゃ採れない数を頼みやがって。いじめか!


「依頼料を出していただけるなら紹介しますが、メビにバレたらまた怒られますよ」


「これも次世代を育てるためさ」


 オレが教える。冒険者は学ぶ。冒険所には手数料が入る。まさに三方よし、だ。


「まあ、ミドさんが一緒なら安全ですね。新人が八人いますからちゃんと面倒見てくださいよね」


「大丈夫大丈夫。オレ、弟子持ちだよ」


「その弟子のお尻に敷かれてる人が言っても説得ありませんよ」


 ハイ、まったくその通りで返す言葉もありません。


「早く一人前にして、次は優しい弟子を迎えるか」


 才能があるから十五歳で王都に旅立たせるか。オレの弟子なら仕事には溢れんだろうよ。


「ふふ。そうなるようがんばってください。では、呼んできますね」


 なにか思わせ振りな笑みを残して受付から出ていった。なんなんだよ、いったい?


 まあいいやと売店にいく。


「ジャオ。酒くれ」


 売店を仕切るむっさい男に言うと、なぜか紙を渡された。なによ?


「……キダラの樹液……?」


 あと、甁三つと書いてあった。


「メビアーヌからの追加だ」


 あの弟子、師匠をなんだと思ってるんだ! と言ったらジャオから伝わってメビアーヌの耳に入るので飲み込んでおいた。


「……わかったよ……」


 クソ。仕事ばかり増やしやがって。オレはのんびり暮らしたいだけなねに!


「酒をくれ」


「うちは冒険者相手の店なんだがな」


「御託はいいよ。毎日、うちで聞いてんだからよ」


 外に出たときくらい好きに酒を飲ませてくれよな。


「まったく、雷撃将軍とまで言われた魔法使いが飲んだくれになるとはな」 


「そんな昔の栄光など邪魔なだけだよ」


 どんな凄い魔法が使えても敵がいなけりゃ便利屋でしかない。政治の駒にされたくないわ。


「大事に飲めよ」


 と、酒瓶を出してくれた。


「もしかして、蒸留酒か?」


「ああ。軍のヤツと絵札勝負して奪ってやったものだ」


 王が指示して造ってはいるが、まだ数が少なく量もないからここまで流れてこないのだ。


「へへ。ありがとよ」


 銀貨を二枚、ジャオに放り投げた。


「大事に飲めよな」


「わかってるって」


 メビアーヌに奪われないよう魔法の鞄に入れておく。この鞄はオレしか取り出せないからな。ふふ。


「ミドさん、お待たせしました」


 と、ミレンティが八人の少年少女を連れてきた。


「いや、新人とは言ってたが、若すぎないか?」


 一番年上でも十三歳くらいで、下は一桁台だった。


「グラデオ孤児院の子たちです」


「……もしかしてオレは、弟子の手のひらの上で転がされていたのか……?」


 状況ができすぎている。仕掛けられたと見たほうがしっくりくるわ。


「そうだとしてもミドさんがやることに変わりはありませんよ。しっかり働いてくださいね」


 どいつもこいつもオレに仕事をさせやがって! とは心の中で叫んでおく。ここは、メビアーヌに支配された地なので……。


「皆、このおじさんの言うことをよく聞くのよ。見た目は冴えなくてだらしないけど、魔法使いとしては超一流だから」


 褒めるならちゃんと褒めてくれよ。少年少女たちが不安げな目をオレに向けてんだからさ。


「オレは、ミドロック・ハイリーだ。よろしくな」


「挨拶しなさい!」


 ミレンティの一喝に少年少女たちが「よろしくお願いします!」と頭を下げた。お行儀がよいこと。


「んじゃ、お仕事へ参りますか」


 少年少女たちを連れて大森林へと出発した。


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[良い点] >「もんって、いい歳をしたオヤジが言う言葉じゃないでしょうが。師匠でしょうに」  メビアーヌに魔法以外の胃袋と玉袋まで握られてしまったんだからしょうがないだろう! 後ろではリオ夫人がアッ…
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