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02 弟子メビアーヌ

 突然のことにあ然としてたら、メイナ姫が気を失ってしまった。


 すぐに風の魔法で受け止める。なんなんだ、いったい?


「メビアーヌ」


「はい。客間ですね」


 いや、そうだけど、なぜ強調した? オレのところは汚いと言うのか?


 なんかモヤっとしたが、嫌な真実を突きつけられるのも嫌なのでメイナ姫を抱えて客間へと運んだ。


「お師匠様のお知り合いですか?」


 ベッドに寝かせ、リオ夫人が運んできてくれたタオルで汚れた顔を拭くメビアーヌが尋ねてきた。


「まあ、簡単に言えば王の娘だな」


「お、王女様ですか!?」


 びっくりして飛び離れるメビアーヌ。身分とか教えてないのに、驚くとはどこで学んできたんだろうな。


「正確に言うなら第二妃の二の姫。確か、十四、いや、十五歳、だったかな?」


 女好きな王には六人の妃と数十人の側室(と言う名の愛人)がいる。


 魔導王との戦いの最中もいろいろ励んでおり、オレでも第四妃までしか把握してない。一夜の女もいるので軽く五十は越えているんじゃないか?


「お師匠様、本当に王様と親交があったんですね。盛ってるのかと思ってました」


「……お前、師匠の昔話をそんなふうに思ってたのかよ……」


「だって、男の人って昔のこと盛って話すじゃないですか」


 いやまあ、そうではあるが、オレ、そんな盛ってるように話したか? 逆に信じられないから押さえて話してたぞ。


「戦いを自慢するよう男はクズだよ」


 竜人を殺した自慢ならまだいいが、仲間を救えなかった戦いなど恥でしかない。それを誇れるヤツは戦いに参加してないクズだよ。


「それより、メビアーヌ。せっかくだからメイナ姫に回復魔法をかけてあげなさい」


「お、お姫様にですか!? 不敬とかなりませんか?! 死刑とか嫌ですよ!」


「ならんよ。回復も魔法使いの仕事だ」


 回復系魔法は高度な技術と知識が必要だ。傷を治すのに病気を活性化させたら笑い話にもならない。怪我と病気の違いを学んでないと怖くてさせられないよ。


「治癒師か薬師に任せたほうが……」


「魔法使いを目指すなら魔法で癒せ。それが魔法使いの矜持だ」


 治癒は患者の生命力を使って癒す術。魔法は己の魔力を使って癒す術。薬師は語るまでもなし。魔法使いを目指すなら魔法で治せ、だ。


「……わ、わかりました……」


「大丈夫。お前はオレの弟子。やれるよ」


 師匠に優しい弟子には教育できなかったが、魔法はしっかり教えている。切り傷や疲労ならメビアーヌでも余裕だ。


 メイナ姫の手を握り、まずは切り傷を回復させ、顔や脚を回復していく。


 ……やはりメビアーヌは魔法の才能があるな……。


 魔力を持つ者は多いが、魔力があるからって魔法が使えることにはならない。まあ、簡単な火を出すとかなら見様見真似でもできるだろうが、火の玉にしようとしたらいくつもの工程を学ばなくてはならない。


 才能を見極めるにも才能がいり、学ばさせるには覚悟がいる。そのため、弟子にするまで一年も費やしてしまったが、結果オーライ(王曰く、結果よければすべてよしと言う意味らしい)。メビアーヌは立派な魔法使いへと育っているよ……。


 体力も回復させたが、精神まで回復させる魔法は高度だ。オレでも難しい。なので、自然回復に任せることにした。


 眠るが一番の回復法と言う皮肉。魔法使いとはなんぞやと思うよな。


「リオ夫人。メイナ姫の体を拭いてやってください」


 ここまでどうやってきたのかわからんが、何日も風呂に入ってなく、埃まみれだ。綺麗にして休ませてやろう。


「はい。わかりました」


 子育て経験者は心が強い。いや、あの魔導王との戦いを生き延びた人は強い、だな。


「メビアーヌは、少し休め」


 回復魔法は精神力を使う。まだ未熟なメビアーヌには一日の修行をしたかのような疲労を感じているだろうよ。


「だ、大丈夫です! 今日の修行がありますから!」


「無理するな。魔力を回復するのも魔法使いとしての修行だぞ」


 魔法使いは常に万全でなければならず、ここぞと言うときに魔法を使えないことは恥になるのだ。


 魔力回復に効果があるお茶を淹れてやり、メビアーヌに飲ませる。


「これ、苦くて嫌なんですよね」


「なら、蜂蜜を入れて飲め」


 多少なりとものみやすくなる。オレは酒を入れるといくらでも飲んじゃうけどな!


「蜂蜜、ないですよ。毎朝、パンにかけてますから」


「お前はかけすぎなんだよ」


 女子供は甘いものが好きとは言え、こいつは異常に甘いもの好きときてやがる。蜂蜜を採るのも大変なんだぞ。


「砂糖、買ってくださいよ」


「そう簡単に買えるもんじゃないよ」


 砂糖は南国の地から輸入しているもので、うちの国では何ヵ国も跨いでやってくるから、手のひらに乗るくらいで金貨一枚にもなるのだ。


「もうちょっと待てば王都から送られてくるよ」


 王が野菜から砂糖を採る産業を興している。あと四、五年もすれば毎日食べれるようになるさ。メビアーヌが、だけど……。


 リオ夫人がいないうちに戸棚から酒を出し──たらメビアーヌに奪われてしまった。すっごい笑顔で。


「お師匠様。これからお仕事ですよ」


 あ、メイナ姫でうやむやにしてくれなかったか……。


 おにぎりが入った手提げ籠を持たされ、うちから追い出されてしまった。


「……甘やかしてくれる弟子が欲しいな……」


 魔法使いは才能がある者を育てたくなる生き物。難儀なもんだよ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] すいませんもう一点 >なんかモヤっとしたが、嫌な真実を突きつけられるのも嫌なのでメイナ姫を抱えて客間へと運んだ。 これは好みの問題ですが、『嫌』がダブってるの気になってしまう。後段…
[良い点] 母は強し。 [気になる点] >女好きな王には六人の妃と数十人の側室がいる。 日本語的には『側室』も正式な『妃』なんですが、こちらはそういう文化なのでしょう。 >まだ未熟なメビアーヌ…
[良い点] >「……甘やかしてくれる弟子が欲しいな……」  魔法使いの才能ある者同士からは魔法使いが産まれやすいので我らは弟子兼嫁を育てたくなる生き物……難儀なもんだよ。 [一言] >「お、王女様で…
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