第三章 大妖怪は捜査する①
ミーコ視点
前サイトにアップしてあった分はここまでです。
「だから黙ってたのは謝るって……」
裕太はそう言いながら、あたしの後を誠意のかけらも見せずについて来る。
この野郎は事もあろうに、その昔、文ちゃんとつき合っていたことを隠していやがったのだ!
つき合っていたのはまだ裕太があたしと出会う前の話……しかも能力者として目覚めてもいない、ただの高校生だった頃の話だそうだ。
当然、当時の裕太には文ちゃんが妖怪だった事に気付ける筈もなく、普通の男女として恋愛して、そして、どんないきさつがあったかは知らないが、最終的には別れたんだろう。
文ちゃんは当時、高校生になりすまして人間界に溶け込んで暮らしていた……と言えば聞こえが良いが、要するに『高校生』という肩書きを手に入れて、それに群がる男共を漁っていた筈で、その中の相手には同級生も含まれているだろうから、当時高校生であった裕太がそれに含まれていても不思議じゃない。
なんせ文ちゃんは文車妖妃だ。その妖力は半端ではなく、恋心を操るなど朝飯前なのだ。
しかも、黒髪で色白の肌が清楚な雰囲気を醸し出し、更に眼鏡に巨乳と、世の馬鹿な男共を引っかけるのにもってこいな容姿をしているので、別に妖力を使わなくても文ちゃんが声を掛ければその誘いを断るような気概のある男はそうそうあらわれないだろう。
広いこの世界で、その後、能力者として目覚める裕太と文車妖妃である文ちゃんが出会ってつき合うに至るってのは確かに驚きだけど、可能性が無いわけではないのでまぁしょーがないと割り切る事は出来る……あたしが知らない裕太を文ちゃんが知ってることに嫉妬はするが。
でもさ……じゃあなんでそれを隠すの?!
正直に話してくれれば、一発ぶん殴るくらいですますのに!
あれから何度聞いても話を濁すし……きっと何かやましいことがあるに違いない!!
「ミーコさーん」
「……」
「ミーコー」
「……」
「ペチャパぅごっ!」
「ペチャパイ言うな!」
あたしの踵落としをその身に受け、地面にひれ伏す裕太にそう言葉を叩き付けると、あたしは目的地に向かって再度歩き出す。
あたし達は今、文ちゃんが調べた、隠善とかいう野郎が訪れるであろう場所へと向かっている。
街の隅に在るカレー屋で、隠善はこの街に居る限り、ほぼ毎日そのカレー屋でお昼を食べるそうだ。
既に文ちゃんは、隠善のデータを取り込めるだけ取り込んだので、もう何処にいようと文ちゃんの探知からは逃れられなくなっている……本人は知る由もないことだが。
後は仕留めるだけとなり、裕太に連絡が回ってきた。擦った揉んだがあったのはご愛嬌……って言いたいとこだけどやっぱり許せん!!
さっさと隠善を退治して、裕太と文ちゃんの件の真相を明らかにし、裕太に土下座させてやるぅぅぅぅぅ!
「ミーコさんミーコさん行き過ぎ。ここだよ」
「っ! ……ああそうですかどうもすみませんね!」
あ……今の我ながら可愛くない……。
ぷいっとそっぽを向いて反射的にそう答えてしまい、その自分の言葉に頭に登った血が一気に抜ける。
直ぐに裕太を許すつもりはないけれど、今の言葉はちょこっと反省。
もっと冷静に……そして徹底的に叩きのめさなくっちゃ!!
あたしはそう心に誓いながら数歩戻って件のお店の前に立つ。
何故かポカンと口を開け、間抜け面で店の看板を見上げている裕太を不審に思いながら、あたしもつぃっと顔を上げ、視線を向けて……同じくポカンと口を開け言葉を失った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……『カレーの王将』……」
ポツリと裕太が看板を読み上げ、ようやくあたしも金縛りが解ける。
「……あんまりにも露骨過ぎない? コンプライアンス的に問題無いの?」
「……実はこっちが元祖とか? カレー屋から中華料理屋に転身? それとも逆に向こうからカレー屋に転身したとか?」
「……何この感じ……オチに使われてるのに全くウケず、結果呼ばれ損したお笑い芸人みたいなこの感じは!!」
「ある意味度胸があるんだけど、それなら某有名カレー屋のもじりにして欲しかったな。全てにおいて中途半端だ」
「……なんか一気にやる気なくしたわー……」
ガックリと来たが、中に入らないわけにも行かない。
あたしは意を決してドアを押し開け、店の中へと入り込む。
店内はこじんまりとしているが思っていたよりも清潔感があり、テーブルや椅子のセンスもよく全体的な雰囲気はかなり良い。これで味が良ければ隠れた名店としてその手の雑誌に掲載されていてもおかしくはないだろう。
小腹も空いていたし、何か頼みたいところであったけど、ここまで来た目的を思い出して断念する。
あたしが対象を探して店内に視線を巡らしていると、隣の裕太が急に歩き出し、そしてこちらに背を向けカウンターに腰を下ろす、匂いからして特選モツ入りカレーであろう美味そうな香りを漂わせているカレーをパクついている男の直ぐ後ろで足を止めた。
そして、いつの間にかスプーンを動かす手を止めているその男に向かって、普段の裕太からは想像できないような冷たい声を投げかける。
「死ね」
しかも、声を掛ると同時にいつの間にか取り出した銃を撃ち放つと言う極悪非道な所業をやってのけている。
裕太の銃は、火薬で鉛弾を打ち出す普通の銃とは違い、圧縮した霊力を撃ち出す代物で、発砲した際の銃撃音はない。以前絡んできたヤクザから巻き上げた拳銃を、裕太が改造したっていう代物だ。
「あんたねぇ……いくら本人かどうかを確かめもせず、問答無用で銃をぶっ放すって、主人公としてどうかと思うよ?」
「相手は『元人間』とはいえ歴とした鬼族でしょ? 手加減して勝てる相手じゃないよ。俺は負ける戦はしない主義なんだ」
「本音は?」
「俺はいつでも正直に話してるザマス」
「……このシスコンが……」
「……」
あたしの一言に不機嫌そうに押し黙る裕太。
要するにそう言うことなのだ。シスコン裕太からすれば、妹の仇に人権はないって訳。
「これで死んでたらこいつも浮かばれないわよね」
「生憎、敵を思いやってやるほど俺は人間出来ちゃいないんでね。それに……無用の心配だって事は一目瞭然でしょ」
「それもそうねー」
あたし達の目の前には、平然と立ち上がるひとりの男の姿……いや、『鬼』の姿。
コイツは裕太の銃撃を咄嗟に作り上げた障壁で防ぎきり、悠然と、最後の一口残されたカレーを口に運んで今立ち上がったのだ。
振り向いたその姿は、上から下まで全てをブランド物で固めた見事なまでのホスト姿で(実際、こいつの職業はホストだったりする)、ただ一つ、額から突き出る突起物がこいつの正体を如実にて表している。
間違いない。こいつが裕太の妹さんの仇である『隠善道隆』だ。
「額のアクセサリーがチャームポイントのあなたは隠善道隆で間違いないわね?」
「だったらなん……っ!」
皆まで言わせず、裕太はまたすぐさま引き金を引く。
「話くらい聞いてあげたら?」
「なんで?」
もう何も言いますまい。
隠善は、再度銃撃を障壁で防ぐと、椅子を蹴散らしなから飛び上がり距離を置いた。
さてそろそろあたしも参戦致しますかね。
ちなみに、時間がお昼のピークをとっくに過ぎている所為か、店内には他のお客は見当たらず、調理場にいるのか店員さんもいない。
外には密かに人払いの結界を張っているのでお店に入ってくるような輩はいないはず。
気の毒なのは店員さんだけど、今の騒ぎを聞きつければ、危険を感じてこっちに来ることも有りますまい。
店が壊れたら男爵に払ってもらえば問題ないだろう。
問題あっても、今回は裕太に全部罪を被ってもらうからあたしには問題ない。
あたしは久々に暴れられると心浮き立つのを抑えながら、裕太から離れて間合いを計る。
「色々聞かなきゃなんない事があるんだけど……まずはいっぺん死んでもらおうか」
悪役感丸出しでそう言い放つと、裕太は再び銃を構え……
ガシャン
そして激しい衝突音の後にその場に崩れ落ちちゃった。
うつ伏せに倒れた裕太の後頭部には、真っ2つに割れた鉢植えと、それに植えられていたのだろう一輪の花が、まるで裕太の頭を苗床にしたかのように綺麗に立っていた。
まさか隠善に味方がいるの?!
って思って慌てて振り向くと、そこには真っ赤な顔で怒りにうち震えているここの店員らしい女性の姿。
もしかしてここのお店自体が隠善『達』のアジト?! でも文ちゃんと裕太は単独犯だって……。
混乱して裕太とその女性をキョロキョロ交互に見やっていると、突然ガシャンと音がする。
「しまった!」
慌てて振り向くと、窓を蹴破って逃げ出す隠善の後ろ姿が目に留まる。
取り敢えず追いかけようと床を蹴ると、風切り音が背後から襲い掛かってきた!
あたしがとっさに右に避けると、その場をすごい勢いでフォークが通り過ぎ、そしてそのフォークは窓を割って外に飛び出し、通行人の目の前で街路樹に刺さってビィィィンと震えている。
通行人がギャーと言いながら逃げていくのを背に聞きながら、あたしはゆっくりと振り返る。
「逃がしゃしないよ……」
地獄の底から這い出てきた鬼女のような声を絞り出すその女性に、あたしは自分の考えが間違っていなかったのだと悟らされる。
やっぱりここは隠善『一味』のアジトで、この女性も隠善の協力者なのだ。
文ちゃんが何も言ってなかったのは気になるが、誰にだって間違いや勘違いはある。
「あんたら……」
女性はカウンターから出てると、そう声を絞り出しながらあたしの方へと向かってきた。
あたしは他にも協力者がいるかもしれないと、周りに視線を配りつつその女性と対峙する。
女性が、手にした包丁をあたしに向けると、その場の緊張感が最高潮に高まっていった。
「あんたら……こんなに店を滅茶苦茶にしてどういうつもりだい!!」
「……へ?」
予想外の一言に、あたしは思わず間の抜けた反応を返した。
「『へ?』じゃないわよ! 椅子は壊すわ、食器は割るわ……」
女性は、あたしに向けていた包丁の切っ先を、裕太の銃の流れ弾が当たって穴のあいた椅子や、隠善がテーブルに飛び上がったときに割れた食器を向けそう言うと、ビシッとあたしに切っ先を向け、更に言葉を重ね始める。
「花瓶は割るわ! 窓を割るわ!!」
いやそいつはあたし達の仕業じゃないし。
そう思ったが、火に油を注ぐことになるのは目に見えたから、あたしはとっさに名刺を取り出しそれを差し出す。
「大変失礼いたしました。あたしはこういう者でして……この場で破壊された物に関しては、後日こちらに請求していただければ、即日修繕致しますので」
時間が惜しかったので、あたしにしては珍しく、そう下手に出てその場を取り繕おうと試みる。
すると、女性はビュンと包丁を一振りし、あたしの名刺を吹き飛ばす。
「……な、何すんのよ! せっかく穏便に済まそうと思ったのに!!」
「あたしは乞食じゃないんだよ! それではいそーですかと済ませられるとでも思ったかい?! ここは飯屋だ……さっさと注文して修繕費分、しっかりお金を落としてお行き!」
「いま時間がないのよ! 彼奴が逃げちゃう!」
「んなこたぁ、あたしの知ったことかい! だいたいあのお客さんはね、ここの大事な常連さんなんだよ!」
「彼奴は妖怪で尚且つ殺人犯なのよ!」
「あたしにとっちゃ、お客さんは神様なの! お客さんが妖怪だろうが殺人犯だろうがペチャパイだろうがくるくるパーだろうが関係ないね! うちで飯を食ってくお客さんはそれだけで正義だ!」
「うきぃぃぃ! ペチャパイは関係ないでしょうがぁぁぁ!!」
あたしが地団駄踏んでそう言い返した所で、裕太が後頭部を抑えながら起き上がる。
「裕太も何とか言って!」
「ペチャパイにも愛の手を。あ、餃子入り中華カレーで」
「あんたは話が分かるようだね。餃子入り中華カレー毎度あり」
「がぁぁぁ! 何事もなかったように注文するな! 脳味噌腐ってんじゃない?! つーか『ペチャパイにも愛の手を』って意味わかんねーし! だいたいそいつ敵かもしれないでしょ!? て言うか敵でしょ?! て言うかあたしをペチャパイだなんて敵に決まってるぅぅぅ!!」
「あ、あっちはチキンカレーで」
「あいよ。チキンカレー毎度ありー」
「何事も無かったかのように話を進めるなぁぁぁ! しかも勝手にたのむな! あたしはモツ煮込みカレーだぁぁぁ!!」
「チキン改めモツ煮込みカレーね。毎度あり~。カウンターにでも座りな。注文した以上あんたらはこの店の客だ。最高の料理を作ってやるよ」
前書きにも書きましたが、前サイトにアップしてあったのは、ここまでです。
これ以降は完全新作になりますので、更新はかなり緩やかになると思います。
何しろ、設定資料やバックアップしてあったメモリーが紛失してしまったので(´;ω;`)
暫くは、カクヨムとの同時更新の「怠惰を冠する研究者」優先の更新になりますのでご了承下さいまし。
この作品は五部構成のつもりで書きはじめたのですが、前述の通り設定資料が紛失しておりますので、どこまで続けられるかは分かりません。
ただ、それぞれのキャラについて思い入れがあるのでなんとしてでも完結まで書き上げたいと思いますのでお付き合いお願い致します。
ブクマ&☆評価よろしくお願い致します。




