第三章 大妖怪は喧嘩する②
寝坊しました( ;∀;)
「リロード……『なんちゃって重力流』」
この俺、水無月裕太の唱えたコマンドワードに応えて、俺の組み上げたシステムが立ち上がり、瞬時にデータがアップロードされて、指定の術が解き放たれる。
ジリッと微かな電子音と共に空気が微かに帯電し、俺を見失っていたファザコン大妖怪さんを取り囲むように魔方陣が生み出された。
「むおぅ!」
突如襲い掛かる重力流に、流石のファザコン大妖怪さんも脚を止めざるを得ないだろ……あれ?
「はっ……にぁぁぁ!」
気合い一閃、ミーコさんが妖気を噴き上がらせると、あっさり重力流が吹き飛んでしまった。
「ふふふのふ……あたしを止めるには、ちーとばかり何かが足りなかったようね!」
「う~ん……出力不足か。重力系はプログラミングが難しそうだな」
重力系は、術の中でも複雑で、データ化するに当たっても容量が重くなったもんだから色々削ったんだよな。
「でも……」
「聞いてやらん!」
俺の言葉を遮って、俺に詰め寄るファザコン大妖怪さん。
「逃がさ……にゃふっ!」
「……でも足止めには役立つよ~って言おうとしたの。人の話はキチンと聞かなきゃね~ファザコン大妖怪様」
「がぁぁぁ! ムカつくわぁぁぁ!」
怒り狂った大妖怪さんは、再び重力流を吹き飛ばし、飛び退く俺を追いかけてくる。
「逃がす……うぎっ! ……待ちなさ……あべしっ! ……あんた……にゃぎっ! ……だぁぁぁ! し・つ・こ・い……わぁぁぁ!」
立て続けの重力流に、流石の大妖怪さんも足を止め、その場で……うげっ!
この妖気、洒落にならん!
ミーコさんを中心に、凄まじい妖気が渦を巻き、殺気の籠もった呪火が練り出される。
前にも言ったが、ミーコさんの呪火は攻防一体の極めて優れた妖術だ。
正直、これを完全に防ぎきる自信はない。
これを防ぐには、有る程度のダメージは覚悟して、呪火に籠もった妖気を散らしめながら、併せて物理的に遮断しなければならないのだ。
「リロード!『封魔の曼荼羅』!」
この術は、物理的に呪火を防ぎつつ、妖気を分散させ……
「なっ!」
「甘ぁぁぁい! あたしがいつまでも同じ場所に留まってると思うなぁぁぁ!」
封魔の曼荼羅に行く手を遮られる筈だった呪火が、障壁をすり抜け俺に向かって伸びて来たのだった……やべぇって!
「グァァァァァ! ……ってあれ? 熱くないぞ……」
一瞬にして呪火に包まれた俺は、凄まじい高温に身を焼かれ、痛みと渇きで身悶える……筈だったんだけど熱くないぞ?
ミーコさんの呪火は、その地に渦巻く怨念をその身に取り込み、自分の身体と妖気をフィルター代わりにして浄化し、闇の炎へと昇華して放つ妖術で、炎の割にはその燃焼に酸素を使わず代わりに妖気を使い、その燃焼温度は鉄板をも気化させる程の高温で、魔術・妖術・霊術による防御障壁を叩き割る特性を持っている。
なのに……あ……
「……あ……あぁぁぁ……」
俺は全身から力が抜け落ち、膝から地面に崩れ落ちる。
これは……
「ふふふ……抜かったわね裕太」
その俺を見下ろしながら、大人気ない得意気な笑みを隠そうともしない大妖怪さんがそう声を掛けてきた。
「これは見た目は呪火だけど、実は精神に直接攻撃する妖火なのよ。しかも、奪い取った精神エネルギーは、あたしが取り込みお肌に潤いをもたらすナイスな特典付き! あたしの肌年齢の糧となりなさい! このシスコン!」
「俺は……シスコンじゃ……ない……」
「シスコン! シスコン! シスコ~ン!」
「ぐ……」
くそぉ、このファザコンめ……目に物見せたる……
「うりうりうり~、シ・ス・コ・ンちゃ~ん、何とか言ってみろ~」
「……ぅが……」
呪火改め妖火が収まり、息絶え絶えの哀れな俺をつつきながら、ペチャパイ大妖怪がそう俺を挑発する。
俺は何とか最後の力を振り絞り、ファザコンでペチャパイな大妖怪にバレないように罠を張ると、萎える右手をなんとか伸ばす。
「んん? どうしたどうした降参かえ?」
「……ぅ…ぁ……」
「うひゃひゃひゃひゃ、特別サービスじゃ、聞いてやるからそちの要求しっかりともうしてみよ」
そう言って、ペチャパイ大妖怪が顔を近付けてきたその瞬間
「……ぅりゃ……」
「にゃひっ!」
俺は再び重力流を生み出し、ペチャパイの動きを止めると、ペチャパイを巻き込みながら寝返りを打ち、覆い被さって来たところで罠を発動させた。
「……」
「うっ! うぅぅぅぅぅ!」
どうだペチャパイ! 俺はそんなに簡単に負けてなんかやらないぞ!
重なり合う俺とミーコさんを中心に、一つの魔方陣が描き出されていて、それがミーコさんから抵抗する力を奪っている。
きっとミーコさんは全身から力が抜け落ち、重い倦怠感を味わっていることだろう。
そう……この術は、対象から精気を抜き取り自らの力へと変換して吸収する、さっきミーコさんが放った呪火と同種の効果をもたらす術なのだ。
ただ、ミーコさんの妖火と比べてかなり使い勝手が悪い。
まず、第一に相手に触れている必要がある。時間は長ければ長い方がよい。
命懸けの戦闘中に、長時間触れ続ける状況を作り出さなくてはならないってだけでも術としては致命的なのに、この術には更に致命的な欠点がある。
なんと、最大限に術の効果を発揮させるには、触る場所も選ばなければならないのだ。
賢明な方なら既にお気付きであろうが、この術の原型となっているのは人命救助の基本的基本であるマウス・トゥ・マウス……つまりは口移しなのだ!
戦闘中に口移しで相手から精気を奪うなんてこと、本当に出来ると思いますか?
つーか、相手が野郎だったらまずこの術を選択する事はないであろう。
女であっても、ミーコさんに見つかったら後で何をされるわかんないから使えない……要するにこの術は、対ペチャパイ大妖怪・金城美依子専用の術なのだぁぁぁぁぁ!
いや、まさかホントにこの術を使うことになるとは思わなかったなぁ。
よく考えると、今の状況を端から見ると、カップルがチチクリ合ってるようにしか見えないな。要するに抱き合ってキスしてる訳だから。
「うう……」
ミーコさんから完全に抵抗する気力を奪った事を確認した俺は、その唇から自分の唇をそっと放し、力の入らない様子の彼女の体を支えながら身を起こした。
そして、ミーコさんを地面に座らせてひと息吐くと、俺はワザと得意気に話し掛けた。
「あら? どうなさいましたか大妖怪様?」
「うぅ……」
俺の問い掛けに、ペタリと座り込んんだ状態で地面に両手を突いて俯き呻くミーコさんの様子に、俺の気分も幾らか晴れる。
つーかはっきり言って気分爽快。
「ククククク……最期の最後で油断したね? これでご主人様は俺って事で決定ね、さて、勝敗も決したところでそろそろ向こうに戻るとします……ん?」
そう喋りながら立ち上がろうとしたところで、ミーコさんが俺の袖を掴んでそれを止める。
顔を背けてるから表情までは見えないが、よく見ると頬がピンクに染まっていた。
う~ん……もしかしてスイッチ入っちまったか?
「ミーコさん?」
俺がそう声を掛けながらミーコさんの傍らに再び膝を突くと、彼女がゆっくりと頭を上げる。
その瞳は軽く潤み、目元から頬の辺りをほんのりとピンクに染め、半開きの口元からチラリと舌を覗かせた、ぼんやりとした表情で俺に何かを訴えかけていた。
やべ……この表情……ツボった。
よく考えれば、ミーコさんは下着にTシャツ、俺はジーンズに上半身裸といった風体だ。
ミーコさんにスイッチが入ってもおかしくない……と言うか俺もスイッチ入った。
俺はミーコさんの頬に手を添えて顎を引き上げ、再びその唇に軽くキスをする。
そして、彼女の身体をそっと地面に横たえると、拳を口元に当てて真っ赤になりながら視線を外しているミーコさんに覆い被さっていったのだった……
ん?
んん?
「「「あっ」」」
ふと視界に入った人影に、俺とミーコさんが視線を送ると、そいつとばったり視線がぶつかった。
おい……
「堤下ぁぁぁ!」「手下Lぅぅぅ!」
「ひえぇぇぇ! 堪忍ッスぅぅぅぅぅ!」
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