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第三章 大妖怪は嫉妬する①

時間設定は、間幕「月下の白刃」の少し後です。


「いやぁ不思議だわ~……こん中に赤ちゃんが詰まってんのねぇ……。ねぇ薫ちゃん。自分の中に、別な命が入ってるってどんな感じなの?」


 ミーコさんは目を輝かせながら、妊娠6ヶ月目でお腹の膨らみが多少見え始めた駒野改めて仁藤薫にそう問い掛けた。


 薫は、ウエスト部分が緩やかなマタニティルックに身を包み、軽く伸びた髪の毛を右肩へと流した女らしい姿で、にこやかな笑みを浮かべてこれに答える。


「僕も不思議です……とても不思議で……それでいて温かい……」


 両手を自分の下腹部に押し当て、温かい表情でそう返す薫嬢。


 今の幸せそうな薫の姿からは、常にスーツで短髪の男装で表情の薄かった嘗ての姿は想像できない。


 いやぁ、女ってのは変われば変わるもんだね。


「……時に薫ちゃん……」


「は、はい?」


 急に真面目な顔になり、薫の方を眼光鋭くジロジロ見ながら周りを歩き始めたミーコさんの様子に、薫はビクンと体を震わし背筋を伸ばす。


「薫ちゃんって……「ひやぁ!」……何カップ?」


 後ろからワシッと薫の胸を掴みながら、ミーコさんは真面目な顔で……と言うかやや嫉妬の混じった……と言うか、はっきりと嫉妬が籠もった口調でそう尋ねた。


「ちょ、ちょっと金城さん! んぐ……あっ……」


 おいおい感じてどうする薫ちゃん。


「ちょいと前まではあたしとどっこいどっこいだったはずだよね? いつの間に育ったのじゃ?」


「ひやぁっ! や、やめ……」


「うりうり……恥ずかしがらずに白状せぃグベシッ!」


「……はい、そこまで。胎教に良くないでしょ?」


「……」


 花瓶を頭にめり込ませて床に沈み込み、車に弾かれたヒキガエルに瓜二つの格好で倒れ込んでるミーコさんに、俺はそう注意を喚起する。


 胎教に良くない……うん、俺にしては実に的を得た発言だよな?


「……胎教云々以前の問題じゃないッスか?」


「そう不満を漏らす堤下栄……通称手下Lに、俺は瞬間的に殺意が芽生えたのだった……」


「だぁぁぁぁぁ! 別に不満を漏らしたつもりはないッスよぉぉぉぉぉ!」


「おっとイカン。無意識の内に心の声が口を突いて出てきたようだ。気を付けなければ、気を付けなければ。不意打ちは不意を打つから不意打ちなんだしな」


 真っ青になってガクガクと震え出す堤下を、最近組織に加入した元鎌鼬の樹ちゃんが無言で励ましている姿が愛らしい。


 ちなみに未だヒキガエルなミーコさんの隣では、雪女の雫ちゃんが何故かうっとりとした表情で添い寝をしている。


 そこで唐突に部屋の入り口の戸が開き、薫嬢の旦那が顔を出す。


「……テメー等何やってんだ?」


 部屋の中をぐるりと見渡し、状況が全く理解できなかった仁藤が眉をしかめてそう尋ねてきた。


「いやね、そこの大妖怪様がね、自らのライバルと目していた相手が遙か先へと進んでいってしまったことにショックを受けてね、深く沈み込んでしまってね……」


「ちぃぃぃがぁぁぁうぅぅぅしぃぃぃぃぃ!」


 と、そこでようやく回復した大妖怪さんが、傍らの雫ちゃんを跳ね飛ばしながら起き上がり、俺の有難い解説に異を唱えてくる。


「……ああ、要するに、薫の胸のサイズに嫉妬した猫女が薫に絡んだもんだから、あんたが気を利かせて止めてくれたって訳だな?」


「概ねその通り」


 いやぁ、今の説明で良く分かったな……仁藤も成長したもんだ。


「がぁぁぁぁぁ! あんなんでっかくなったら誰だって嫉妬するってぇ!」


 そうか? いやそれより、嫉妬してるのを否定しないミーコさんは潔いなぁ。


「はん……何を勘違いしてやがる。あんたが薫をライバル視することそのものが間違いだろが」


「ぬあんですってぇぇぇぇぇ! あたしと薫ちゃんは微乳は美乳同盟結んでんのよぉ!?」


「はん……モノホンの洗濯板のあんたと違って薫はなぁ……」


「ちょ、ちょっと基……」


 何故か焦ったように(普通は怒らん?)仁藤を止めようと試みる薫だったが、仁藤はそれを無視して勝ち誇ったかのようにミーコさんにビュッと指を突きつけ口を開いた。


「薫は男装の為にサラシを巻いていただけで、普通にCは有るんだよ!」


 ……それは自慢できる程の大きさなのか?


 ふと見れば、巨乳コレクター堤下は哀れみにも似た視線を仁藤と薫に送っている。



 しかしミーコさんはそうは思わなかったようで仁藤の言葉に随分とショックを受けている。勝ち誇る仁藤と節目がちに申し訳なさそうにしている薫嬢を、愕然と見詰めながらよよと後退る。


「そんな……そんな、薫ちゃん! あたし達はあの時、固い絆で結ばれたんじゃなかったの!?」


 そら、あんさんが無理やり結んだ絆でしょうが。


 案の定、薫嬢は困ったように視線をさまよわせている。


 それを見たミーコさんは、ようやく全てを悟ったのか、がっくりとうなだれながら口を開いた。


「……分かったわ……全部あたしの一人相撲だったわけね……」


 今頃気付くなよ……何てツッコミは……


「今頃気付いてんじゃねぇよバァァァカ!」


 あ。


「ゴミはくずかごに捨てましょう!」


「ウゴッ……」


 仁藤はその口を、意味不明なセリフと共にミーコさんが放り投げた湯呑み茶碗で塞がれながら、その場にバタリと崩れ落ちる。


 まぁ自業自得だな。


 その後、ミーコさんは何事もなかったように、元のうなだれた体勢へと戻り言葉を続ける。


「……薫ちゃんは、あたしを哀れんで話を合わせてくれただけなのね……」


「い、いえ、そんな事は……」


「言い訳はいいわ。責めるつもりもない。ただ……」


 寂しげな表情で視線を反らして言葉を続ける大妖怪さんの様子に、薫嬢はゴクリと息を呑む。


「……ただ、一つだけ答えて欲しいの……」


「は、はい!」


「……何カップ?」


「へ? あ、はい! い、今はDカップです……」


 間の抜けた質問だったけど真剣な表情でされたもんだから、思わず真面目にそう答えてしまう薫嬢。


「そう、D……最早巨乳の仲間入りね、薫ちゃん……さぞかしあたしの事が哀れに見えるでしょうね……」


 今更? ミーコさんの鳥取砂丘ばりの胸元については、みんな既に十分に理解してるって。


 ……なんて口が裂けても言えないけ……


「今更何言ってやがる! テメーの胸が金床だなんて事は……ウガシッ!」


「空き缶はくずかごに!!」


 そのミーコさんの言葉通りに口にビール缶を放り込まれて吹き飛ぶ仁藤……空き缶じゃなくて中身は入っていたらしい。


 しっかし仁藤……その思い付いたセリフをそのまま口に出さずにはいられない性格は、早く何とかしないと命を落とすぞ?


 ……いやマジで。


 ミーコさんは、旦那が吹き飛びオロオロしている新妻に詰め寄り、にっこり不気味な笑みを浮かべて再度口を開いた。


「……どうやって大きくしたか教えて?」


 どうしたもこうしたも、妊娠してるからに決まってるだろう。


「あああああの……ぼぼ僕は、に妊娠してるからで……」


 冷や汗を垂らしてどもりながらもなんとかそう答える若奥様……偉いぞ。


「……やっぱりそうだよね……」


 ミーコさんはため息を尽きながらゆっくりと体勢を戻し、そしてやっぱりゆっくり俺の方を振り向いて口を開く。


「……だってさ」


「だってって?」


「だから妊娠すればおっぱい大きくなるんだって」


「そりゃ……」


 そんな事は言われるまでもない。そんなものは世の中の常識だ。


 俺が、ミーコさんが何が言いたいのか理解できず、ポカンと口を開いた我ながら間の抜けていると思える表情で見詰めていると、ミーコさんは突然ガシッと俺の肩を掴んで、にっこり笑みを浮かべて口を開く。


「協力してね」


「はい?」


「今夜は寝かせないわ」


 音符混じりに告げられたその瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。


 『ヤバい! 喰われちまうぞ早く逃げろ!』と、持って生まれた野生の勘が、自分自身に注意を喚起する。


 俺はミーコさんの両手を振り払い、急いで周り右……


「逃がすと思う?」


「……思わない……」


 ……して逃げ出そうと思ったら、襟首ガッチリ掴まれちまったい……。


 哀れな俺はそのまま拉致され連れ去られる。


 ズルズルと引きずられながら部屋の中を見渡した俺の目に映ったのは、人間くずかごと化してる旦那とそれをオロオロ見ている新妻、襲い掛かるロリっ娘から逃げ惑う手下L、そしていつの間にかスリ取っていたらしい大妖怪さんのハンカチを鼻に当て、うっとりとしている変態雪女の姿……。


 常人であれば目と耳を塞ぎたくなるような騒がしい一室の中で、只一人真面目に与えられた仕事をこなす人化した白蘭のカタカタとキーボードを叩く音が異質に鳴り響いていたのだった……。











 あ! あれはロリータファッション専門サイト!


 白蘭のやつ……最近やたらとロリータファッションに拘ってると思ったら、あんなサイトを見てやがったのか……。




薫嬢は男装を止めましたが、自分の事を「僕」と呼ぶ事が癖になっているのでなかなか抜けません。


そして、暫くはほんのちょい役です。


白蘭は、裕太が実験で人化させたら本人が気に入ったので普段は人型を取ってます。



面白かったらブクマ&☆評価宜しくです。

ブログ&twitterも宜しくです。

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