間幕 月下の白刃①
スピンオフ堤下栄編
「うぃ~ッス……どうせ俺は手下Aッス……いつまで経っても手下Aッス……ヒック……どうあがこうと手下Aッス……俺は永遠に手下Aッスぅぅぅぅぅ! ……ヒック……」
俺の名前は手下A……じゃなかった…堤下栄ッス。以後お見知り置きをッス。
水無月の兄貴に誘われて今日も合コンに参加したけど、見事なまでの惨敗を喫してしまったッス……。
何故ッスか? 何故なんでしょうか?何でいつもいつも……美味しいところは兄貴にさらわれちまうんスかぁぁぁぁぁ!
金城さんって恋人がありながら、何でいつもいつもいつもいつも! 一番の綺麗どころを持ってっちまうんスか兄貴はぁぁぁぁぁ!
……あの眼鏡の帽子の娘は可愛いかったッス……。
いつも帽子を深めに被っていて、口数が少なくて控えめで……何よりあの丸い大きめの眼鏡が彼女の清楚な雰囲気をより一層引き立てていて……兎に角、金城さんとは正反対な可憐さを秘めたあの彼女に、俺は心を奪われちまったッスぅぅぅぅぅ!
……でもいつも兄貴の側にいて、まだ一度も話しかけたことがないッス……。それどころか、いつも声が小さいから、まともに声を聞いたこともないッス……。
でも、そんなシャイでお淑やかなところが、俺のハートをズキュンと打ち抜いていくんスよぉぉぉぉぉ!
今度兄貴に紹介してもらおうかな? ……金城さんにバラされたくなければって言えば、案外簡単に紹介して貰えるかも……い、いやいやダメッス! そんな事したら後でどんな報復が待っているか……ブルブル。
「はぁ……どうすればいいッスかねぇ……ん?」
とぼとぼと歩いていると、突然俺の行く手を一つの人影が遮ったッス。
視線を上げると一人の少女が……何故か右手を差し出して何かを催促してきてるッス。
……お手。
ドゴッ
「うごっ……な、何しやがるッスか……」
少女はいきなり俺の下腹部に膝蹴りをかましてきやがったッス……まだ一回しか使ってないのに使いものになんなくなったらどうしてくれるッスか……あ、何か虚しくなって来たッス……。
シクシクと泣き崩れて悶絶している俺に、少女また手を差し出して何かを催促してくるッス。
年の頃は……中坊位ッスかね?
真っ黒な長い髪をポニーに結い上げて、キャップ帽を被ってるッス。
下はデニムのショーパンに黒のタイツ、上はジージャンで中にはイラスト入りのTシャツを来てるッスね。そしてズイッと手を差し出して来てるッス。
顔は小顔で、ややつり上がった茶色がかった黒い瞳から少し冷たい印象を受けるっすけど、まぁ文句無しに美少女の部類に入る少女ッス。
……あ! 俺にはその手の趣味は無いっすよ? あくまで一般論ッス。
その美少女が片手を差し出して催促してくる様は、世の美少女愛好家なら涎を流して驚喜するだろうッスけど、この俺、堤下栄にそんなものが通じると思ったら大間違いッスよ?
俺は毅然と……財布の中の一万円を一枚手渡したのだったッス。
シクシク。
その美少女は、俺の渡した一枚の一万円札を不満そうに見つめると、ため息を吐いて腰のポシェットにそれを押し込んだッス。
タダで貰っておきながら、なんつー態度ッスか!
さすがにこれ以上はつき合いきれないと思い、俺は踵を返して歩き始めたッス……が
むんず
「……なんスか? これ以上びた一文出なッスよ」
歩きかけた俺を、右手を掴んで引き止める少女に、極力冷たく聞こえるように意識して、そう言ったッス。これ以上は彼女への教育上、良くないッス。
「……」
しかし、少女は俺の言葉には耳を貸さず、グイグイと俺の手首を引っ張りながら人気のない裏路地へと足を進めて行ったッス。
「ち、ちょっといきなり何スか?! 俺はこれ以上、君と遊んでるわけには行かないッス! 離しなさいッス!」
「……」
聞こえているのかいないのか、やはり無言でグイグイ俺を引っ張るッス。
振り払っても良かったっすけど、それはそれで大人気ないと思って、俺は黙って着いていくことに……ってここはラブホ街じゃないッスか!
「な、何考えてるんすか!? 俺はそんなつもりでお金渡した訳じゃないッス! その金はあげるから離して欲しいッス!」
突然の展開に、俺は『愚か』にも『大声』で彼女の行動を止めようとしてしまったッス!
気付いた時には……人だかりがぁぁぁぁぁ!!
違うッス! これは俺の意志とは関係ないッス! そんな、俺に犯罪者見るような視線、向けないで欲しいッスぅぅぅぅぅ!!
「や、やめるッス! これ以上俺の好感度を下げるような行動は謹んで……」
「ああ……ちょっといいかね?」
少女ともみ合ってるところを、誰かに肩を叩かれ、声を掛けられたッス。
機械仕掛けの人形の様にキキィ~っと振り向くと……
「はい、私はこういうものね。君、こんないたいけな女の子を何処に連れ込もうとしているのかね?」
振り向けば警察手帳ぉぉぉぉぉ!
しまった! 新手の美人局だったッスか!?
俺は……気付くと風の精霊に呼び掛けて目眩ましをし掛け、少女の手を振り払ってその場を走り去っていたッス……。
神様、何故ッスか?
俺は何も悪い事してないッスよ?
……手下Aだからッスか?
手下Aである事が悪いんスか?!
手下Aがそんなにいけないことッスか?!
手下Aだって生きてるんスよ?!
手下Aにだって幸せになる権利ぐらいあるんじゃないッスか?
神様! 手下Aに愛の手をぉぉぉぉぉ!!




