間幕 仁藤基⑤
仁藤のグラサン設定をすっかり忘れていたので、戻って書き足してます。
ブクマ増えてて嬉しす。・゜・(ノ∀`)・゜・。
「基……よく無事で……」
「あんまり無事でもねーけどな」
仁藤は胸ポケットからサングラスを取り出しながら苦笑し、そう返す。
火之迦具土神の力がなければあの場を切り抜けるのは難しかったであろう事が、彼にそう言わせたのだった。
駒野は仁藤の言葉に、更に驚きを深くしてまじまじと狩れを見つめる。
「……な、なんだよ……」
「……基……なんだか少し変わりましたね……」
少し感慨深げにそう口を開く駒野。
今までの言動から言えば、そう思われてもやむを得ないと、サングラスを掛けながら仁藤は内心苦笑する。
「……待たせたな」
その言葉に目を丸くした駒野だったが、その言葉の意味に気付いたのだろう、一つ息を吐き、にこりと笑って口を開いた。
「いえ……それどころか、この日が来るだなんて思いもしませんでしたよ」
イタズラっぽくウィンクしながらそう返してくる彼女に、コイツも変わったな……と仁藤は思う。昔はこんな冗談も言えないくらいクソが付くほど真面目だったのだ。
「ちげーねぇ」
仁藤は頭をポリポリと掻きながら、視線を逸らしてそう応える。
その時、突如として響き渡る宗家の笑い声。
「アッハッハッハッハッ! なるほど……少しは成長したようだな。しかし、今のはまだまだ序の口だ……大口を叩くのは、次の一撃を受けてから……ってオイ! 貴様何処へ行く!」
「……薫、行こうぜ。俺の用はもう済んだ」
「自分勝手なのは変わってませんね。僕は父上に呼ばれてここに来たのですよ? 僕の用はまだ済んではいないというのに……」
ため息を吐いて……しかしどこか嬉しそうな響きを載せて駒野はそう言葉を返した。
「腹減ったんだよ。せっかくここまで来たんだから、あそこ寄って行こうぜ?」
「またウナギですか? 僕は今、タシロ屋のショートケーキが食べたいんですが……」
「帰りに買って帰ればいいだろう。職場の連中にも、なんか買って帰んなきゃなんねぇし……」
「珍しいですね。貴方がそんな風に他人に気を配るなんて……」
「い、いや……今回は何かしとかないと、立場的にやべぇ……」
そう言い合いながら、戸口の方へと足を向ける二人。
「こ、こら! 待たんか貴様等! 儂の話しはまだ済んではおらぬ! 薫! 大体お前は儂がこの場に呼んだのであろうが! 儂の話を聞かずにこの場を立ち去ろうとするは何事か!」
「……父上、お話しは日を置いて改めて……」
少し考え込んで、そう答える薫だったが、宗家がそれで納得するはずもない。
「馬鹿者! 宗家たるこの儂の言を差し置いて、男の元に走るとは何事か!!」
「……フゥ……分かりました。基、今日のところは父上……」
そう言いかけた駒野を制して一歩前に進み出ると、仁藤は宗家に向かって口を開いた。
「……薫の腹には俺の子が居る」
「ち、ちょっと基! なななんでその事を……」
慌てたように俺の言葉を遮ろうとする駒野だったが、仁藤は構わず続ける。
「体調面を考慮して、話しは後日にしてもらいてぇ」
最近、駒野を悩ませていたのはこの事だった。自分がもっとしっかりしていれば、彼女もあそこまで悩まなかっただろう……そう仁藤は思った。
「貴様……《駒野の子》を授かるという事がどういう事かを理解しておるのか?」
先程までの、高圧的だがそれ程威圧的では無かったその気配が一変し、冷厳且つ刃物のような明らかな鋭い殺気が仁藤の身を貫く。
「基……何でこうもっと言葉を選べないんですか……」
「悪いが性分だ」
ため息を吐く薫にそう言い返し、サングラスを外して胸ポケットにしまって再び独鈷鈴を手にする仁藤。
あのまま何食わぬ顔で立ち去っても良かったんだが、思い直して事実を告げる事にした。
一つのけじめとして。
事実を知った宗家が俺を許せねぇっつぅのであれば、それを受け止めるのが筋ってもんだろう。
「薫は下がってろ」
「出来るわけないでしょう!」
「自分一人の身じゃねぇんだから下がっててくれ」
「……その言い方はズルいです……」
そう言い合っていると、宗家がズイッと足を進めてくる。
「もう一度問うぞ? 分かっておるのか?」
「……《駒野の子》じゃねぇ……俺と薫の子だ」
俺はそう言い返すと、独鈷鈴を目の前に掲げ、戦闘の構えを取った。
「やはり分かっておらぬな……望む望まずに関わらず、駒野家の血を引く者は、駒野家の一員であることを宿命付けられるのだ! 愚か者が!」
仁藤はこの事に関して宗家と言い合うつもりはなかった。所詮、家に捨てられた自分の様な人間には到底理解できない発想だからだ。多分この件に関しては、駒野とも平行線を辿るだろう。
仁藤は無言で宗家の視線を受け止める。
「我が一族の名を汚す愚か者よ……貴様は今ここで……」
「まぁ良いではありませんか」
宗家の殺気が最高潮まで強まったその瞬間、その台詞を遮る形で、この場の雰囲気にはそぐわない間延びした女性の声が鳴り響き、その声が3人の動きを瞬時に凍り付かせたのだった。
「……で、義母さんが出て来てその場は治まったわけだ?」
「はい……」
駒野はため息を吐きながら、美依子の問いに頷いた。
(命懸けの説得は回避されたから、俺としては良かったんだが……)
「いや~、薫ちゃんのお父さんもやるわよねぇ~。自分と干支がひと回り以上離れた若い奥さん貰っちゃうんだもん。その上、子供まで作っちゃうなんてまだまだ若いわ~」
仁藤が買ってきたタシロ屋のプリンを至極満足気にパクつきながら、何だかやけに嬉しそうにそう口を開く美依子。
「笑い事じゃありません! 父上は亡き母に生涯後妻は設けぬと誓いを立てていたのですよ?! それを、まだ二年と経たぬ内から……しかもその相手は僕の友人で……」
そう……あの時現れた女性は宗家の後妻に収まった駒野の友人で、先妻……つまり駒野薫の母親が死んだ後に駒野家の家政婦としてやってきて、宗家に見初められて恋仲になったんだとかなんとか。
しかも既に妊娠6ヶ月。
事態を把握した娘の冷たい視線を受けながら、それまでの威厳もどこへやら、しどろもどろになって全てを語った宗家の姿は、仁藤には滑稽であるよりも何やら哀れに思えた。
「まあまあまあ……お父さんだって一人じゃ寂しかったんでしょ? それに宗家って立場だったら跡継ぎが薫ちゃん一人ってのも問題だと思うけど? 年の差だって気にするほどのもんじゃないって」
「まぁ金城さんからすれば、駒野のお父さんだってまだまだ若造ブヘヒッ……」
「……殴るわよ?」
と、チャレンジャーな堤下に踵落としをかましつつそう言い放つ美依子。
学習能力がない堤下の言動に、もしかして暴力的なツッコミが快感になってるのではないかと、自分の言動を棚に上げて心配する仁藤。
「……良くないですよぉ……僕にも世間体って物が……」
「でもお陰で基ちゃんとの仲、認めてもらえそうなんでしょ?」
「それはそうですが……でも普通、6ヶ月にもなってから言う事じゃないと思いません?」
「娘に言うか言わないかで悩んだ月日でしょ? 駒野家の宗家と言えども人の子よねぇ」
「それでいて、僕達の事は許さないっておかしいじゃないですか……」
「そりゃぁ自分の娘のことだもの……こんなホスト崩れの見た目な、チャラついた男を前にしたら、誰だって二の足踏むわよ」
「悪かったな……ホスト崩れの様相で」
サングラスを抑えながらそう言って、二人のやり取りから背を向ける仁藤。
美依子に、今回デカい借りを作ってしまった彼は、何を言われても反論出来ない。
それに、仁藤からすれば駒野の言い分より、美依子が言ってることの方が理解できるのだ。
美依子はそんな殊勝な仁藤の様子につまらなそうな視線を送ると、再びプリンをパクつきながら、ターゲットを駒野に変えて話し始めたのだった。
仁藤はベランダに出て、タバコに火を点け遙か遠くをぼんやりと眺めていた。
『俺は変われたんだろうか?』
その疑問が、未だに彼の中で燻っていた。
しかし、美依子にからかわれながらも笑顔を見せてる彼女を前にしたら、そんな疑問は何の意味も持たないという事に彼はようやく気付く事が出来たのだ。
変われたかどうかは大した問題ではない。
(俺はただ、あの笑顔を守るために能力を振るえればそれでいい)
茜色に染まった西の空を眺めながら、仁藤は心にそう「ブベシッ!」
「……何、一人で染まってんのよぉ……一人で締めるなんて百年早い……お~い、聞いてるか~?」
仁藤の意識は、美依子の踵を頭部に食い込ませたまま、いつか殺したるというセリフと共に深い闇へと引きずり込まれたのだった……。
これにて間幕・仁藤基は終了です。弱い男が強くあろうとする理由なんて、女の為って決まってる。
そんな王道なお話を書きたかったのでそう仕上げた記憶があります。
10年以上前に書いた作品のリニューアルなので、色々考えさせられましたが、本筋は変えずに文体と仁藤の能力を直してアップしてます。
次は堤下栄が主人公のスピンオフです。
分量は仁藤の倍以上あった作品でしたので、リニューアルに時間がかかるかも(^_^;)
仁藤の話よりコメディ寄りですが、堤下栄の意外な過去なんかもちょい話で出てきたり、今後本編にも登場するキャラも登場したりしますのでお楽しみに。
こちらも、仁藤編と同様にリニューアル前の文章をブログの方でアップする予定ですので、興味があったら読んでみて下さいm(_ _)m
面白かったらブクマ&☆ポッチン宜しくです。
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