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間幕 仁藤基④




ブオォォォッ




「チッ……水剋火!」


 自らへの問い掛けは、豹型の式神の炎によって遮られる。


 それを法術で防ぎつつ、かぶりを振ってもう一体の気配を探ると、反対側から拳を振り上げる狒狒型の式神が迫ってきている姿が目に入る。


「クッ……」


 リンー--


 独鈷鈴どっこりんの鈴を鳴らし、それに念を送る仁藤。


水面みなも纏いて風逆巻く……水生木!」


 鈴の音が壁となり、狒狒の拳をガシッと受け止める。



ブオォォォッ



 その瞬間、豹が、更に吐き出す炎の火力を上げる。



ブワッ



 狒狒をも巻き込んで、激しく炎が渦を巻き、仁藤の元へと押し寄せて来る。


「ハァァァァァッ!!」


 声を張り上げ障壁に法力を送り込み、一気に障壁を内側から弾けさせる事で炎をなんとか相殺する事に成功する。


「ハァハァハァハァ……」


 片膝と片手を地面に突いて、荒れた呼吸を整えていると、衝撃によって舞い上がった土煙が次第に収まり始め、ゆっくりと視界が開けていく。


「………」


 開けた視界の先には二匹の式神。


 その顔には笑みらしき物が浮かんでいる……。


(この俺をあざ笑ってやがる!)


「っ!! クッ……」


 頭の中が沸騰するような感覚に襲われかけるが、それを何とか押さえ込み、仁藤はゆっくりと立ち上がった。


(何やってやがるんだ俺は……)


 仁藤は自分の馬鹿さ加減と臆病さに腹が立つ……今の自分にやれることは一つしかなと分かっているのに。


(……自分の力を信じること……)


 式神の姿に怒りを覚えている場合じゃない……自分の弱さを今この場で乗り越えてみせるべきだと自分自身を急き立てる。


(やれることは……やんなくちゃいけねぇことは端から決まってる……)


 仁藤はゆっくりと右手に握った独鈷鈴どっこりんを目の前に掲げ、親指と人差し指の間の指間腔で独鈷鈴どっこりんを挟み支えながら、祈りを捧げるようにパチンと拍手かしわでを打つ。


 その瞬間、仁藤の周囲に見えない壁が張り巡らされた。


高天原たかあまがはらを守護せしひと柱……」


 2体の式神が、更なる攻撃を仕掛けるが、その障壁の先には進めない。


 五指を併せたまま、掌を軽く膨らませ、更に強く祈りを込める。


ほむら纏いて全てを砕き……」


(……俺は絶対に強くなる……じゃなきゃあいつに会わせる顔がねぇ……)


「……そして全てをおこす御身の能力ちからを我もとへ……」


(俺は負けない……コイツ等にも、宗家にも……そして俺自身にも!)


「我が身に宿れ火之迦具土神ヒノカグツチ!!」


 次の瞬間、仁藤の身体と心を真紅の炎が包み込んだ。





《我を望みし者よ……汝が名を唱えよ》


「我が名は仁藤基……」


 唐突に頭の中に響いてきた無機質な《神の声》に、反射的に自らの名を唱える仁藤。膨れ上がる霊力と溢れ出る炎を押さえ込むのに手一杯で、質問の意味を吟味する暇もない。


《何故に我を望むのか?》


「力が欲しいからだ!」


《何故に力を望むのか?》


「薫を守る為だ! あいつを守るために誰にも負けない力が欲しい!」


《否。それは汝の表層の望みに過ぎぬ。我が望みしは汝が真の望みなり》


「な……に?」


《自らが心の奥に潜みし欲望に気付けぬ者に、我を扱う資格は無し》


「俺の……真の望み?」


《汝が本質は全てを呑み込む真紅の炎……もう一度問う。汝が望みは何ぞ》


 火之迦具土神ヒノカグツチの言葉に、仁藤は自分の心の奥底を覗き見る。


「俺の本質……全てを呑み込む真紅の炎……」


 俺は広げた手のひらに視線を落としてその意味を考える。


「俺の望み……俺は……」


 心に浮き上がる駒野薫の顔。しかしそれは、直ぐさまぼやけて薄らいでいく。


 代わりに浮かび上がってきたのは……幼い頃の自分。


 全てを憎み、全てを拒絶し、全ての存在から背を向けて生きていたあの頃の自分が、仁藤の心の奥から浮かび上がる。


 吹き上がる激しい感情……しかしそれは、決して負に由来する感情じゃない。


「そうだな……俺は弱い自分が赦せねぇんだ……誰よりも強くありたい……薫を守りたいって言うのも嘘じゃねぇが、それは薫に頼って欲しいってぇ、ちっぽけなプライドの一つだ。そもそもあいつは俺が守ってやんなくちゃなんねぇほど弱くねぇ」


 両手を握り、仁藤はキッと顔を上げる。


「俺は……俺は誰にも負けたくねぇ……宗家だろうと……水無月の野郎だろうと猫女だろうと! 火之迦具土神ヒノカグツチ……神であるアンタであろうと! そして……例え薫であろうとも!」


《是。それが汝の真の望み。汝は永遠の孤高……だが《個》なくして《全》はなし。この意味しかと心得よ。汝は己が欲をしかと見据え、尚且つ乗り越えた。良かろう。我が力、好きに使うが良い》


 次の瞬間、更なる霊気と圧倒的な火力の炎が辺りを包む。


《但し、我が与えしは力のみ。それを扱えるか否かは汝次第。生き残りたくば、見事我を制して見せよ》


「がはっ……クッ…………俺は……負………けな……い…………負けて……たまるか……負け……ねぇ……負けねぇ……負けねぇ負けねぇ負けねぇ! 俺は……」


『あんたは感情の起伏が激しすぎる……心に炎が灯ったらあとは燃え広がっちゃうわよね?』


 そこで突然浮かび上がる美依子の姿。


『戦う上では時として、それが良い方向に向かう事は確かにあるわ……寧ろあんたにとっては必要な事なんだろうけど、一つだけ覚えておきなさい』


 それは、なんかの任務の途中で美依子に言われた忠告の一つ。


『激しすぎる炎は、全てを灰にしてしまうだけ……強くなりたいならその《心の炎》、きちんと制御して見せなさい』


 それをあんたがいうのかよ……という呆れ混じりの仁藤のツッコミは『ふっ』と軽く鼻であしらわれた。


『《本物の炎》ってのは激しく燃え広がったりはしないものよ? むしろ静かに燃えるもの……あんたにこの意味が分かるかしら?』


(あん時は、やたらと比喩的で揶揄的な言葉だって思ったが……今ならあいつの言いたかった事が理解できる)


「頭に血が上りやすいのが俺の欠点だな……」


 怒りは仁藤の能力ちからの源の1つではあったが、それに呑まれてしまっては意味がない。


「我が意に従え神なる焔よ……」


 バラバラに燃え広がっていた炎が、仁藤のその言葉に反応し、彼を中心に渦を巻き始める。


「怒れる御心を我が身で背負い奉りて、我は汝をこの身に宿さん……」


 炎の渦は次第に速度を増していき、徐々に仁藤の元へと集まって行く。


火之迦具土神ヒノカグツチよ! 我が名は仁藤基なり! 此が名に於いて我が力となり給え!」


 炎はそのほとんどを仁藤の中へと収まり、残りは手のひらの上でろうそくに灯る灯火が如く小さく煌めいている。


《見事なり》


 無機質な筈の火之迦具土神ヒノカグツチのその声に、何故か仁藤は親しみを感じ取る。


 仁藤は手のひらの灯火を地面に向かって投げ降ろす。


 灯火は螺旋を描きながら地面にたどり着くと、薄い膜となって青白く燃え広がった。


(これは……結界の中に異空間を作ったのか……俺を中心に半径百ってところか?)


 炎から伝わる情報を分析しそう結論付けると、仁藤はこの状況を打破するための方策を練り始める。


「ガルルル!」「ウキャァァァ!」


 その時、こちらの様子を伺っていた2体の式神が、意を決したかのように仁藤に向かって飛び掛かる。


 しかし2体は仁藤がひと睨みしたその瞬間、空中で見えない壁に当たってその前進を妨げられ、パシュッと音を立てて弾け散った。


 残ったのはヒラヒラと舞うニ枚の呪符。


(後は、この隔離された空間と結界をどうにかすれば……)


 仁藤は目を瞑り、炎から送られてくる情報を再び分析し始めた。


 そして……空間内のとある一角に、炎の及ばない領域がポツンと存在していることに気が付いた。


(炎が退けられてやがる……そこか?)


 敷き詰められた炎の力が及ばないその一角……。


(これは…宗家の護符! たった一枚の護符でここまでの術を作り上げやがるたぁな。さすがは駒野家の宗家)


 仁藤は心の中でそう呟くと、意識をその護符に向け、炎を集束させていく。


「風廻りてほむら渦巻く……木生火!」


 仁藤の法力が神なる焔に更なる力を注ぎ込む。すると焔は急速に集束し、白く儚い灯火となって、次の瞬間宗家の護符と共に弾けて消えた。


「……ふう……」


 護符が消えた途端、視界が……いや、空間が徐々に崩れ始める。


 その崩壊は次第に速度を上げていき、最終的には薄白く光を放つ霧となって散っていった。


 そして霧の晴れた視界の先には、その顔に驚きを湛えた、駒野薫の姿があったのだった。




法術を考えるのが大変(´;ω;`)


このお話は、元々仁藤視点の一人称で語られていたものを、三人称に変えたので、もしかしたら直し忘れているところがあるかも(^_^;)


面白かったらブクマ&☆ポッチンお願いします。

twitter&ブログでの絡みもお待ちしております。

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