間幕 仁藤基①
仁藤基が主人公のスピンオフです。
結局ここに上げることにしました。
仁藤編は4〜5話くらいに収まりそうです。
ギャグ少なめのシリアス多めです。
「唵……天道をもって現し世の理を外れし者共を滅ぼせ……法術……天道輪廻!」
アストールとのあの戦いから3か月が過ぎ、組織には一応の平穏が訪れた。
組織の日本支部の長であったアストール……岸本謙二郎が死んだ後、その座を男爵が受け継いだ。その際、契約中の全エージェントがそれを支持した事もあって、大した混乱もなく今に至っている。
この日は、江戸時代の前期に封じられた大型の妖魔が、その封印の解れを利用し復活しかかっていたのを、組織の中でも腕利きである、猫女・金城美依子、法力僧・仁藤基、符呪士・駒野薫、風使い・堤下栄の4人で討伐することに相成ったのである。
因みに水無月裕太は、まだ大学生であるので、組織の中では唯一のパートタイムエージェントである。今日は学業優先。
「う~ん終わった! 最後は仁藤にいい所持ってかれたのが気に入らないけど……まぁいいか。さて、早く帰って裕太と……むふふふ……」
そう一人妄想に耽る美依子にうんざりしたような視線をくべながら、仁藤が煙草に火を点けて大きく溜息をついた。
「……僕、先に帰りますね」
皆に唐突にそう告げると、返事も待たずに1人さっさと歩みを進める駒野薫。
(……またか)
仁藤はラウンド型のサングラスの鼻受けをクイッと持ち上げながらが、心の中でそうごちる。
「……薫ちゃん、なんだか最近付き合い悪いわよね……ダメよぉ仁藤。いくらなんでもいきなり外でコトを強要したり、いきなりコスプレさせたりしたら。女の子はもっと慎重にだね……」
「するか! あんたらじゃあるまいし……」
「つーか、いきなりじゃなければいいんスか?」
「あら。あたしは裕太が望めば何だってしてあげるわよ? ムフフフフ……」
わざとらしく乙女チックに両手を顎に当てて艶声を出す美依子に、仁藤と堤下はげんなりとした視線を送る。
「それじゃあ仁藤の浮気で決定ね! ダメよ~……女の子はその手のことに敏感なんだからぁ。バレないと思って油断してると後ろから『ズドン』って殺られるわよ……ケケケケ……」
「だから違げぇって! 水無月じゃあるめぇし……」
「……あんた何か知ってるの?」
突然、その場の空気が氷点下に陥ったかの様に凍り付く。美依子の妖気が明らかに先ほどとは違った高まりを見せ始めている。
(水無月……またなんかやったのか?)
「……最近裕太の様子が変なのよ……何か話しかけても上の空だし、卒論がどうのこうのって相手してくんないし……手下A!」
獲物を見つけた猛獣の様な目つきで堤下を睨み付ける美依子。
「ハ、ハヒッ!」
堤下は、直立不動になり、蛇に睨まれたカエルの如く冷や汗をかいて固まっている。
「あんたと合コン行ってからおかしいのよね……あんた何か知らない?」
「し、ししししらないっスぅぅぅ! あっ! お、俺も今日、用事あるんだった! そ、それじゃお先に失礼いたしますッスぅぅぅぅぅ!」
そう言って脱兎の如く走り去る堤下。
(あれは何か知ってるな? 水無月の奴一体何やったんだ?)
仁藤はその後の展開を思って戦々恐々となりながら美依子を盗み見ると、意外にも溜息を吐いただけで堤下を見送っている彼女の姿があった。
「……さて……」
その視線に気付いたのだろう、そう仁藤な向き直る美依子。
「邪魔者も追い払ったことだし、あんたの話を聞きましょうか?」
「っ!」
意外なセリフに仁藤は目を丸くする。
「だてに年齢喰ってないわよ。薫ちゃんの事で相談事があるんでしょ?」
「……」
『女は怖い』……そう身を持って思い知った仁藤なのであった。
「さて……何があったのか、オネーサンに話してごらん」
目を爛々と輝かせ、そう口を開く美依子。
仁藤と美依子の二人は、取り敢えず近場の茶店に入り込み、話を始めることと相成ったわけだが……
(クソっ何でよりにもよってこいつに相談しなきゃなんねぇんだ……)
仁藤としては事の理不尽さに舌打ちしたいとこだったが、機嫌を損ねたらどんな報復が繰り出されるか分かったもんじゃないので大人しくせざるを得ない。
しかも、仁藤はアウトローを気取っていたので知り合いで駒野と接点がある女性に心当たりが無く、ここは美依子を頼らざるを得ない状況なのであった。
このまま行くと、美依子のペースで話しが進む……それを危惧した仁藤は取りあえずは違う話から入ることにした。
「それより水無月の事はいいのかよ。堤下のあの様子じゃ、あいつ、なんかやってんじゃねぇの?」
「あぁ合コンの件? あの件なら大丈夫。手下Aを追い払う方便だから。実はあの合コン、手下Aに彼女を作るために、裕太と私が画策した合コンで、紹介しようと思ってた女の子以外の女性は、みんなあたしらの知り合いの妖怪の女性だから。因みにあたしも変装して参加してたわよ? ほら、これ」
そう言って差し出してきたスマホの画面を見て、仁藤は絶句する。
その画面に写っているのは、今仁藤の目の前に座っている小憎らしい猫女の様相とはかけ離れた、大きめの眼鏡と帽子を被った清楚且つ大人しげな雰囲気を漂わせる、男の保護欲を掻き立てる絶世の美少女の姿だった。
「手下Aは最後まであたしだって気付かなかったわ」
サングラスを抑えるフリで誤魔化しつつショックを隠している仁藤を尻目に、猫女は話を更に続ける。
「裕太もこの変装が気に入ったみたいでね、最近じゃコトに至るたびにこの格好をさせられるわ」
楽しげに語る美依子を、お前等バカップルの床事情何ぞ聞きたくもない……とばかりに、思いっ切り引いた視線を送る仁藤。
そんな仁藤の視線を意に介した様子もなく、ムフフンと話しを続ける美依子。
「手下Aが慌ててたのは、この姿のあたしと裕太が手に手を取って闇夜に消えていったからよ」
「……そりゃあいつも慌てんだろ。俺もその場にいたらぜってぇ同一人物だとは気付かねぇよ」
それ程クオリティーの高い変装で、その事実に戦慄する仁藤。ヤッパリ女は怖いと内心身震いする。
「で……堤下に彼女は出来たのか?」
「……聞かないで……あたしも裕太もあれ以来、あいつが哀れで哀れでしょうがないって思ってるって事だけ付け加えておくわ……」
(……この二人にそう思わせるなんて……何やったんだあいつ……)
そう、ある意味戦慄を覚える仁藤。
堤下栄の手下A魂の前では如何なる手助けも意味を成さないと、ことまとしやかに語られる都市伝説……それは事実であったのか。南無南無。
「まぁそれは兎も角、薫ちゃんは一体どうしてあんなに不機嫌なのかな?」
精神的に立て直せないまま突然話を戻され、あっさりと仁藤の目論見が潰えてしまう。
「……分かんねぇよ。分かってたらあんたに相談持ち込んだりしてねぇよ」
「まぁそれはそうなんだけどね。それを言ってたら事が始まらんでしょ? 何かないの? ああなるきっかけか何か」
「……あんな風に俺を避けるようになったのはここ一ヶ月の事だ。それまでは至って普通に……」
「ラブラブだったって訳だ」
自分のセリフを混ぜっ返す美依子に、思わず仁藤は舌打ちをする。
(だからやだったんだよ、こいつに相談するの……こうやって、面白がって茶化すに決まってる)
「なるほどなるほど……まぁ思い当たる節、無いわけでないかな」
ガタン
意外な言葉に思わずイスを倒して立ち上がる仁藤。
「な……何だって?」
オレンジジュースを口に含んで美依子は意味ありげに仁藤に視線を向ける。
「……知ってるなら早く教えろ」
「あら……それが人に教えを乞う態度かしら?」
足を組み、背もたれに片肩肘を突いて無い胸を張りながら余裕たっぷりにそう嘯く、小憎たらしい猫女に、仁藤はプルプルと肩を震わせるが、何とか怒りを抑えて頭を下げる。
「……教えてくれ」
「い・や・よ」
精一杯の譲歩を見せる仁藤に対し、美依子はニッコリ笑みを浮かべた後、わざとらしくそっぽを向いてそう言い放つ。
「てめぇは……」
「怒っちゃいやよん。は・じ・め・ちゃん」
「いつか殺す……」
肩を震わせ怒りを露わにする仁藤であったが、美依子はどこ吹く風だ。
「ま、ホントの事言うと、あたしの口から言っても良い事なのか、判断しづらい事なんだよね」
美依子はシャクシャクとストローでグラスの中の氷をかき混ぜながら、むーんと眉間にシワを寄せてそう話す。
「何だと?」
「今回、あたしがあんたと話をする気になったのは、あんたが何処まで気付いているのかと、あんたが何処まで薫ちゃんの事を想っているのか確認する為よ」
「どう言う事だ?」
美依子の言ってる事が事が全く理解出来無いと眉を顰める仁藤。
「薫ちゃんが何故ああして悩んでいるのか……何故仁藤基に相談しないのか……ここが分からないとあたしからはなんも言えない。だからあとはあんたが自分で考えてみなさい。今のあたしの言葉と薫ちゃんの立場をしっかり考えて、あんたがしっかり薫ちゃんを想っているなら、多分その内分かるでしょ」
(薫が悩んでいる? 俺に話せずに?)
腕を組んで頭を悩ます仁藤。気付くと美依子はいつの間にか居なくなっていた。
目の前に写るのは……大量の食器の山と二人分の伝票と途方に暮れた様子で仁藤の方を見つめている喫茶店の店長の姿だった。
「あいつ……絶対いつか殺す」
仁藤は火使い設定から法力僧設定に代わりましたので、その辺を書き直すのが面倒でした。
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