ラストバトル2
裕太視点
いつも誤字脱字報告有難う御座います。
前話の誤字報告は、そのまま採用してしまうと、その段の文章自体の雰囲気がちょっとおかしくなってしまうので、文章全体を書き直しました。
また、『現し世』の誤字報告が何度か入っていたのですが、これはあえて『現し世』と表記しています。作者のくだらない拘りなんで、スルーして頂けると嬉しいです。
俺はアストールに向かって駆け出しながら、無数の呪符を撒き散らす。
呪符はフワリフワリと漂いながら、表面に描かれた文字と図形が薄く光り、そこから抜け出て来るように烏が生まれ落ちる。
これは目眩まし代わりの式神だ。殆ど戦闘力はないけど、視覚共用や目眩ましに便利な式神なのだ。
音のない今のこの状況は、魔族たるアストールにとっては戦いにくい状況であるはずだ。魔族の使う黒魔術は通常、呪文を唱えなければ発動しない。アストール程の実力者であれば、簡単な魔法なら詠唱を破棄することも可能であるかもしれないが、威力は半減するだろう。
対して俺達の戦力は、風使いである堤下はともかく、妖怪であるミーコさんに雪女、武よりの修道家である男爵、霊獣の白蘭、言葉だけじゃなく文字で術を構成出来る符呪士である俺、と言霊を使わなくても高威力の術を発動する術を持ったメンバーが残っている。
退魔の術が得意な駒野がいないのは痛いけど。
ただ、物理的にも魔力的にも高い防御能力を持っているアストールに対して、決定打がないことも事実だ。
完全獣人化したミーコさんなら互角に戦えたかもしれないんだけどな……。
危険な考えが一瞬脳裏をよぎったが、頭を振ってそれを振り払う。
先制攻撃は男爵だ。無駄のない動きで地面の上を滑るように移動し、アストールの死角から襲い掛かる。
気を纏った拳がアストールに触れた瞬間、男爵の足元にヒビが入る。
足元から生まれた力のベクトルが肉体を伝わり、纏った気と共に拳に移りアストールの身体へと流れて行く。
所謂、中国拳法で言うところの寸勁って奴だろう。
やさしい中国拳法通信講座では分からなかった技のプロセスが、今のを見たらはっきりと理解出来た。
うん、今度やってみよう。
男爵の寸勁は、その衝撃をアストールの肉体に注ぎ込んだはずだった……けど、奴は平然としてる!
全身の口が開いているから、多分そこから衝撃を全部外へ逃がしてやり過ごしたんだろう。
今度は、お返しとばかりにアストールが拳を振るう。これはボクシングで言うところの振り下ろしの右。
しかし、男爵はその拳を軽く往なすと、腰の捻りと体重移動で生れた力を視点にアストールを投げ飛ばす……が、今度は空中で奴が口から貫通力のある矢状の魔力弾を放った。
アストールは魔力弾を放った衝撃を利用して体勢を立て直して地面に着地し、男爵の方は……嘘でしょ……この人、あの至近距離からの魔力弾の全てを両拳で、時には弾き飛ばし、時には往なしてやり過ごしちゃったよ…………何なのこの人。もう一人で行けるんでない?
まぁ、そうも言ってられないので俺はアストールに向かって一歩足を踏み出した。
それに気付いたアストールが、俺に向かって魔力塊を放ったその瞬間、奴を取り囲むようにも地面から氷の錐が突き出て襲い掛かる。
しかしアストールは、その氷の錐をニヤリと笑ってまともにその体で受けとめ……いや……おいおい、体中の口もどきの切れ込みが氷の錐を食らっているよ。キモッー。
俺はアストールが放った魔力塊を避けながら、作り出した式神達をけしかける。その式神達が作り出した死角を突いて懐に入り込もうとしたその瞬間、アストールが全身の口を開いて氷の飛礫を放ってくる!
クッ……
男爵みたいに弾き飛ばしたり往なしたり出来れば良いんだけど、ありゃ俄の俺には無理だ。
俺は咄嗟に後ろに飛び退きながら、両手をクロスして、なんとか顔だけは防御する。この顔に傷が付いたら全世界の損失だ。世界中の俺様ファンが泣き崩れてしまうじゃないか。ミーコさんなんか立ち直れないかも知んないし。
苦痛の叫びが口から吐いて出てくるが、それが音となって響き渡ることはない。
式神のお陰で直撃はなかったものの、全身至る所に痛みがある。多分血も滲んでいる。しかしこの程度なら回復護符を縫い付けてある服を身につけているので問題はないはずだ。
俺がズザッと着地すると、それを追い越してミーコさんと雪女がアストールに襲い掛かる。
怪我した俺の事は無視かい……裕太君寂しい。
雪女が片手を振るうと、瞬時にアストールを取り囲むように氷壁が現れ、その中を目掛けてミーコさんが妖気を極限にまで凝縮して作り出した弾丸が飛び込んでいく。
氷壁を通してみているのでハッキリとは見えないが、弾丸が凄まじい速さで氷壁内を跳弾しまくり飛び回ってるのが何とか見て取れる。氷壁は次第に帯電し始め、更に弾丸の跳弾速度が増していった。
俺はそれを見て、直ぐ様二人の術を援護するため呪符を取り出し投げつけた。
呪符は空中で雷を纏った狼の姿へと変化し、氷壁に向かって体当たりを敢行する。
ドカンと雷狼が氷壁にぶち当たったその瞬間、激しい爆発と共に、帯電した氷の飛礫がアストールに襲い掛かる。
雷狼は周りの式神達と連動し、その雷爆を取り囲んで結界を作り出し、外へ外へと逃げていくエネルギーの奔流を、更に内へと送り返して雷爆の威力を倍化させた。
結界内で爆風と雷の渦が吹き荒れるのを見て取れるが、これでアストールを倒せたとは思えない。
俺は今の隙に次ぎなる一手を紡ぎ出すため、呪符と棒状の結界針を取り出して自分の周りに撒き散らす。
印を組み念を込めると、撒き散らされた呪符は結界針と組み合わさり、無数の小型ミサイルをこの場に作り出した。
式神であるベスの構造を基本にして形を作り、結界針に圧縮した霊力を爆発的な推進力に変換する機能をつけ、更に標的を追い続ける追跡の能力を付与した俺のオリジナル符呪魔術だ。
ミサイルが完成したところで、結界内の爆風と雷の渦が治まり始める……と? っ!! いない!!
俺は咄嗟に目を瞑って奴の気配を探る。
雪女の後ろだ。まずい……
雪女の方に目を向けると、彼女の背後に延びている彼女の姿の影の中から、太い一本の腕がニョキリと生え出ている。
間に合わない!
俺がそう思った瞬間、ミーコさんが雪女の腕を引っ張って自分の懐に招き入れ、その影から突き出た腕の一撃を身を挺して受け止めた。
雪女は……なんだ? 手を組んで恍惚とした表情でミーコさんを見詰めてるぞ?
ともかく、ミーコさんは腕のみを獣人化させてその一撃を受け止め、雪女を小脇に抱えながら飛び退いたのだった……その首に雪女をしっかりと抱きつかせて。
あ、雪女がミーコさんに小突かれてる。けどそれすらも頬を染めて喜んで受けている雪女をみて、俺は先行きの不安を感じたのだった。
沈黙状態の戦場では、呪文の詠唱が出来ません。詠唱は言葉として空気を震わす事で初めて言霊に昇華される……と云う設定。
人間は物理世界の住人で物理法則の影響下にあり、術を扱う時もある程度物理的な引き金が必要になるのですが、妖怪はやや精神体寄りで、思考と妖気が重なると妖術として最低限の発動条件を満たします……と云う設定。
アストールを始めとした魔族と呼ばれる程に強力な妖怪は、妖怪としての本質と共に、精神世界のエキスパートである為、精神世界に物理的な干渉を起こす事でより強力な術を行使できる……と云う設定を今考えたので、これからはそう云う物だと思って下さい(笑)
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