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5:転校生とスポーツ女子と朝の談笑をしました。

 次の日、俺は今日も今日とて朝の聖書を読む時間のため、早くに登校する。


 自分の席は最後列の窓から二番目の席。


 何時もなら俺以外に人がいることはない。


 あまり早い時間だとは思わないのだが、このクラスの平均の登校時間は遅い。


 だが、そんな教室に今日は先客がいた。


「あら、早いのね」

「こちらのセリフだ」


 そこにいたのは、松蔭寺だった。


 松蔭寺は席にノートを広げ、隣に携帯を置き、勉強している。


「ふむ、見たところ復習といったところか」

「何よあんた、許可なく見ないでよ」


 松蔭寺は俺の視線に気づき、席の上を隠す。


 しかし松蔭寺の小さな体躯では、机全体を隠しきれるなんてことはない。


「それは申し訳ないな。

 俺は邪魔しないように静かにしていよう」


 流石に松蔭寺の勉強の時間を邪魔するわけにも行かない。


 俺は黙って聖書を読んでいるとしよう。


「……あっそ、それならいいわ」


 松蔭寺はそそくさと勉強に向かい直す。


 バックから取り出した聖書を開き、ページを捲る。


「うーん」


 クイーンは週間雑誌なので、今読んでいるのは昨日読んだものと同じものだ。


「うーん」


 よく飽きないね、と言われるが、朝の時間というのは意外に短いもので、毎朝新しい発見があり、楽しいでもある。


「うーん」


 今日もグラビアから見始める。


 今回のグラビアは『ほし うみ』という女性だ。

 胸自体はCカップ後半ということでOPP力そのものは低いように見えるが、それ以上のポテンシャルを持っている。

 特に体の使い方。

 自身の体の特徴を理解しているポーズの作り方、カメラマンとの打ち合わせなどが見える雑誌だ。


「うーん」


 ……俺は雑誌を閉じる。


「どうしたんだ?」

「えっ?

 何よいきなり」


 どうやら松蔭寺は自身がいかにも悩んでいると言いたげな声を出していることには気づいていないらしい。


「隣でそこまでうんうん唸っていれば流石に気になる」

「唸ってるってっ……?!」


 松蔭寺は口元に手を当てる。


 体も相まって可愛らしい行動だ。

 動いたときに揺れる金髪のツインテールは、好きなものは心を揺さぶられるだろう。


「……ここなんだけど」

「あぁ、昨日の現国か」

「あの先生の話していること、いまいち聞き取れないところがあって……」


 確かに、現国の先生は滑舌が怪しく、たまに黒板の方を見て話すため、わかりにくい時がある。


「そこに関しては、このワークを見るが良い。

 割とあの先生は個々の内容をほぼ丸パクリしている時があるからな」


 俺は松蔭寺の席の上に閉じた状態で放置されているワークを指差す。

 教師としてそれで良いのかと思うが、復習するときにこのワークを見るだけで良いので楽だ。


「ホントだ。

 確かに個々の内容とにてる……」


 微笑んだ後、少し苦そうな表情をして、ノートに取り組む。


 俺はその様子に解消したみたいだな、と聖書に再び向き合うことにする。


 えっと……なんだったかな。

 そうだ、星海に関する話だったな。


 今週のグラビアでは、そのおっぱいを強調させる、ということをするのではなかった。

 あくまで星海という美しい女性、を見せることにこだわっているように見える。


 確かにそれを考えると、背景にもこだわっている点が見られる。


「うーん」


 例えばこの砂浜なんて、日陰にいることにより肌を引き立てるだけでなく、大人っぽさを表現しているのか?


「うーん」


 俺は聖書を閉じ、


「どうした」

「……そんな私唸っていたかしら?」

「かなり」


 結構わざとらしく聞こえるくらいのものだったので、声をかけざるを得ない。


「それで、次はどうしたんだ」

「……数学よ」

「どれ、見せてみろ」


 松蔭寺に近づき、俺は横からノートを見ようとする。


「ここよ」

「どれだ?」

「ここよ」

「あぁ、これか」


 少し文字が小さいため、発見に手間取ったが、見つけることができた。


「これか。

 昨日の授業ではやれるならやっておけと言っていたよな?」

「えぇ。

 だからテストで出る可能性を考えてやっているのだけど……」


 松蔭寺の表情は真面目なもので、なんだか意外な感じがする。


「あの先生のやれるときにやっておけ、ってのはほぼ確実にテストには出ない。

 結構適当な先生で、テストとかも忙しい時は問題集の問題ほとんど、みたいなときもあるぞ」

「……大丈夫なの? この学校」


 松蔭寺は俺に苦い顔をしながら質問してくる。


「他の学校では違うのか?」

「私も他の学校を知っているって胸を張って言えるわけじゃないけど、少なくともここより結構真面目だったわよ」


 前の学校、というものがどんな学校かはわからないが、


「少なくとも、ここにいるうちはこうやって行くしかないぞ」

「……確かにそうね。

 早く追いつきたいし、これくらいのほうが丁度いいわ」


 松蔭寺はさっさと離れて、と俺に指示し、勉強を再開する。


「仲いいじゃない」

「ん? 熊澤か」


 自身の席について、聖書を読もうとすると、後ろから声をかけられる。


 視線を向けると、そこにいるのは熊澤。


「朝練か?」

「そ、陸上部は忙しいのですよ」


 熊澤はバックを机に下ろす。


「今日は早いのだな」

「そりゃ、毎日やってても強くなることはないのよ。

 必要なのは負荷と休憩」


 そういうものなのか、と俺は心の中にメモっておく。


「で、マリアは何してるの?」

「へっ?」

「ありゃ、邪魔しちゃったか」


 熊澤が松蔭寺に声を掛けると、松蔭寺は集中していて気づいていなかったのか、少し驚いた様子を見せる。


「あら、エマ」

「おはよ」

「おはようございます」


 松蔭寺はにこやかにエマに挨拶をする。


 ……なんで女子にだけ妙に優しいんだ?


「それ、復習?」

「そうなんです。

 来たばかりで授業に慣れなくて……」

「あー、たしかにウチの先生適当なのいるし……。

 教えたげよっか?」


 松蔭寺は少し考えてから、


「うーん、嬉しいことですけど、自分である程度はやってみます。

 時間がかかるだけでわからないわけではないので」

「そっかー。

 頭いいんだね、マリアは」

「そんなことはないですよ」

「ふっ」


 俺は最後のやり取りに笑ってしまった。


「ん? なんで笑ったの?」

「いや、熊澤が教えるというのが面白くてな」

「何が言いたいわけ?」


 熊澤は俺が言うことが分かっているため、指を鳴らしている。


「いや、本人のために黙っておく。

 松蔭寺もいるしな」

「あっ」

「待ってマリア。

 何を気づいたような顔してるの?」


 松蔭寺は俺の言いたいことを理解したのか、はっとした顔をする。


「いや、別に何もないですよ」

「……明らかに何かに気づいた顔してたよね?」

「……してませんよ?」

「ならせめて視線を合わせてくれないかなぁ?!」


 熊澤は少し成績が悪い。


 頭の回転や、思考能力という点では申し分ないのだが、覚えるということが苦手らしく、勉強の成績は悪い。


「私は復習に戻ります」

「マリア?!}


 そういえば。


 いつの間にかお互いに呼び捨てになっているな、というどうでもいい気づきを得た。

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