3:スポーツ女子が宥めてきました。
「と、いうことがあったのだ」
「と、いうことじゃないよね?
思いっきり喧嘩ふっかけてるじゃんね、それ」
昼休み。
この学校には学食がない。
そのため、みんなは購買か弁当を持ってくる。
「……そうだろうか?
俺はあくまで事実を述べただけなのだが……」
「うーん、ズバッと反論できないからあれだけどさ、駄目じゃない?
そういうこと言っちゃ」
普段は三人で食べているのだが、一人が最近ある生徒会の仕事で忙しいため、今日は二人で食べている。
もちろん、相手は正義である。
俺も正義も弁当を食べながら、話している。
話題は当然、松蔭寺の話題だ。
「……そういうものか?」
「まぁ、相手の体の一部に対する話だからね。
身長をディスるとかそういう話と同じだと思うよ?」
その言葉に、俺はストンと腑に落ちた。
そして同時に申し訳無さが出てくる。
「確かに、そういう点では俺の発言は失礼なものだったな……」
「せっかく席が隣なんだし、なるべく大事にならないように謝りなよ」
自分で作った冷凍食品のオンパレードの弁当を食べながら、俺は思い返す。
1限で話してからは、その間ずっと会話はなかった。
もしかして、それで傷ついて……
居ても立っても居られない。
俺は立ち上がり、謝りに行こうとする。
そこで、腕を掴まれた。
「待って。
待つんだ大塚昭仁」
俺の腕を掴んでいたのは、正義だった。
正義は少し疲れた様子でこちらを伺う。
「もう君と会ってから三か月経つ」
「……たしかにそうだな」
「だからそれなりに僕は君のことを理解しているつもりだ」
「それはありがとう」
正義の表情は、真面目なものでこちらに説くようだ。
「だから君が今から何をしようとしているのかは十分に予想がつく」
「ほぅ」
「君は今から松陰寺さんに謝りに行こうとしているね?」
「なぜ分かった?!」
衝撃だった。
三ヶ月の付き合いだと言うのに、もうそこまで心を読まれているのか。
「そんな真面目に驚かないでよ」
「これが驚かずにいられるというのか?
俺の行動が読まれていたんだぞ?
恐ろしいことじゃないか……」
それはつまり俺は正義の前では何を考えていても無力だということになる。
もしやっ……?!
「いつも俺が授業中に考えていることも分かっていたということなのか……?」
「うんそれほとんど授業中に碌でもないこと考えているってことだよね?」
俺は口を噤む。
「いやそのリアクションは正解のやつじゃん?」
口を噤む。
「いやもう無理だよ?」
「良いじゃないか授業中に何を考えていたって!」
「逆ギレぇ……?」
おれは 正義の弾圧から逃れることができず、思っていることをぶちまけた。
「きっとみんな授業中なんて碌なことを考えているわけではないだろう?!
恐らく男子なんて授業中はエッチな妄想かムフフな妄想しかしていないに決まっているだろう?!」
「ちょ……大声すぎんか?!」
クラスで昼ごはんを食べている人には全員聞こえているだろう。
俺は目を見開き、宣言する。
「かく言う俺も碌でもないことは考えていない!!
今朝呼んだ聖書の内容を反芻しているのだぞ!」
「聖書のことを碌でもないとか言うなよ?!
一応でも聖書って呼んでるんだろ?!」
クラスの連中は俺の聖書がどんなものなのかは知っている。
そのため、俺の言葉に苦い表情をしているのが分かった。
「聖書は聖書でも俺が妄想すればくだらない内容になる!」
「説得力だけは段違いだね?!」
「うっるさいなあんた達?!」
乱入者(熊澤)が来た。
そいつは俺の頭をひっぱたいて話を強制終了させる。
「一体教室で何の話をしているのよ?!」
「グラビア雑誌の話だ!」
「そこは聖書って言って少しは隠しなさいよっ!」
「聖書とか何を言っているのだ馬鹿らしい!」
「あんたが言ってるんでしょ!」
熊澤の言葉に、少し冷静になる。
確かに、今はそういうことを話している場合じゃなかった。
「俺は用事があるんだ、すまんな熊澤」
「えっ?」
「ちょっ、そいつ止めて熊澤さん!」
正義の手を振りほどき、俺はマリアのもとに向かおうとする。
「……というか松蔭寺はどこにいるんだ?」
「ちょっと待ちなさいあんた」
俺が正義に質問すると、熊澤は俺の前に出る。
「何をしようとしてるのよ。
要件によっちゃマリアの場所を教えてあげてもいいけど」
「熊澤さん?!」
それはちょうど良い。
「今日の授業で松蔭寺に心無い言葉を言ってしまった。
本人のコンプレックスに関わることだったら本当に申し訳ないことをした。
だからそれを謝りに行こうと思ってだな」
「……教えてあげない」
「熊澤?!」
俺が誠心誠意謝ろうとしているのになぜそれを遮るのか、と抗議しようと思ったら、
「あんたのしたいことは分かるし、やったほうが良いと思うけど、TPOを弁えなさい」
「……だが、今も俺の言葉で心を痛めていると思うと……」
俺の言葉に熊澤は呆れ、
「マリアはそんな人じゃないから。
変えるときに少し時間もらってしっかりと謝るのよ」
「それならば今でも……」
「謝りたいのが本心なのは分かったけど、今したいってのはあんたのわがままでしょ?
マリアはこの学校に初めてきたのよ。
初めての昼休みくらい平和に過ごさせて上げなさい」
胸を叩かれる。
今一度やろうと思ったことを考え直す。
「確かに、今謝ったとしてもそれは松蔭寺の大事な昼休みを削ってしまう。
それに俺からの言葉を全く受け取らない状態かもしれない」
「そ。そんな一瞬で心変わりする? って思っちゃうでしょ?」
キーンコーンカーンコーン。
「ほら、鐘も鳴ったし。
放課後に、しっかりと謝りなさい」
「了解した。
ありがとう、熊澤」
「はいはい。
感謝しなさいよ」
熊澤は適当に返事をしつつ、自分の席に座った。
「……弁当を残ってしまったな。
どうしてくれるんだ正義」
「えっ」
「お前が無駄な時間を取らせるせいで、無駄な時間を過ごしたよ」
「えっ」
「……ふふふ。
済まない、からかった。
正義もこれを危惧して俺を止めたのだな。
ありがとう」
「うん、そうだよね。
ほんと、そうだよね。
一瞬、顔面殴ってやろうかと思ったよ」
いつの間にか自分の弁当を食べ終わっていた正義をからかうと、正義は冗談めかして拳を作った。
それが少し面白くて、俺と正義は二人で笑った。
そうして、放課後に至るわけではない。
時は、六時間目の体育まで進む。




