21:ゆるふわ先輩は疑っているらしいです。
「かっこいいって……こいつが?」
「そうだよぉ?
あきひとくんってかっこいいじゃん?」
飯井先輩の発言に、松蔭寺と熊澤はお互いに顔を合わせて、
「流石にこいつをかっこいいとは思ったことは無いですかね……?」
「私も……別にブサイクだとは思わないけど、かっこいいとも思わないかなぁ?」
二人共俺の顔を見て話す。
それもジロジロと見て話すため、その言葉が結構刺さる。
「……ま、これ言ってもたいてい理解されないから良いんだけどぉ。
とりあえず中に入りなよぉ。
狭いでしょ? そこ」
飯井先輩は未だに準備室に入らない二人に促す。
というか、俺がじゃまになっているのか、
「申し訳ない」
「あ、じゃあ失礼します」
「今日はお願いします……」
松蔭寺は少しウキウキした様子を交えながら、
熊澤は申し訳無さそうに教室に入る。
まぁ、松蔭寺はあまり気負うこともないので、この限られた人しか入れない教室は楽しいか。
「それで、話は最初に戻るけどぉ。
今日はエマちゃんに数学を教えれば良いんだよねぇ?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
準備室は広いとも言えない。
四人が座ることができるテーブル。
二人と二人が対面することになる。
もちろん、教えてもらうために飯井先輩は熊澤の正面に来る。
そして、俺は飯井先輩と面識があるため、必然的に隣に座ることになる。
「……別に教えてもらうことは無いわよ?」
「別に教えようとして座ったわけではない」
余っている俺の正面には必然的に松蔭寺が座ることになる。
「それじゃあ、まずはこれやってくれない?」
「……はい?」
まず最初に何を教えるのかと思ったら、飯井先輩が取り出したのは、何やら細かいマス目が書かれている用紙。
「百マス計算だよぉ?」
「あ、はい、一応知ってますけど……」
「やったことある?」
「やったことあります……」
熊澤は今何でこれを出されたのかと不思議に思っているが、俺は飯井先輩の意図を理解する。
『どういうこと?』
そこで、俺の前の席からノートによる連絡が来る。
恐らくは本人の前で言うわけにも行かないし、俺がナニカに気づいた様子なので聞いてみた、というところか。
『計算力、というかケアレスミスをどれくらいするのかを見るためだ。
どんなに教えても単純な計算ができなければ意味がないからな』
確かに、俺が以前に渡したノートには、巻末あたりに計算ミスをなくすための簡単な計算問題を書いていた記憶がある。
それをやっていたのも結構見ていたし、その時は良い点を取っていた。
流石に前のテストからケアレスミスが瀑増している、なんてことはないだろう……
「それじゃあ、なるべく早く、間違わないようにやってみてぇ。
時間設定もしてるけど、焦らせたくないから時間制限は言わないよぉ」
「えっ、あのっ、これで成績が良くなるッ?!」
「じゃあ、初めっ」
可愛らしい声とともに、飯井先輩はどこからか取り出したストップウォッチを取り出して時間を図り始める。
俺は自分の勉強に移ろうかと思っていると、目の前の松蔭寺の反応が気になった。
よく見ると、隣の方を見て顔をしかめたりしている。
もちろん、隣の方に視線を向けているということは底にいるのは熊澤ということで、
……こいつ、熊澤の計算を見てリアクションしている……?
なんとなく気になったことだったので、熊澤の回答と書院時のリアクションを観察してみる。
回答、間違い、松蔭寺、苦い顔。
回答、正解、松蔭寺、ほっとする。
回答、間違い、松蔭寺、苦笑いが下手になる。
回答、間違い、松蔭寺、表情が消える。
どうやら松蔭寺の表情は熊澤の回答に照らし合わされているみたいだ。
……というか熊澤、間違い過ぎではないか?
俺も思わず熊澤の回答をじっと見てしまうが、誤答率は高い。
『どういうことなの?!
エマはこんなに馬鹿なの?!』
俺も共に熊澤の百マス計算を見ているせいか、松蔭寺から睨まれながらノートの端を見せられる。
『いや、俺も流石にここまでとは思っていなかった。
ケアレスミスが多いとは思っていたが、ここまでとはな……』
俺も苦笑いしながらノートを見せる。
『何二人でイチャイチャしてるんですかぁ?』
そこで俺の手元に小さな紙が飛んでくる。
飛んできたのは、俺の隣。
飯井先輩は時計を見ながら熊澤の回答を見ているので、書いている暇があるのだろうか、と思ったが……
飛んできた紙を開き、松蔭寺と見ると、
松蔭寺は顔を赤くした。
『ベッ、別にイチャイチャだなんてしてるわけ無いですよッ?!』
少し日本語のおかしい返答をノートに書き、宙に掲げて(もちろん熊澤のじゃまにならないように)飯井先輩に見せる。
その様子に飯井先輩は少しニヤリとしながら、
『さっきあきひとくんはかっこよくないって言ってた割に結構否定するんだねぇ?』
『別にかっこいいとかがイチャイチャに関係しているわけ無いですよね?!』
『いやいやぁ。
確かにそうかも知れないけど、そんなに焦っちゃってると流石になぁ』
一部見えないのだが、松蔭寺はノートで、飯井先輩はメモの切れ端で会話をしている。
お互い少しヒートアップしているせいか、熊澤のじゃまになっていないかと心配するが……
「えっと……2、6、76……」
集中していてそれどころではなかった。
というか、数学が嫌いな割に計算自体は集中できるのか。
あぁ、本人の性格も会って頑張って集中しているのか。
陸部だし、集中することは得意なのか?
……いや、関係ないか。
隣と正面で行われている口論を見ないようにしながらも、熊澤がしっかりと勉強できているかどうかを確認する。
……後、多分そのストップウォッチ過ぎてませんか? 飯井先輩?




