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14/22

14:転校生にバイト姿を見られました。

 夏休み。


 それは学生にとって様々な意味を持つ。


 ある人にとっては、休み。


 ある人にとっては、恋。


 ある人にとっては、戦い。


 そんないろいろな意味を持つ夏休み。


 俺は何に使っているのかと言うと、


「いらっしゃいませー」


 お金稼ぎに使っていた。


 コンビニバイト。


 それは田舎であろうと存在する。


 更には、24時間営業を行っている以上、多く働くことは案外簡単にできる。


 何時もは学生という身分であるため、短い時間しかできないが、今は夏休み。


 存分に時間を使うことができる。


「34番ですね」


 このバイトを初めたのは、高校生になってから。


 親の伝手で、高校生ながらにこんなところでアルバイトをすることができている。


「お釣りになります」


 高校には止む終えない事情なので特例としてバイトをさせてもらっている。


 もちろん条件があり、成績が一定以上、出席日数、勤務表の提出など、少し面倒くさい。


 しかし、鈴木先生はそこらへんは割とルーズに接してくれているおかげでかなり自由にやらせてもらっている。


「いらっしゃいませー」


 中学卒業したてで見た目でバレるのでは?


 そんな心配されることもあるが、意外と俺は身長も高く、働いてそうな顔つきをしているので、怪しまれることはない。


「あ」

「あ」


 こんないい環境で高校に通いながらバイトをすることになっているが、面倒なこともある。


「あんた、ここでバイトしているのね」

「……最寄りのコンビニはここではないだろう?」

「別にあんたに会いに来たわけじゃないの。

 あれが欲しくて来たのよ」


 カウンター越しに見るのは、動きやすいTシャツとハーフパンツで来ている松蔭寺だった。


 松蔭寺はツンケンとした態度を取りながらも、棚を指す。


 そこにあるのは、最近始まった……


「うさぎん?」

「そう、あれはここでしかやってないからね」


 うさぎん。


 それは兎とペンギンという名前だけで選んであろう二つの生物の特徴を融合させたキャラである。


 兎特有の長い耳を持つペンギン、といえばわかりやすいだろうキメラは、ここ最近で売れているのを見たことがない。


「確かにここでしかやってないが、あれが好きなのか?」

「そうよ。

 かわいいじゃない」

「それは……そうか?」


 うさぎんをまじまじと見て、疑問符が頭に浮かぶ。


 そこで、ハッと気づいた。


「早く買うなら買ってくれ。

 流石にバイト中だから松蔭寺にかまってやれないんだ」

「かまっ?!

 そんなこと頼んだ覚えもないわよ!」


 松蔭寺は少し顔を赤らめてキレた。


 別にそんな大声を出さなくてもいいだろうに。


 今は昼過ぎ。


 夜中と並んで客が来ない時間帯である。


 店長も奥で作業をしているので、別にたしなめられることはないだろう。


「ちょっと」

「おうわっ?!」


 と考えたところで、後ろから声がかかる。


 俺はレジに経っているので、後ろから声をかける人は決まっている。


「……店長」

「どうしたのよ、あの子」

「別に、同級生ですよ」

「ふーん」


 店長。


 ここ、ローソンの店長を任せられている人物であり、オカマ。


 言葉にするときれいに聞こえるが、基本的に話し始めに小さい”ン”が付いていると言えば店長の言葉遣いは伝わるだろう。


 何故か俺はあーちゃんと呼ばれている。


「それじゃあ、あーちゃん休憩していいわよ」

「は?」

「いやね、あーちゃんここ3日間夏休みだからって頑張ってもらってるけど、誰とも遊んでないみたいだし。

 さっきの会話見るに、結構仲いいんでしょう?」

「仲は……確かに悪くはないですけど」


 確かに、夏休みが始まってからは家、バイト、祭りの手伝いをする生活をしている。

 祭りの手伝いをするところで基本的に飯は食わせてもらっているので、買い物には行かない。


 それに今のうちに宿題やらなにやらを片付けているので、確かに遊びに出るようなことはしていない。


 あと店長背後で俺の耳に息を吹きかけるのはやめてほしい。


 単純に嫌。


「もちろん、エプロン外してなら外に出てもいいから」

「……外暑いですよ?」

「だからってあの子を中に入れるわけには行かないじゃない」

「……何か勘違いしていませんか?」

「いいえぇ。

 別に勘違いしてないわよぉ。

 あーちゃんは基本的にナイスバディの女の子としか付き合わないのは知ってるわよ」


 店長は割と気さくで、店長というよりは少し年の離れた兄貴のような感じである。


 俺の性癖を知っても引かなかった、珍しい人物だ。


 寧ろ聞いた時、素直でよろしいと大笑いしていたのは印象的だった。


 だけど、後ろで髪の毛に息がかかるように話すのはやめてほしい。


 嫌だ。


「……休憩くらい上げるわよ。

 なんなら給料も出るわよ」

「……わかりましたよ。

 なんとしても休憩させたいんですね」

「えぇ。

 ちなみに彼女と話さないと休憩の給料引くから」


 すぐさま逃げたい感情が強すぎて、俺は急いでスタッフルームに捌ける。


 エプロンを下ろし、財布と携帯を持って外に出る。


 そのままコンビニに入っていき、


「いらっしゃいませぇ」


 店長の聞きたくもない挨拶を聞き、


「松蔭寺」

「ッ?!

 何よ、バイトはどうしたのよ」

「休憩だ。

 それ買ったら好きなアイスでも選べ。

 奢ってやる」

「えっ?!

 ほんと?!」


 松蔭寺は奢ってもらう時の目の輝きがいい。

 だから奢る側としては少し気持ちがいい。


 ちなみに、なぜこんなことをしているのかというと、これをしないと店長が満足しないからである。


 あの人の趣味は男らしい振る舞いを見ること。


 店長の中には『男らしさ』という定義が存在し、俺に何時も語り聞かせている。


 その中には、男子たるもの、少しは良いところを見せるべし、というものが存在する。


「あぁ、店長がせっかく友達が来たんだから、ということでな。

 別に俺としては嫌なら良いんだが」

「食べたい!

 暑いし!」

「そ、そうか」


 素直な感想だな、と思いつつも、アイスを選ばせ、会計を済ませる。


 ちなみに、うさぎんのグッズを見ながら俺の方を見ていたが、


「流石にそれは個人で買うものだろう?

 自分で買えばいいだろう」

「……そうね。

 自分でお金を出すからこそ、ってやつよね」


 店長に少し睨まれた気がするが、流石にそこまで奢るほどの優しさはない。


 でも、店長の表情は良いものだったので、まぁ大丈夫だろう。


 店から出て、日陰になっているところで二人並んで食べる。


「……おいしいわね」

「そうか?」

「そうよ。

 あんまりこっちでアイスって食べなかったから」


 俺はガリガリ君。


 松蔭寺はブラックチョコバー。


「それにしても、あんたここで働いてたの?」

「あぁ。

 今は他で引っ越しのバイトをしている。

 週2だがな」

「すごいわね。

 そこまでして稼がなきゃならないの?」


 松蔭寺は何気なく聞いたようだが、俺はその言葉に返すのをためらう。


「……ごめん。

 今のは忘れて」

「いや、別にいいんだ。

 そういえば話してなかったな、と思っただけだ」


 というか、割と聞かれなかったな。


 学校では正義と良治……くらいだな。


 意外とみんな繊細な問題だと思って聞いてこないのか?


「俺は片親でな。

 父親が単身赴任で家にいないんだ。

 父についていっても良いんだが、それでは俺の勉学に支障が出る、ということで、ここで一人で暮らしているんだ」

「そっか……」

「別に気にすることはない。

 それで、一人で暮らすのは良いんだが、割と経済的には厳しくてな。

 今後のことも考えてバイトをしないと難しいんだ」

「……大学に行くの?」

「それは考え中だ」


 松蔭寺は、何時もと違い、特に何か話すということはない。


 余計な気を使わなくてもいいだろうに。


「でも、この高校にして良かったと思うよ」


 松蔭寺は俺のことを横目で見ながら、次を催促する。


「松蔭寺含め、いろんな良いやつに出会えたからな」

「そ」


 短く返事。


 同時に食べ終わり、アイスの棒を二人で無意味に噛む。


 気の臭さが口の中に広がるが、悪い気はしない。


「祭り」

「あっ、あんたバイトだったわよね」

「そうだ」

「確か3日後よね」

「川側の、井筒橋から交番の方に3つ目」

「ん?」

「俺のバイトしている店だ。

 来たいなら来ればいい。

 今はそこの店主さんに焼きそばを教わっている」


 ん、と短い返事を返す松蔭寺。


 その姿に俺は少し安心し、


「多分他の人も来るだろうから、売り切れる前に来るといい」

「えっ。

 残しておいてくれないの?」

「売上重視だからな。

 そんなことを許してくれる人とは思えない人だ」

「じゃあ、早く行くわ」

「了解した」


 俺は松蔭寺の食い終わりのゴミを受け取りながら、スタッフとしての業務に戻る。


 店の中にいたから分からなかったけど、中々外は暑いんだな。

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