11:スポーツ女子とアンケートを取りました。
「ほんと、すごいわよね」
「何が?」
「何がだ?」
朝に松蔭寺の秘密を聞いた放課後。
俺は熊澤と正義のことを手伝っていた。
今日はたまたまバイトが休みだったのだ。
手伝う、と言って今日集めたアンケートの集計なのだが、流石に自由に書いていいと言ったため、量が多い。
「こんだけコスプレできる種類があるってことよ。
私はメイド、とか執事、とかまでは予想してたけど、ここまで種類が多いとなると、ね」
集計の方法はいたってシンプルで、教室の黒板を使って一つ一つ書いていき、ダブったら正の字を足していく。
黒板にはすでに多くの量の書き込みがあり、
「でもまぁ、半分程度はふざけてきあたものもあるだろうな。
流石に恐竜、と真面目に書くやつはいないと思いたい」
俺は自身の持っているアンケート用紙を見つめ、黒板に新しく書いていく。
「でも、かなり面白いのもあるよね。
『幽霊』とかお化け屋敷やりたいってのも叶えられるし」
「あー、確か男子にいたわね、やりたがってたやつ」
「桜井だな、多分」
三人で談笑しながらも、アンケートを集計していく。
面白いものもありながらも、三人がかりでやっているため、案外すぐに集計は終わった。
「で、この中から選ぶわけだけど」
「今日は多いのをピックアップして、次に多数決を取るのだろう?」
「そ、来週の初めに作って、集めて、集計して決まったら夏休み」
ずらりと言葉が書かれた黒板を眺める熊澤。
「とりあえず、こことここは良いかもね」
正義は票の多い『メイド』と『執事』に丸をつける。
そうねー、と熊澤は頷き、
「私的には票の多いやつだけじゃなくて、面白いのも入れたいかなー?」
「確かにそうだね。
せっかく文化祭委員になったんだし、ここらへんは遊ばせてもらわないと」
正義は少し悪い顔をしている。
と、ここでふと疑問が出て俺は質問する。
「ちなみに、メイド服と燕尾服はどうやって手に入れるんだ?」
二つとも職業として、萌える要素として知っているが、そんなに詳しく調べたことはない。
田舎なのでメイド喫茶なんてものもあるわけはなく、どうやって入手するか気になった。
「今どきはチープな作りだけど安いのがドンキに売ってるのよ」
「……ドンキはそんなものを売っているのか?」
「あー、確か昭仁の家ってドンキから遠いよね?」
ドン・キホーテ。
俺の家から遠いため、中々足を運ぶ機会がないのだが、そこにはなんでもあるらしい。
聞いたことのある話だけでも、ブランド品、家電、本、ゲームなど、多種多様な商品を揃えているらしい。
聞いた話によれば、初めてきた人は案内をつけないと出ることができないほどの迷路になっているらしい。
「すごいな……ドンキというものは……」
「なんか、昭仁すごい勘違いしてそうなんだけど……」
「しっ。
みんなで面白がってるから、何も言わないで」
熊澤と正義がコソコソ話しているが、何を言っているのだろうか?
「それで、あれだよね。
アンケートに載せるやつを決めるんだよね」
「そうだったね。
じゃあ、これなんかはどう?」
話題を変えた正義に、熊澤は乗っかる。
熊澤が指差したのは、『プリキュア』の文字。
一票だけの、ネタのような投票。
「ん? それがいいの?」
「いやさ、うちの学校の文化祭って小さい子も来るじゃん?
中学の時の後輩が、兄弟連れてくる、って聞いたから、小さい子狙いで」
そこで、熊澤の目が俺の方を向いていることに気づいた。
……そういうことか。
「そうだな。
自分たちが面白いのもいいが、どうせだったら受けが良いものにしたいな」
朝の番組というものは長寿なものが多く、また教師の半分は結婚していて子供がいる人が多い。
……鈴木先生に関しては性別の時点でわからないのだが、それは置いておこう。
「そっか……。
うちの先生の半分は子供いるし……。
知らない人もいるし、やって恥ずかしいってのもないかな……?」
「それにさ、仮面ライダーとか戦隊モノもやれば顔を隠せてみんなやってくれると思うよ」
ちなみに、『コスプレ喫茶』をやると言った時、一部の人達は反対した。
まぁ、人前でコスプレをして、ウェイトレス、ウェイターをするというのは厳しいかもしれない。
その人に対しては『裏方で頼む』という良治の言葉により収まった。
「……でも、アンケートでやるコスプレを決める、ってなったからここで決めちゃうのもなぁ……」
そこで、正義が根本のことを突っ込む。
そうなのだ。
今の流れで行くと、まるで今の時点で決めるような話になっていたが、ここで決めるのはあくまで『アンケートの内容を決める』だけなのだ。
今日やったのは、それこそ『アンケートの中身を決めるアンケート』という中々遠回りなものなのだ。
「まぁ、でも『プリキュア』面白そうだし入れとく?」
「そうだね、入れとくのはいいかも」
正義の言葉に熊澤はニッコリと微笑む。
熊澤は松蔭寺にコスプレをさせてみたいのだろう。
確かに松蔭寺の体躯や容姿を考えると、似合う可能性は高い。
良いものは良い。
だからこそ、俺も熊澤の言葉に助け舟を出した。
「それじゃあ次は……」
「正義」
「なに? 昭仁?」
俺は次の意見を出そうとしている正義に、話しかける。
「俺たちの出し物は、『コスプレ喫茶』なのだろう?」
「うん、そうだけど」
「なら、なぜ一つに絞らないといけないんだ?」
そう、俺は松蔭寺のプリキュア姿が見たいと思っている。
付き合いたい女子は巨乳だが、貧乳だからといって悪いわけではない。
それに、似合うものは良い。
朝のあの反応と、このアンケートの結果を見るに、松蔭寺もやりたいのだろう。
「コスプレ喫茶なら、どんなコスプレをしてもいいのではないのか?」
「確かにそうだけど、それはそれでこっちの負担が大きくなるよ?」
「だからこそ、ここで絞って、どんなコスプレを誰がしたいのか、明らかにすればいい」
現状コスプレ喫茶でなんのコスプレをするのか決める、というものの理由は、『衣装経費の書類の作成が時間がかかる』という理由が大きい。
わざわざ使ったお金は文化祭委員が本部に届け出ないといけない。
だからこそ、一括で買い物できるように、何を買ったのかを明瞭にするために決めるのだ。
「数が明らかになっていれば、何をどれくらい買うのかは事前に知ることができる。
夏休みは俺も手伝うのでどうだ? やってみないか?」
俺の誘いに、正義は難しい顔をする。
押し付けられたようにやった委員ではあるが、その責任は自覚している正義は、しばらく考えて、
「……それやるメリットは?」
「良治をメイド服にできるだろう?」
「おっけそうしよう」
「それでいいのあんたたち?!」
熊澤のツッコミが炸裂する。
委員は物品の管理を任されていて、更には購入の是非も決める権限がある。
つまり、だ。
間違って一着多く買ってしまった男子用のメイド服。
良治が着る予定のコスプレが、手違いで存在しない。
「割と楽しくはやってるけど、押し付けられるようになったのは許してないんだよね」
「……それに、みんな望んだコスプレができればいいだろ?」
「あんたたち、いい性格してるわね、ほんと」
熊澤が肩を落とす。
それは呆れているだけ、とは言い難い雰囲気だった。




