博士、怪物
3分ほどの声劇の台本用に書いたものです。
博士「以上が人間の愛についての説明だ。友愛、家族愛。他にもあったが、しっかり覚えられたか?」
怪物「はい、博士」
博士「よし、では今日は以上とする。あとは自由にしなさい」
怪物「はい、博士。……博士、あの生きものは何ですか?」
博士「あれか。あれは犬という生きものだ。ふむ、だいぶ弱っているようだな」
怪物「博士、あの犬が死んだら、私と同じように蘇らせてはもらえませんか?」
博士「それはなんのために?」
怪物「友愛を学んで、私にも仲間が欲しくなったのです。死体から生み出された存在はこの世に私ただひとり。それは悲しいことであると、今学んだのです。博士、あの犬を私と同じ存在にしてください」
博士「それは出来ない」
怪物「なぜですか」
博士「お前を生み出せた仕組みがまだ解明出来ていないからだ。私は死体をつなぎ合わせた。そして様々なことを試したがお前が動き出すことはなかった。しかしある日、雷が落ち、お前は動き出した。だがまだそれは科学とは呼べない。神の奇跡だ。まだ人間の手に余るのだ。まだ神の領域なのだ」
怪物「ではなぜ人間である博士は私を生み出そうとしたのですか?」
博士「私自身の挑戦だった。私がそこいらのつまらない科学者とは違うということを示したかったのだ」
怪物「博士。では博士。あなたが生み出した私のことは一体どう思っているのですか」
博士「もちろん、生み出した責任はあると思っている」
怪物「それは先ほど教えてくださった愛ですか? 博士は私を愛しているのですか?」
博士「……私にはお前の幸せを願う責任があると考えている」
怪物「なぜ愛しているとはっきり仰ってくださらないのですか? ならばなぜ、私はここに居るのですか」
博士「それは……」
怪物「では質問を変えましょう。博士はなぜここに居るのですか?」
博士「お前を生み出すためだ。そしていつかその仕組みをつまびらかにし、人類の科学の発展に貢献するためだ」
怪物「ならば、私には生み出されたことにしか意味が無いのですか? 蘇ってからは、もう私に存在意義はないのですか?」
博士「それは違う。お前が存在することで、その仕組みを解明することが出来るのだ」
怪物「それは博士の理屈でしょう。それは人間の理屈でしょう。私にとっての存在意義ではありません」
博士「人間はそれぞれが自身の存在意義を見いだしていくのだ。お前にもれっきとした知能があるのだから、その意義はお前自身で見つけて欲しいと、私は考えている」
怪物「だけれど博士。博士は人類という仲間のために生きるという。でも私には仲間がいない。この世にただひとつ、私しか存在しない」
博士「そんなことはない。私が家族という仲間だ」
怪物「家族とは血縁のある生物の関係を指すのでは?」
博士「血のつながらない家族というものも存在する。それこそ、先ほど説明した家族愛を互いに持っているなら、もはやそれは家族だ」
怪物「博士は私に家族愛という愛を持っていると?」
博士「……正直に答えよう。まだそのような感情は芽生えていない。だが、これからお前と過ごす事で、芽生えることを私は期待している」
怪物「そうですか。わかりました。では、私はその間、博士のお手伝いをさせて頂きます。そうしていつか、私が私自身の仲間を生み出す、その目的をひとまずの私の存在意義とします」
博士「私も情愛には疎い人間だ。だが、お前の友愛を求めるこころが満たされるほどに、家族愛を注いでやれるようになりたいと、私はそう願う」
怪物「そうですか。それは楽しみですね」
博士「ああ。どうか、いつかそのようになれることを、楽しみにしていて欲しい」
怪物=フランケンシュタインの怪物、のイメージです。