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こんなはずでは

作者: まろん

社会人になったばかりの頃、飲みの席や研修先でとてもよく聞かれるのが、趣味は何かということだった。自慢できた話ではないが、私は元来ぐうたら人間で、暇さえあれば家に引きこもって寝ていたいタイプである。自分の趣味は何なのかなど考えたこともなかったし、聞かれてすぐに答えられる趣味などあるわけがなかった。

仕方がないので、ど定番の読書と映画鑑賞を答えとして出すのだが、ありきたりな回答だからか、私のトーク力不足からか、いまいち話が盛り上がらない。

このままではいけない。社会人1年目、まだ世間の荒波にもまれたことのないピュアな私は、何とかして一目置いてもらえるような趣味を作らなければと思った。とりあえずネットで「趣味 おすすめ 女性」と検索してみた。料理、ハンドメイド、ヨガ…女子力の低い私はどれもピンとこない。

「そんな簡単に見つかるものじゃないのか」

半ば諦めながら画面をスクロールしていたとき、「これだ」と思うものが目に入った。それはピアノだった。

幼稚園の年中から小学6年生まで、私はピアノを習っていた。何度か大会で賞をもらったこともある。ピアノは得意、そう思っていたし、ブランクはあるけれど、一度弾けていたのだから、またすぐに昔のように弾けるようになると根拠のない自信を持っていた。それに、これなら趣味として一目置かれるだけでなく、あわよくば男性にモテるのではないか。そんな不純度100パーセントの動機で12年ぶりにピアノを再開することにした。

やると決めたら形から。その週末に電子ピアノを買った。

新品の白い電子ピアノの前に座り、楽譜を置き、鍵盤の上に手を置く。昔弾いたことのある曲だから、すんなり弾けるだろう。

しかし、そう思ったのが間違いだった。手が動かないのである。いや、正確には、動くことはできるのだが、次にどの音を弾けばよいかがわからないので動かすことができないのだ。

脳みそをフル回転し、3行しかない曲を15分ほどかけて何とか一通り弾き終わった頃にはぐったりしていた。ピアノとは、こんなに労力を使うものだっただろうか。私の記憶には、うっとりしながら遊ぶようにピアノを弾いていた自分の姿しかない。練習すれば昔のように弾けるようになるのかもしれないが、慣れない仕事で毎日頭を使っているのに、家に帰ってまでも頭をつかうのはごめんだと思い、それっきりピアノを弾かなくなってしまった。

「趣味はピアノです」と言うことによって得るはずだった周囲の羨望のまなざしと男性からのアプローチ、この2つの代わりに、私は電子ピアノのローンだけを得ることになったのである。

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