鑑賞前も社交です
グラッチェで見た時とは違う雰囲気でいる。あの人は、ここを社交場として考えているのだろう。
「ケイ様、何故助けてくださらなかったの!」
「知り合いかと思ったので邪魔してはいけないかと思いまして」
痛みに耐えていたはずなのに、爽やかに受け答えしている。
その身軽さに驚きを覚えつつも、やはり社交場に馴染めそうにないと、早々に諦めかけてしまう。
「もう、本当に皆様引き際を弁えていませんの。私に婚約者がいないからと。でも、私ケイ様とでしたら」
嫌そうな顔をしながらも、最後にポッと頬を赤く染める。えで、何処に恥じらう部分があったのだろう。
兄は遠回しに、めんどくさかったから助けなかったと言ったも同然じゃないか。
ユーゴと違って兄は、根っからの紳士ではない。
私に意地悪する人が紳士なわけがない。
それにしても、噂で聞くジェーン様と違う気がする。
纏う赤はいつも通り、彼女の象徴にさえ思えた。
彼女の噂を流した者たちは婚約者が彼女に言い寄っていたのだろう。その者たちに嫌悪を表している彼女のことを誰も理解しようとしていない。
私もいま、この瞬間、ジェーン様を見なければ、ユーゴとのことで、醜い感情が生まれていた。
疑問なのは、何故ユーゴと共にいたのかということだ。
「私も貴女のような美しい方が婚約者であれば、幸せですよ」
キラキラとした笑みを浮かべているが、それが面白くて飲んでいたジュースで蒸せた。
背後で咳き込んでいたら、ユーゴが振り向き「アン。ケイが面白いからって、耐えなくては駄目だよ」と、此方も笑いを堪えながら言うものだから説得力に欠けている。
ユーゴまでもが面白いと言っているのだから、こんな紳士な振る舞いなど中々することがないのだろう。
そして、キラキラした笑みにうっとりしているジェーン様に気付かれないように、睨まれたが全く怖くない。
屋敷に帰ったら、母や父に報告しようと心に決めた。
「では、私たちはこれで失礼しますね。楽しい時間を」
「妹を頼んだからな。俺はお前のことを信頼しているのだからな」
圧力だ。言葉の圧力を感じる。
うっとりしたまま「妹様想いなところも素敵ですわ」と、聞こえてきたからジェーン様が兄に惑わされているだけなのではないか。
あれは、あれで人気があるらしいから。
「わかっていますよ。アン、行きましょう」
「えっ、でもジェーン様にご挨拶しなくて」
腰に回された手が、ここから離れるぞと訴えている。
折角、彼女の誤解が私のなかで解けたというに、ここで仲良くなれないとは。
ちょっぴりだけ、噂に踊らされた自身を恥ずかしく思う。
しゅんとしていると、「彼女はいいですよ。ケイに夢中で、他の者は障害物…目に止まらないと思いますから」と、呆れながら言っているので、きっとそうなのだろう。あの態度からしたら疑う余地さえない。
「あら、貴方口が悪くてよ。アンジュ様なら見えていますわ」
「割り込まないでください。貴女はケイのそばにいればいいのですから」
ユーゴの言葉で、ジェーン様は兄の腕に絡み付いた。
先程まで恥じらっていた姿は何処に消えたのかというくらいの身軽さ。
やっぱり、社交界は謎が多い。
そして、口許がひきっつている兄がそこにはいた。




