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「まあ、簡単に言えば、ジェード殿下に席に空きがあるから婚約者候補を誘ってみろと言われたんだよ」

「…あの腹黒」

 普段より低い声を出すユーゴに、何か色々とジェード殿下に思うことがあるのだろう。

 それよりも先程まで可愛らしいいと思っていた令嬢は目の前にいない。笑っているはずだが、纏っている空気が一気に変わっている。

「王太子殿下が気にしてくださっていたなんて、私恥ずかしいですわ。こんな素敵な方に選んでいただけるかわからないのに。()()()()()()()()()()()()()()()()多いのでしょね。ケイ様」

 言い方に棘が含まれている気がする。それに、気にしていたのはニコライさんであってジェード殿下ではない。ただ、訂正するとややこしくなりそうだから止めておこう。

 まるで、母の機嫌が悪い時のようだな。

 持ち上げていたベルをやっと鳴らしたが、店の者が来るまでの時間がやけに長く感じた。

 皆、無言だからなのか。

「大変、お待たせいたしました。ご注文をお伺いします」

 救いのような声の主をまじまじと見ると、先程こちらを見ていたひとりだった。

 アンと何か話しながら、顔を赤く染めたりしていたな。いまも、少しだけ声が上ずっているようだ。それに、少しだがうっすらと汗も見える。

 ユーゴを目の前にして緊張しているのだろう。彼奴、見た目だけはジェード殿下に似ているからな。

「私に、アッサム。其方の方に珈琲をお願い」

 明るい声を出しているのだろうが、語尾が強めだ。注文を確認しようとしているが、彼女が扇子を閉じたことで、びくりと肩を震わせる。その姿をみて、笑みを深めるとは。

「僕にも珈琲をお願いします」

 彼女の行動など気にもしていないようで、注文するユーゴに感心する。

 常にジェード殿下に振り回されているようなものだから、些細なことで動じないのだろう。

「ご確認させていただきます。アッサム1に珈琲2で御間違いないでしょうか?」

「ええ、頼みましたよ」

 完全にユーゴの虜だろう。あまり機嫌のいいと言えない令嬢と、特に発言するつもりもない俺。紳士的な態度でやり過ごそうとするユーゴだったら、ユーゴの株があがる。

 だから、此奴が令嬢たちに人気があるのか。妹には悪いが、何だか納得してしまいそうだ。

 去り際に、視線があった気がするが気のせいだろう。気の利かない男とか思われているに違いない。まあ、事実だが。

「ねえ、あなた。紅茶でなくていいのかしら?いつから珈琲が飲めるようになったの?」

「屋敷ではいつでも飲んでいます。婚約者でもないあなたにいちいちそのようなことを知らせなくていけないのですか?」

 そうだろうな。婚約者でもない令嬢に教える義理はない。

 夜会などで好みなどを聞かれるが、適当にいつも答えている。本当のことを知っているのは家族だけでいいと思っている。

 最近は落ち着いているが以前は、好みなど知られると、仕事場に差し入れとして称して贈物をされたり帰り際に突然渡され、とても対応に困ることが多かった。

 情報源は母や元婚約者だったが、俺としては何故他の者に漏らすのかわからない。

 次の婚約者に望むことなら、口が少しでも堅い者がいいと思ってしまう。

「あなたと私の仲ではないの…と、言ってしまうとケイ様に誤解をされてしまうから止めましょう」

 少し頬を染めながら俺を見てくるものだから、崩れてしまった口調を直そうと取り繕う。

 直したところで、先程の荒はもう隠せないのだが。

「おふたりは仲がいいのですね」

「そんなことありませんのよ。ただ、彼の姉。オリヴィア様と親しくしていただいている関係で面識があるくらいですの」

 誤解しては困ります!と、訴えられるが、オリヴィア嬢抜きにしてユーゴと以前この店にいたことを知っているからか、口では何とでも言えるだろうと思ってしまう。

 それに、彼女自身あの時に俺に会っている。それを含め今後を考えなくてはいけない。

 だから、「そうなのですね。あまりに仲がいいものだから恋人かと思いましたよ」とだけ返す。

 隣にいるユーゴの顔が険しくなろうと関係ない。疑われるような行いをしていること自体が悪いのだから。


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