3
真ん中に座っていた妹を奥の窓側へやり、隣に座る。
これ以上、あのような女をみて悲しい表情をされることが嫌だったのもあるが、こんなにも可愛い妹の婚約者だというのに他の女といるユーゴが許せない。
そして、あの女は釣書にいたが婚約するつもりは俺としてはない。何故なら、妹に悲しい表情をさせてからだ。
他の奴らからすれば、くだらない理由だと言われそうだが俺にとってはくだらなくない。きっと、ニコライさん辺りなら理解してくれるだろう。
仕方ないからユーゴにアンの兄として挨拶でもしてくるか。向こうは気づいていないようだからな。
妹が不安そうな顔をするから、安心するように笑ってやれば胡散臭いものをみるような目をしているが、そんなこと気にしたって仕方がない。
「よっ、ユーゴ」と声を掛けてみると、クリスが「おい、バカか。何故、アンジュがここにいるのに声を掛けた」と焦っているせいか、少し声が大きい。
妹がいまここにいると、ユーゴに主張しているみたいで面白いと思ったが口に出すのは止めよう。きっと、妹が何日か口を効いてくれなくなるから。
クリスが妹をテーブルの下に隠れるように誘導し、ちょうど隠れたくらいにユーゴがやって来た。
いつみても涼しそうな表情をしている。昔は冷たい印象を受ける顔立ちだったが年を重ねる毎に令嬢から黄色い声が上がるようになった。
貴族は所詮、綺麗な物しか好きにならない。単純なほどの掌返しに、彼奴自身どう思ったのかは知らないが、妹だけは常に大切に扱ってくれていた。
そんな男だから、妹を託そうと思ったが今回のことは許せそうにもない。
「ケイにクリストファー殿下、お久しぶりです。お二人でこのような場所へ来るとは驚きました」
穏やかな口調だが、このような場所と王立レストランを言ってしまうのは、どういうことだ。ジェード殿下が公務として運営している場だというのにも関わらず、それに、王族であるクリスが目の前にいるとわかっていて何故そのような発言をするのだ。クリスもその違和感に気付いたのか「視察をしている途中で、休憩したくなってな」と当たり障りのない返答をする。
「そうですか。公務中とは知りませんでした」
その言葉がやけに刺々しい。
「そう言えば、お前アンジュに最近会ったか?」と話題を変えれば「最近は会えていませんね、会いたいのですが、アンに断られてしましまして」と口に出すものだから、拳を握りそうになる。
妹はユーゴから誘われれば、断らないことを知っている。それは、グレアム家やハミルトン家でも共通認識のはずだ。それなのに、此奴は俺に平然と嘘を吐く。
テーブルの下に婚約者である妹が隠れているというのに。
「そうなのか、お前たちには俺みたいになって欲しくないから気に掛けているのだが、あいつから断るなら仕方がないな」と告げると、クリスが苦々しそうな表情をする。
俺の元婚約者はいまや第二王子であるクリスの婚約者となった。彼女は軍人の嫁にはあまりにも相応しくなさ過ぎた。ただそれだけだ。彼女とはそれなりの関係を築いていたつもりだったが、ジェード殿下に似てきたユーゴに執着しはじめていた。その事実に気付いたときには彼女は階段からを妹を故意的に落とそうとしていた。慌てて止めに入り、妹には気付かれることはなかったが、彼女と妹を近付かせることは出来ないと父は判断した。
ちょうど、クリスの婚約者を探していた王家が目をつけていたこともあって婚約解消は直ぐに出来たため、俺としてはクリスに申し訳ないとさえ思っている。
だが、何かあるにしろ平然と嘘を吐き出す目の前にいる男については別だ。
「ご心配を掛け申し訳ありません。俺の配慮不足でケイにまで迷惑を掛けてしまっているようで」
寂し気な表情をするが、貴族なら表情などいくらでも作り変えることが出来る。その表情に苛立ちさえ覚える。同じ世界に生きながら、階級に支配されているためここで俺が此奴に手を挙げるのはよくないだろう。まして、妹の婚約者だ。ここで手を挙げたことが向こうに知られれば婚約破棄されること間違えない。それだけは、阻止しなくてはならない。だから、ぐっと拳に力が籠る。
「なあ、ユーゴ。これは私からの提案なのだが、お前がアンジュを不要と考えるなら私がアンジュを貰い受けたいのだが」
「ご冗談を。殿下にアンジュは勿体無いですよ。では、連れを待たせているので失礼致します」
クリスの発言に一瞬だけ、驚き直ぐに余裕そうな笑みを浮かべていたが、彼奴の本心はどこにある。
妹が大切ならば、大切に扱って欲しいと願ってしまう。




