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特恋-トクレン-☆  作者: しんたろー
7/7

第五話 忘れない

翌日の昼休み、特恋部一同with小林和樹は

二年六組のクラス前に大集合していた。


六人もの大人数でクラスを覗いている姿は、

傍目から見て目立つと言えば目立っていたのかもしれないが

だからと言って、誰かが警戒して話しかけてくるようなことは特になかった。


それというのも、二年六組の白咲絵梨香は読者モデルで、

しかも最近はちょこっとテレビドラマなんかにも

出演しちゃうくらいの人物なので、校内でももちろん有名だ。


特に用がなくても二年六組へ見学に来る

生徒達はしょっちゅういるようで、

幸いにも俺達、特恋部だけが特別に変な行動をしているとは

認識されなかったようである。


白咲絵梨香は教室の隅で男子3人、女子2人の友人達に囲まれ

楽しそうに談笑していた。

見た感じ、友達は多いようである。


俺達はじっと彼女を観察する。


彼女の風貌はというと

茶髪に、少しパーマ掛かったセミロングという髪型。

化粧は割と薄く、いわゆるナチュラルメイク。

それほど周りの女子に比べて顔の掘りが深いというわけではない。


けれど、目、鼻、口といた

基本的なパーツだけは、メジャーで計ったように

きっと顔のこの場所に収まれば、女性は美人と呼ばれるんだろうと思われる位置に

ピッタリ収まっている。


色白で、清楚。笑うと眉がハの字になる。可愛い。

街中で見たら確かに一度は振り返るだろう。

俺の理想には足りないが。



「で、どうするの、どうするの? 大ちゃん」



冒険に出かける前の少年みたいなワクワクした表情で、

姫野がひょっこりクラスを覗き込む。



「とりあえず、同じクラスの奴に白咲を呼んでもらうか……」



俺はその辺にいる適当な男女数人に声を掛け、

白咲絵梨香を自分達のところへ呼んでくれるように頼んでみた。


しかしなぜか不思議なことに声を掛ける誰も彼もが

急に用事が出来て学食へ出掛けたり、

トイレをもよおしたり、急に母親の持病が悪化したりして

ことごとく俺達の前からいなくなるのだった。


初めは十数人もいた二年六組の人間が

ただ白咲の名前を出しただけでことごとく急用ができ

彼女等のグループを残しどこかへ消えてしまうのだ。


おいおいおいおい、こんなことあるか? おかしいだろ。 



「……よし、七瀬川。行け!」


「はぁ!? ふざけんな! 嫌だって言ってんでしょ!」


「なんでお前等そんなに白咲のこと嫌がるんだよ! 何か? あいつは、お昼の特定の時間になると、狂って踊り出すのか!?」


「狂わないし踊り出さない。江頭かあの子は」


「じゃあなんだよ」


別に、と言って七瀬川はそっぽを向いた。


「とりあえず、あいつを呼ばないことには始まらねぇんだ……」


「そんなに言うなら、あんたが行けばいいじゃない」


「……俺は、駄目だ」


「なんでよ」


「俺は他のクラスに出入り禁止の、とある強力なスペルをかけられている。見つかったら、俺は高校を去らねばならん」


「なにそれ……」


「大ちゃんは去年、愛の言葉を印刷した名刺をティッシュに挟んで、一年生のあらゆる可愛くて性格の良いと思われる子に配ったんだ」


「結局、それが生活指導の嵐山先生に見つかって、他のクラスに入れなくなったんだよね」


「効率性重視」とひょっこり扉の隙間から苺谷が顔を出した。


「……ほんとバカじゃないのあんた」


「まぁ結果は惨敗だったがな」


「てか、私そんなの貰ってないんだけど」



全員の間に若干の沈黙が流れ視線が交差した後、

俺は再び七瀬川の背中を強引に押した。



「ちょっ!? 行かないって言ってんでしょ!!!」


「ほら、今なんだよ! モブ共が離れた。白咲が一人になった今だ!!!」


「ちょっと! 押すな押すな押すな押すな!!!!」


「あ、あの……! 私が行くよ!!」



強引に戦場へ送り込まれる七瀬川に同情したのか、

姫野がはい!っと手を挙げる。



「えっと、別に、クラスに入っちゃダメってルールがあるわけじゃないし、良いよね? 人を呼ぶだけだし」


「……ごめんね。姫野さん」


「ううん、良いよ全然。よく考えたらそんな揉めることでもないでしょ。普通に呼んでくるよ!」



姫野は、話したこともない白咲のところへ走っていった。

その背中を見送った後、

まったくもうっ……この子はもうっ……

という風な視線を七瀬川に向けると、

荒ぶる野犬の眼つきで睨まれたので、俺は慌てて目を逸らした。



『そんなに揉めることでもない』



確かにその通りだ。ド正論です、姫野さん大正義。

ただ、油断してはいけない。

正論を身にまとう言葉は時として、中身が空っぽなのにも関わらず、

事態を一瞬の内に雰囲気で片付けてしまう傾向が往々にしてある。


物事には、必ずその原因があるのだ。

彼女が言うように、本来は揉める程でもないはずのことが

なぜ、たかが教室の入口で

こんなにもカオスと化して揉めに揉めてしまったのか、


その根本が見えないのは、非常に不気味である。

そして、その答えは姫野が白咲に話しかけてすぐにわかった。



「あの、ちょっといい?」



窓際にポツンと立ち尽くした白咲。

仲間達と話を終え、丁度気を抜いたところだったらしく、

あくびをしながら目を細め、見下ろすようにして彼女を見た。



「……ふぇ。誰、あんた?」


「私、2組の姫野っていうんだけど、ちょっとだけ用事があって。いいかな?」


「いいけど、別に」


「ありがとう! そしたら……!」


「手」



白咲は、姫野の声を掻き消して言葉をかぶせた。

そして突然、姫野の腕を取り、空いている掌に五百円玉を握らせた。



「……? なに、これ」


「ロールケーキパン」


「え?」


「ロールケーキ」


「えっと……」



白咲の声色があからさまに不機嫌になる。



「ロールケーキパン食べたいから、購買で買ってきて!」


「えぇぇぇぇ!? やだよ。なんで私が!?」


「いいじゃないそれくらい。私に用があるんでしょ?」


「そうだけど……」


「じゃあ買ってきて。そしたら聞いたげる」


「あんなとこ並んだら、それで昼休み終わっちゃうよ!!!!」


「それで終わったら、あなたが自身が、それまでの女だったってことでしょ?」


「えぇぇぇぇぇぇ!? そんなことないよ!」


「そうなんだよ! ねぇ、姫野さん……だっけ?」


「う、うん」


白咲はスゥッと浅く息を吸い込むと、

窓際に半分腰掛けて、手すりに片腕を乗せた。


それから彼女は、窓の外にあるずっと遠くの景色に目を凝らす。

茶色に染められたクセのある髪が微風に揺られると、

その柔らかい髪をスッと耳に掛けた。


窓際のベージュのカーテンが、

まるで運命の始まりを告げるようにはためく。

教室の机に出しっぱなしにされた教科書のページが、パラパラとめくられる。


それを止められる者はいない。


凛とした白咲の横顔には一切の迷いがなく、

瞳は澄んで真っすぐ未来の方を向いていた。


そんな彼女の、勇敢で優し気な表情を見て、

姫野はその横顔に心を奪われたみたいに、

ギュッと胸元で両手を握りしめている。



「言われてから行動するんじゃ、遅い……あなたは、絶対に出来る子。みんな……本当はあなたに期待してる、あなたが何かを成し遂げるのを待ってる。あなたが変えるのよ。その手で。誰かが、あなたの世界を変えるのを待ってたら駄目……あなたの世界は、あなたが努力して変えるの」


「……」



姫野は、両手を胸の位置に組んで、ぼぅと白咲の横顔に見惚れていた。

そして気が付くと、彼女の目元には涙が溢れていて、

指先でそっと拭うと同時に、優しく微笑んだ。



「そっか……わかったよ、うん」


おいおいおい姫野、何がわかったんだ、おい。


「大事なこと、だったのにね……一体、どうしちゃってたんだろ、私。あれ? なんで泣いてるのかな」


ほんとになんで泣いてんだよ。


「わかってくれた?」


「うん、私、買ってくるよ! もう二度と忘れない!!」


「良かった、思い出してくれて」


「忘れない!!!!!!!!!!!!!!」


何をだ、何を。


「……ありがとう」と言って白咲はニッコリと笑った。

姫野は決心した様子で、五百円玉を握りしめてこちらへ戻ってきた。



「おい待て姫野。どこへ行く?」



俺は教室を出て廊下へ向かおうとする姫野の腕を掴み、呼び止めた。



「ん?」


「ん? じゃねぇよ。お前は何をしてるんだ」


「……えっとね。大ちゃん。世界を救うんだよ、私。私なら出来る。白咲ちゃんを助けなきゃ」


「いや、白咲を助ける前に小林を助けてやってくれ」


「小林……君?」


「そうだよ」


「……」


「……」


「ハッ……! 私、何してたんだろ!」



姫野は瞳を大きく見開き、頬を両手で挟んで自分の存在を確認した。

気が付いたようだった。色々なことに。



「ほら、お前もさっきから黙ってないでなんか話せよ、小林」


「えぇと。すみません。なんだか、緊張しちゃって。大丈夫ですか、姫野さん?」


「うん……あっ、そうだ!」



何かを思いついたように、姫野がポンと手を叩く。



「大ちゃん、私が直接聞いてくるよ、白咲さんの連絡先」


「アホか! お前が連絡先聞いて小林から連絡が来たら変だろうが。お前が言いふらしたことになって、お前の人格が疑われるぞ」


「そうかなぁ」


「それは、そうかもね……」と七瀬川がこちらを見ずに他人行儀に呟いた。


「でも姫野さん一人の犠牲で済むなら、それもやむなし」


「やむなくないよ。酷いよイチゴちゃん」


苺谷が毒を吐いたところで、突然、七瀬川の足元から声が聞こえた。


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