第四話 この場においてなんちゅうワガママっ娘だ
「う、うん。そうだね。これは大ちゃんの方が良さそう」
俺は姫野が座っている席に交代して腰掛け、小林と向き合った。
「ちなみに、一応聞くが、どうしても白咲絵梨香でないとダメなのか?」
「えっと、それは」
「まぁ何度も言うようだが、相手の性格上、お前が幸せになれる未来が余り見えないし……なんだったら、お前を連れてきたあの七瀬川でも良いんじゃないか? お前には甘そうじゃないか」
「なっ……!?」
途端に七瀬川が顔を赤くし、視線を泳がせるのが目の端で見えた。
と同時に小林が机を両手で叩き、中腰になって俺に抗議してくる。
「いいえ、ダメです! ふざけないでください。綾美姉さんなんかじゃ絶対にダメなんです!!」
なんかって言ったな今。綾美姉さんなんかって。
俺が興奮した彼を座るようにいなすと、小林はハッと落ち着きを取り戻し、再び席に着いた。
興奮して膨らんでいた鼻の穴も元に戻った。
さて、七瀬川の方はどうなっているのか、
恐ろしくて見る気にもなれない。
哀しみと怒りのカオスで、身体中プルプル震えていそうだな。
「それに、綾美姉さんは昔から近所に住んでる、よく遊んでくれた優しいお姉さんって感じで」
「優しい、ね……」
「恋人とか、そういう感じじゃないっていうか」
「そうよ!!! 私は和樹にとって、近所に住む心優しいお姉さんなのよ!!! わかった!? この変態モジモジ!」
「いちいち復唱すんな。それと変なあだ名を付けるな!」
「変態モジモジ。十文字が変態で……モジモジしたらもうナチュラルに変態だね!」
「鉄、お前にだけは言われたくねぇよ」
俺は改めて小林に向き直った。
「まぁとにかく、白咲にアプローチするってことで」
「よろしくお願いします!」
「んで、いくつか確認したいことがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「今、小林君と白咲さんってどういう感じなのかな?」
姫野が小学生の持ち物みたいにキラキラしたペンと、ペンギンのメモ帳を持って小林に詰め寄った。
「どういうっていう感じっていうと」
「つまり、どの程度面識があるのかってことだ。良く話したりする仲なのか。連絡先は知ってるのか、諸々な」
「えぇと……面識はあるんですが、特に親しい、という感じじゃありません。白咲さんは上級生ですし、クラスも違いますから。昼休みに彼女を覗きに行っても、いつもクラスで人に囲まれてて、放課後はモデル活動があってすぐ帰っちゃうんです」
「へぇ。でも面識はあるんだ。どうやって知り合ったの?」
「私が紹介したのよ。白咲さん、同じクラスだし」
七瀬川が答えた。
「なんだよ。じゃあお前がサポートしてやれば良いじゃねぇか。連絡先くらい聞いてやれよ」
「イヤよ。私、あの子嫌いだし」
「イヤって……まぁ、そうなんだろうけどよ」
「別に、紹介する形になったのも成り行きで。たまたまクラスで和樹が私を呼ぶ為に声を掛けたのが白咲さんだったってだけよ。『あ、この子? 白咲さん』って。それで終わり」
「それは紹介じゃなくて説明だ」
「とりあえず、普通に会える関係になりたいよね」
「ふーむ……」
まぁ普通に考えて、同じクラスの七瀬川に橋渡しして貰うのがベターだろうが。
しかし、七瀬川はそれはやりたくないと言う。
この場においてなんちゅうワガママっ娘だと個人的には思うが、
もうそれは人それぞれ好き嫌いあるだろうから、強要はしないでおこう。
ともかく手順として―――
「まずは特恋部として、白咲絵梨香という人間についてのリアルな現状把握。あとは常識的に考えて、例え面識あってもロクに話したこともない小林と、いきなりデートなんてのはハードル高いだろうから、連絡先ゲットを目的にするのが妥当な筋か」
「……ふぅん。あんたでも、割とまともな考え方するのね」
「当たり前だ! 部長だぞ、一応な!! とりあえずだ。かなーり自然に白咲から連絡先を聞き出す良い考えが俺にある。それはもう、ナチュラルにな」
「え? なになに!?」と姫野がはしゃぎながら俺に詰め寄ってくる。
「つまりだな……」
俺はニヤリと笑って、シナリオの大筋をみんなに話して聞かせた。