表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/103

98.勝ったのは

 フレメアの守りを崩すか、レイン達が力尽きるのが先か――観客だけなく、実況や解説も含めて、その戦いを見守り、やがて終わりが見えてきた。


「あなたにしては頑張った方ね、レイン」


 結論から言えば、フレメアの方が上だった。最初に魔力切れを起こしたのはエリィであり、そこから徐々に押され始めたのだ。

 リースやセンはまだ動ける状態ではあるが、フレメアの魔法によって近づくことができない。

 レインの攻撃はここまで来てもなお、全てを防がれてしまった。

 はっきり言ってしまえば単調な攻撃がフレメアに通じるはずもなく、『運』だけで勝てる相手ではない。元より、レインに運という言葉はないのだが。


「……っ」


 苦虫を潰したような表情でレインはフレメアを見る。

 まだ、魔力に余裕はあるが、このままでは確実に押し負ける。

 シトリアが守りに特化してくれたおかけでまだ耐えられているが、誰が脱落してもおかしくない状況であった。


「というか、化物でしょ……。五対一なのよ……? いい加減にしろっての……!」


 エリィはその場にへたり込んだ状態で、それでもなお絶望はしていなかった。魔導師にとって魔力がなくなるというのは、滅多にあることではない。攻撃や防御に利用するのは当然で、なくなれば死に直結することも多いからだ。

 この場だからこそ、全力を出し切って――フレメアには届かなかった。彼女の守りは鉄壁で、五人で力を合わせたとして、突破することはできない。


(でも、それならどうして大技を出してこないんだ?)


 エリィの猛攻が終わり、すぐにでもフレメアの反撃が来ると思っていた。

 しかし、彼女は依然としてその場から動かず、リースとセン、そしてレインからの攻撃をひたすらに捌くだけだ。

 それができているだけでも異常なのだが、レインの知るフレメアであれば、すでに攻撃に入っていてもおかしくはない。


「まさか、魔力を節約してる……? いや」


 そんなことはない、とレインはすぐに自身の考えを否定する。

 フレメアに限って、ここで魔力が切れるような動きをするだろうか。

 確かに《紅天》のメンバーの猛攻は凄まじいが、それだけでフレメアの魔力が削り切れるはずがない。


「その可能性もあるのではないでしょうか」


 レインの言葉に重ねるようにして肯定したのは、シトリアであった。

 レインと同じく、幾分か余裕のある状態の彼女は、冷静に戦況の分析ができている。


「何か根拠があって言ってる?」

「根拠も何も、私はフレメアさんの攻撃を防ぐだけでも、結構な魔力を消費しています。それだけ、彼女の攻撃が凄まじいとも言えるのですが、それに加えてあちらは全ての攻撃を防御に魔力を割いているんですよ? いくらフレメアさんが優れた魔導師とはいえ、限界はあるはずです」

「……でも、それだけでフレメアが――」

「あんたは、いつも卑屈なんだから! どうあれ、ここで決めないと勝てないでしょ!」


 息を切らしながらも、エリィがレインを叱咤する。

 振り返ると、彼女はレインの後ろで腕を組み、


「あんたは、うちで一番強い魔導師なんだから。自信もって戦いなさい!」

「!」


 それはエリィから、レインに向けて最大級の応援の言葉だった。

 レインはすぐにフレメアの方に向き直る。彼女の様子をよく見れば、態度など全てに余裕は見られるが、表情はわずかに硬い。

 フレメアが平静を装っているが、かなり厳しい状態にある証拠であった。

 レインから見れば、師匠であるフレメアは完璧で、畏怖すべき存在で、絶対に勝てないのだと初めから思い込んでいた。


(勝てない相手じゃないって、自分で考えるようにしてたのに――いつの間にか気圧されてた……。ここで師匠に勝つしかないんだ……!)


 そうしないと、自分の人生が一番やばい。ようやく自覚をもって、レインは攻勢に移る。


「こうなったら、打てるだけ打ってやる!」


 両手を構え、もはや乱雑に魔法を放つ。

 勢いだけの攻撃でフレメアを倒せるはずはない。そう考えている自分を否定するように、ひたすらに攻撃を続けた。

 どれほど攻撃を繰り出しても、やはりフレメアには届かない――そう思っていたのに、だんだんとフレメアの守りを押し返すようになる。


「ゴリ押しいけてますよ!」

「よし! そのままいきなさい!」

「分かんないけど! とにかくやる!」


 シトリアとエリィの応援とも言えるか分からない言葉を受けて、レインは半ばやけになりながら魔法を繰り出した。

 ――レイン自身気付いていないことだが、体内に宿している魔力の上限は、フレメアすら上回っている。つまり真っ向勝負で魔法の打ち合いをすれば、勝つのは必然。


「今までのあなたなら、この時点で諦めていたはずなのにね」


 ポツリと呟くように、フレメアは言う。

 フレメアの魔法を打ち破って、同時に距離を詰めたのはリースとセンであった。


「ようやくお近づきになれたわね」

「趣旨を忘れるところだったが、これはあくまで水着を脱がす大会だからな」

「いや、脱がす大会ではないよ!?」


 それとなく聞こえたリースの言葉にレインが突っ込みを入れると共に、二人がそれぞれ槍と刀を振るう。


『お、おおお! 決着、決着です! 大接戦を制したのは、《紅天》だあああっ!』


 はっきりと実況の言葉が会場に響き渡り、たった今勝利が確定した。

冷静にこいつら水着脱がし合ってるだけなの、どうあがいてもかっこいい展開にならないことに気付いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ、前提が水着脱がしだから仕方ない……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ