88.どっちがマシか
『さあ、第二試合の会場の準備も整いました! バトルフィールドは、この会場の中心部に設置された闘技場となります。ルールは至極単純! 水着を脱がせるか、相手を場外へと落とせば勝利となります!』
『先ほどの船上でのバトルも見事であった。この度も期待したい』
何を勝手なことを言っているのだろう――そう思いながら、レインは頭を抱えていた。
闘技場はいくつかのフロアに別れていて、紅天のメンバーは全て同じ位置からスタートとなる。
第二試合で脱落した者はそのまま失格という扱いになるため、すなわちここで生き残りをかけたサバイバルが行われるのだ。
だが、一回戦の時点ですでに戦況は厳しくあった。
本来であれば、お互いを蹴落とすためのバトルロイヤル戦。しかし、現実は紅天のメンバーを除き、ほとんどがフレメア側の協力者だ。
雇われ冒険者が参加している――フレメアが、それだけ大金を叩いたということだろうか。
すぐ近くにはフレメアはいないが、おそらく戦いが始まれば彼女は絶対にこちらにやってくる。
レインは落とされるか、水着を脱がされれば敗北なのだ。
「レイン、あなたのことは忘れないわ」
「ねえ、お願いだから戦う前から諦めないで!」
「もちろん、私は諦めてはいない」
すでにレインの敗北が確定しているかのような物言いのセンとは打って変わって、リースはレインの肩を叩いて、そう励ましてくれる。
さすが、パーティメンバーの中でもイケメン枠だと言えるだろう――そんなリースの姿に思わずときめく……暇もなく、レインはただ『どう生き残るか』を考えていた。
通常の戦闘ならば、今のレインが負けることは、ほぼないと言っていい。
魔法のレベルは、現状では『Sランク』の冒険者の扱いを受けても、何ら遜色はないのだから。問題となるのは――圧倒的なまでの運のなさ。
本人だけでなく、紅天のメンバー全員も把握していることだろう。
レインはあまりに不運すぎるのだ。町を歩けば必ずと言っていいほど躓いて転び、外に出れば魔物に襲われて酷い目に遭う。
力はあってもそれが完璧に使いこなせないが故に、レインはいつまで経っても不運には勝てない状態にあるのだ。
だが、その不運な状況を切り抜けてきたのも、パーティメンバーの力とレイン自身の力があるからなのだ。
(でも、今回は厳しいか……?)
それも踏まえてもなお、レイン自身すらそう考えてしまう。
この二回戦で負ければ失格……それなのに、『場外』か『水着が脱げればアウト』という極めてレインにとって不利なルール。
そう――レイン自身も、どちらかはしてしまうだろうな、という確信が心の中にあるのだ。
水着は脱げなくても、場外には何らかの理由で落ちることになるだろう。
場外に落ちなかったとしても、水着は脱げることになるだろう。
もしも、その二つのどちらかを選ぶならば、まだ場外の方がマシかもしれない。
大衆の面前で全裸を晒すわけにはいかないのだ――
(……諦めるつもりはない。諦めるつもりはないけれど……!)
最悪、場外に行こう。
レインはそう決意した。この勝負に負ければ、レインはまたフレメアの弟子――否、下手をすれば奴隷として扱われることになるかもしれないが、『全裸を晒す』よりはマシである。
(いや、マシなのか……? 今の身体で師匠と一緒に生活するって……何されるか分からないし……!)
どっちがマシなのか、やはり分からない状態になってしまう。
そんな中、無情にも第二試合開始の宣言がされようとしていた。
『全ての選手が位置についたと連絡がありました! それでは第二試合――』
(くっ、どっちがマシなん――)
バシンッ。
「――いたっ!?」
背中に衝撃を受けて、思わずレインは振り返る。
叩いたのは、エリィであった。
「エ、エリィ……?」
「怯える必要はないわよ。ここにはあたし達――紅天がいるの。あんたがどれだけ不運でも、あたし達が守ってあげるから」
「ひゅー、かっこいいわ、エリィ。どこかの誰かさんと違って男前ね」
「誰が男前よ!」
「どこかの誰かさんって誰のことだ!」
「あら、息ぴったり。お姉さん少し嬉しいわ。だから、わたしもそろそろ冗談はやめて――本気で行こうかしらね」
「初めから全力で行きましょうよ。レインさん、私も尽力しますから」
「みんな……」
エリィだけでなく、センやシトリアも励ましてくれる。
初めから諦めるにはまだ早い――
「……って、最初に諦めたのはセンだよね!?」
「細かいことにこだわる男は嫌われるわよ、覚えておきなさい」
「細かいことじゃないっ!」
『スタートとなりますっ!』
――言い争いをしていたら、第二試合が開始された。
(レインの水着が脱げたら負けなんです……フレメアの奴隷にさせらてしまうかもしれません……応援してあげないと……)