78.案の定
『はいはーいっ、みなさん準備はいいですかっ! 間もなくイバルフ恒例の《水着大会》が開催されまーすっ! 本大会の出場者数は過去最多となりますが……今回注目選手はいらっしゃいますか?解説のトキゾウ氏』
『ふむ……どの選手も期待できるが、まずは水着を見てみないことにはな』
『水着大会なんだからそりゃそうだって話ですよねっ! 私的には何と男性選手が出場しているということには驚きですが……!』
『確かに。だが、男女は関係ない。剣の道でも斬られた方が負け……水着に着られていない者を某は求めている』
『な、なんと……深いような深くないような……あ、選手の皆さん準備ができたようなので、それでは呼び出した番号順に入場してもらいましょう! エントリーNo.1――』
「つ、ついにこの時が来てしまった……!」
「それ二度目じゃない?」
センの的確な突っ込みを受けながら、レインは膝をつく。
そこら中、水着姿の女性陣ばかりの状況で男はわずか二人。
異彩を放つのはレインではなく、マクスだけだった。
レインはレインで、未だにローブを着ているという苦し紛れなことをしている。
「レイン、君はいつまでそれを着ているつもりだ」
「……僕の最後の生命線だ」
「水着を着た時点で関係ないと思うが……」
リースにそう言われても、レインはギリギリまでローブを脱ぐつもりはなかった。
むしろ――脱ぐつもりはなかった。
大会さえ始まってしまえば、無理に脱がしてこようとする者はいない。
レインはローブも含め水着だと言い張るスタンスで行くつもりだった。
「本当にそれで勝つ気あるのかしらね?」
「難しいと思いますが……」
エリィとシトリアは呆れたようにそう呟く。
当たり前だが、《紅天》のメンバーは皆水着姿だった。
センとリースはシンプルなカラーのビキニだが、それぞれ黒と赤という濃い色合いのものを着用している。
リースの方がスタイル的には胸が強調される形となっていた。
シトリアは清楚なイメージに合わせて白の水着に水着のパレオ。
この中では一番イメージ通りに水着を着ていると言える。
エリィはというと、リースと同じく赤色で、パンツタイプの水着なのだが――
「……胸がないって言ったら殺すわよ?」
「な、何も言ってない!」
「思っても殺すわ」
「そんな理不尽な……」
「大丈夫よ。一番の貧乳はレインなんだから」
「そ、そうそう――って当たり前だ!」
一瞬納得しかけたが、レインはすぐに突っ込みを入れる。
このメンバーでフレメアの相手をすることになるが――
「優勝した方が勝ち、ということでいいわね?」
「……! 師匠……」
やってきたのは、フレメアだった。
フレメアの水着は、カットの多く入った露出度の高いモノキニ。
それを見たレインが最初に思ったことは――
「歳のことは考えていたら今、殺してあげようかしら」
「り、理不尽な人が多いよ……!」
「まあ女性に対してそれを考えるのは失礼なことだとは思うが」
「ふふっ、リースの言うとおりよ。まあ、安心なさいな……私が優勝するのは間違いないのだから」
レインにとっては優勝されたらまったく安心できない。
是が非でも勝たなければならない相手だが。
「……どちらも優勝しなかった場合は、どうするんですか……?」
「ふふっ、どうしたい?」
「え、そ、それは……」
「冗談よ。あなたの勝ちでいいわ」
「っ!? い、いいんですかっ」
「ええ、もちろんよ。あ、そろそろ時間だから行くわ。楽しみにましょうね」
そう言って、フレメアはレインの下から去っていく。
もちろん、レインはフレメアの言葉を全て鵜呑みにはしない。
(あの師匠が僕に有利なことを言うなんて……絶対に勝つ自身があるってこと……!?)
審査員の買収か、あるいは妨害工作か――レインは考えを巡らせる。
主に卑怯な方面ばかり想像するのがレインらしかった。
(ど、どうする……審査員買収とか大きな大会だからそんな可能性考えてなかったよ……!)
「――イン!」
「……」
「レインっ! 番号、呼ばれてるわよ」
「あ、わ、い、今行くっ」
レインは考えを巡らせながら、遂に舞台の方へと向かう。
(どうする……今さら確認しようもないし……これで負けたらあの師匠に――わっ!?)
そして、当たり前のように会場に姿を現したレインは、当然のように転ぶのだった。
レインが着ていたのは、紺色で肌の露出度が低い《スクール水着》という水着だった。