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72.再度の要求

 レインが生み出した猫の氷像は三体――きっと魔法を使うたびに生み出せるのだろうが、三体いれば十分だと言えた。

 否、むしろ過剰とも言えるほどの強さを持っている。

 ヤマタビルの八本ある首のうち、三本を一瞬で吹き飛ばした。

 実際、地面から生えていた触手も含めれば、ヤマタビルの口はもっと数多く存在していることになる。

 けれど、大本となる首から上を軽々と吹き飛ばした時点で、猫の氷像がヤマタビルの強さを用意に上回っていることが分かる。


「あの猫、あんなに強かったの……!?」

「始めから動かせていれば楽に戦えたかもしれませんが、そういうわけにはいかなかったということですね?」

「う、うん……」


 シトリアとエリィが気を使ってレインの方を見ずに会話を続ける。

 すでに全裸に近い状態のレインは手でかろうじて隠しているだけの状態だった。


(あ、そうだ……!)


 レインは魔法を一つ発動する。

 同じように、猫の氷像が目の前に出没した。

 レインはその背後に身を隠す。

 一先ず身体を隠すことには成功した、とレインは安堵する。

 後ろからは丸見えだが。

 シトリアが鎧を解除し、エリィのイフリートも消滅していく。

 二人とも、魔力の限界が近かったようだ。


「ふう、久々でしたのでまともに戦闘させてもらえませんでしたね」

「いや、十分にすごかったと思うけど……」

「まだ気を抜かないで。あんたの猫が戦ってるのよ?」

「わ、分かってるよ」


 エリィが苦言を呈する。

 二人とも臨戦態勢を解いたとはいえ、油断しているわけではない。

 それはレインも同じだった。

 ここ最近――色々と酷い目にあってきたレインはまだ何か起こるのではないか、と高い警戒心を持つようになっている。

 その上、今はレインに生えた猫耳と尻尾がその能力を向上させていた。

 レインにとっては、ただチキンな部分を強化させただけに過ぎないが。


「状況は……」


 ヤマタビルに対しては、一体の猫の氷像で十分だった。

 首を落とされても、ヤマタビルには再生能力がある。

 ぐんっ、と落とされた首を傷口から再生したヤマタビルは、猫の氷像へ一斉に襲いかかる。


「にゃーん」


 くんっ、と猫の氷像が手招きをするように前足を動かす。

 風を切り裂くような音と共に、ヤマタビルの首が吹き飛ばされた。


「……!?」

(つ、強すぎない……!?)


 レインの使う魔法はいずれも強力な効果を持っているが、そのかわりレイン自身には力のコントロールができない。

 だが、魔法自体が意思を持っているのなら話は別だった。


「あれは、《使い魔》化しているのかもしれませんね」

「使い魔? 魔物でにゃくてもできるんだっけ……?」

「珍しい事例ではありますが、可能ですよ」

「高い魔力を持っていると起こるっていう話ね。中にはあたしのイフリートみたいな魔法を使い魔と化している人もいるみたいよ」


 その話を聞いて、レインは何となくフレメアのことを思い出していた。

 彼女の扱う魔法は、まるで意思を持っているかのような動きをすることがある。

 フレメア自身がそれだけの力を持ち、そして力をコントロールできている証だろう。

 もっとも、フレメアとレインの違いは修行によって得られた力と、意図しない強化魔法のような効果で得られた力という大きな違いがあった。

 猫の氷像の一体がヤマタビルの本体目掛けて駆ける。

 氷の身体だというのに、その動きは俊敏だ。


(――というか滑ってる!?)


 つるつるとほとんど足を動かさず、滑るように動いているのは何とも奇妙な光景だった。

 すれ違い様、ヤマタビルの本体を三等分に両断する。

 切断されたヤマタビルは、ずるりと動かなくなった。

 その先――虎の魔物と二体の猫の氷像が向き合っていた。

 互いに牽制し合うような動きを見せるが、先に動いたのは虎の魔物の方だった。

 ぐんっ、と距離を詰めると、大きな前足で猫の氷像を叩く。

 叩かれた猫の氷像は地面を滑るように吹き飛んでいく。

 それと同時に、もう一匹が動いた。

 虎の魔物の背後から、爪による攻撃を行う。

 虎の魔物が振り返ろうとするが――


「……!」


 虎の魔物の足は、地面に氷漬けにされていた。


(あれは……《アイス・フィールド》……!?)


 レインが最初に発動しようとして、猫の氷像を生み出した魔法。

 どうやら、猫の氷像は物理的な戦いだけでなく、魔法効果自体も持ち合わせているらしい。

 確かにレインが使った魔法の中では、予想外に強い部類の魔法にはなるが――


(今の僕は猫カフェで猫の会話が分かる体質になってるのに、あの猫の氷像達の会話は分からなかったし、何か違うのかな……?)


 レインの猫撫で声とお願いポーズによってようやく動き出した猫の氷像達――仮に強い魔法だったとしても、都度あれをしなければならないと思うと、レインにとってはあまりにデメリットの大きな魔法だった。

 背後を取った猫の氷像の爪は、虎の魔物の後ろ足を切り裂く。

 だが、寸のところで虎の魔物は跳躍し、そのまま尻尾で猫の氷像を牽制する。

 A級の魔物であるヤマタビルを一体で圧倒する力を持つ猫の氷像を、二体同時に相手できる――あの虎の魔物は、間違いなくSランク相当の魔物と言っても差し支えなかった。


(二体で苦戦してる……。けど、もう一体も向かい始めた……!)


 猫の氷像が三体並ぶ。

 虎の魔物と再び相対する形になる。


「にゃーん」

「にゃーん」

「にゃーん」


 まるで番号でも言うかのように、猫の氷像は大きな声で鳴いた。

 そして、二体が空へと跳ぶ。


(え、ええええ?)


 猫の氷像はそのまま一体を土台として、上に重なっていった。

 もしかすると合体するつもりだったのだろうか。

 だが、特に何も起こる様子はなく、虎の魔物によってだるま落としの要領で吹き飛ばされていく。


「何ていうか、あの猫の氷像を見てるとあんたの魔法っぽいわね」

「どういう意味!?」

「そのままの意味ではないでしょうか」

「シ、シトリアまで……! 僕はあんにゃバカにゃ感じじゃにゃい!」

「今のあんたの話し方とか相当説得力ないけど……」

「……っ!」

「エリィさん、レインさんをいじめるのはそこまでにしましょう」

「あんたも乗ってたでしょ!」

「今の状況を見るに、このままだとレインさんの猫の氷像だけでは虎の魔物には勝てない可能性があります。私達ももう一度戦う準備を」

「分かっているわ。レイン、あんたの身体を隠してるその猫も戦いに向かわせたら?」

「い、いや……この子はちょっと……」


 これを動かすと、レインの身体を隠す猫の氷像はなくなってしまう。 

 どれだけ生み出せるか分からないが、あれだけの能力を持つ猫の氷像を複数生み出せるとは思えなかった。


(で、でも確かにこのままじゃ……)


 レインから見ても、猫の氷像達が不利なのは分かった。

 そのとき――一体の猫の氷像がレインの方を見ていることに気付く。


「にゃーん」

「……?」

「にゃーん」

(え、まさか……)


 言っていることは分からないが、この短い期間でレインは猫の氷像の言いたいことが分かるようになっていた。


(もう一回、あの声を出せって言うのか……!?)


 ここにきて、謎の要求がレインに向けられることとなったのだった。

書きたい衝動に勝てなかったので、新作のTS作品始めました……。

お暇なときにでも読んでみていただければと思います。


【連載版】スキル《女体化》と《露出(強)》 ~ユニークスキルは、最強だけど最低のスキルです~

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[良い点] レインちゃん、もっと鳴いてほしいです(豹変
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