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70/103

70.結果として

 猫の氷像はレインに襲いかかろうとした触手を切り裂くと、そのままペロペロと前足を舐めるような仕草を見せる。


(う、動いてる……!?)


 レインも思わず驚いてしまう。

 見た目から察するにゴーレム生成系の魔法のようで、ただの氷像を作り出すことしかできないかと思えば、不意に動き出したのだから。

 ゴーレムと言えば、作り出せば使用者の意思を汲み取って動く存在である。

 だが、この猫の氷像にはそもそも動く命令などもしてこなかった。

 そもそも、ゴーレムを作り出す魔法として放ったのではないから当然と言えば当然なのだが。


「レイン、あんたが動かしてるの?」

「そ、そういうわけじゃ……動くにゃらこれも切ってほしいんだけど!」


 レインが猫の氷像に向かって叫ぶ。

 猫の氷像はレインの方を一瞥したかと思えば、そのまま明後日の方向を見て動くのをやめてしまった。


(な、なんて中途半端な期待を……!)


 現状を打破できる鍵になるかと思えば、特にレインの言う事を聞くわけでもない。

 レインの危機も去ったわけではなかった。

 触手は何本もレインに絡み付き、そしてその先端には全て歯が付いている。

 ほんの一本切断したくらいでは助かる余地などなかった。


(ど、どうする!? 何使っても変な猫の氷像しか出ないし――!?)


 そうレインが考えている隙に、二本目の触手がレインに襲いかかろうとする。

 だが、それもまたレインに届くことはなかった。

 ブンッと投げやりな音が聞こえたかと思えば、レインに襲いかかろうとする触手を猫の氷像が切り裂いた。

 ついで背後――レインも気付いていなかった背中から迫る触手を、別の猫が切り裂く。


「え、ええ?」


 レインはまたしても困惑する。

 捕まっている状態のレインを助けるわけでなく、ただ襲いかかろうとする瞬間だけ猫の氷像が助けてくれるのだ。


(何でこんな気まぐれに――え、そういうこと?)


 ここで、レインは理解する。

 現在のレインは、猫耳と尻尾が生えている状態だが、その影響は魔法にも出ていた。

 魔法の猫化――そして、その性質は気まぐれだということ。


「そ、そんにゃふざけた話があるかぁ!」


 レインは怒ったように突っ込むが、猫の氷像達は意に介さない。

 むしろ、憤慨するレインの方をちらりと見ると、


「にゃーん」


 そう一言だけ呟いた。


「しかも喋れるの!?」

「……とりあえずレインは大丈夫そう」

「それならば、私達はあちらと戦いましょうか」

「ま、まだ触手が残ってるから――はっ!?」


 レインは助けを求めようとしたが、ずるりと二本の触手がずれる。

 完全に見られるとアウトなところがエリィの方から見えるようになっていた。


「仕方ないわね――」

「や、やっぱり自分でにゃんとかするからいいよっ!」

「な、何よ。いいわ、それならあっちに集中するわ」


 ちらりとエリィがこちらを振り向きかけたところで踏みとどまる。

 エリィの反応を見るに、少なくともレインのほぼ全裸状態を見られたわけではないようだった。


(セ、セーフ……じゃない! 何も解決してないじゃないか!)


 レインは落ち着くと同時にまた慌てふためいた。

 何も解決していない――レインは触手に捕らえられたまま、都度危機が迫るたびに猫の氷像が助けてくれるだけの状態だ。


「あ、あの!」

「……」


 レインは猫の氷像に話しかけるという奇妙な状況になる。


(くっ、何で僕が僕の魔法を説得しないといけないんだ……!)

「た、助けてもらえると嬉しいんだけど……?」

「……」


 猫、ここにきて完全にスルー。


(ぐっ! 僕がやられそうな時しか助けないつもりか……!?)


 実際、レインの背後から迫った触手は再びレインを襲おうとするが、猫の氷像によって切り裂かれる。

 無事ではいられるが、いつまでもこの状況で放置されるのは気が気でなかった。


(も、もう一体魔物がいるっていうのにこいつら――ん、待て。こいつら、さっき『にゃーん』とか言ってたけど……)


 話すことができるのは分かっている――ということは、彼らには彼らなりのコミュニケーションがあるのではないかということ。


(な、ね、猫語で話せっていうのか……!? そんなの知らないし!)


 レインは困惑しながらも、自身の仮説に乗っ取り、小さく深呼吸をしてからその言葉を口にした。


「に、にゃん……」

「! にゃーん?」

(ほ、本当に反応するの……!?)


 猫の氷像はレインの発した言葉に反応し、首をかしげた。

 最悪にも、レインの予想は当たってしまった。

 この猫の氷像達は通常のゴーレムと違い、猫語によってしか反応しないということ。

 そもそも猫語が存在するかも分かっていないレインだったが、今までとの反応の違いを見るに、ほぼ間違いのないことだった。


「……」

「……」

「えっと……」

「……」

「……にゃん」

「にゃーん」


(本当に反応してくるよ……)


 レインはちらりとシトリアとエリィの方を見る。

 二人はすでに虎の魔物との臨戦態勢に入っていた。

 少なくとも聞こえていそうにはない。


(は、恥ずかしいけど仕方ない……)


 このやり方でしか通じないというのなら、レインもそれに従うまでだった。


「にゃ……にゃん」

「にゃーん?」

「にゃにゃん」

「にゃーん?」

「……にゃん」

「にゃーん?」

「通じてにゃいだろ!」


 レインがそう声をあげると、猫の氷像は首を横に振り、


「にゃーん」


 猫なで声というのはまさにこのことか――そんな甘えるような鳴き声を出して、スッと前足を僕の方に向ける。


「い、今のをやれって?」

「にゃーん」

「そ、そんにゃ声できるか――って普通に通じてるじゃにゃいか!」

「……」


 猫、ここにきて再びのスルー。


(ぐぬぬっ、僕の魔法の癖に……!)


 レインはそう思いつつも、脱出できるかどうかは猫の氷像にかかっていた。

 このまま待っていればいずれシトリアとエリィが虎の魔物を倒してくれるかもしれないが、それを待っているわけにもいかない。


(し、仕方ない……)

「にゃ――」

「……」

「ひゃんっ!」

「!」

「……っ!」

(へ、変なタイミングで触手が……!)


 今までそんなに動かなかったというのに、レインが頑張って猫なで声を出そうとしたタイミングで触手が動いた。

 それで声が上擦ってしまい、言えていないどころか余計に恥ずかしい気分になる。


「にゃーん」

「え?」


 だが、猫の氷像はレインの前に立つと、ブチブチとレインの身体に絡む触手を引き裂いていく。


(い、今のでいいなら何でもいいじゃないか……!)


 そう――猫の氷像は気まぐれ。

 とりあえず助けを求めるレインにそれっぽいことをさせたかっただけである。

 レインはようやく触手から脱出するが、半裸から全裸になるという悲惨な結果だった。

 戦いの始まる前からこうなること自体も、普通になりつつあることにレインは絶望するのだった。

せや! 二章は水着大会メインで言ったろ!の決意から二章が大会始まる前に終わりそうで……。

やはり展開は遅いのかもしれないと思う今日この頃でした。

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