7.戻ることを諦めずに
紅天へ加入することになったレインは、一先ず帰宅していた。
後日、所属のメンバーに紹介するとことだ。
レインは貸りていたこの家を手放して、紅天のメンバーが集まって暮らしているという家にうつることになる。
荷物をまとめなければならないので、しばらく時間をもらうことにしたが――
「はあ……どうしてこんなことに……」
深くため息をつく。
一応、色々あったが最小限に問題はおさえられたとは思っている。
実は女で正体を隠している、そう思っているのはリースとリリの二人。
その二人がレインの性別については特に話さないでいてくれるというのだから、一応男として通すことは可能だ。
それでも町中でフードを被ることは欠かせないが。
レインが実力を隠していたという疑惑についてはもう仕方ない。
現状ではレインが女の子になってしまった理由を知る者はいないし、なってしまったという事実を知る者もいない。
始めから女の子だったという勘違いをしているのが二人だけだ。
(これくらいなら後でどうとでもなるはず……)
後でというのは、レインが戻ってからのことを想定していた。
レインはまだ男に戻るということを諦めていない。
付与されているのならば、その効果を無効化する方法もあるはずだ、と。
腕に巻いた包帯を取ると、そこには相変わらず黒い模様が刻まれている。
腕を斬り落とせば――そんな考えすらも浮かんでしまうが、当然そんなことをやる勇気はない。
そもそも、気絶する前に全身に何かがまわっていく感覚があった。
この模様はあくまで腕に装着したから残ってしまったと考えるのが妥当だろう。
「……シャワー浴びよ」
考えても仕方ない、とレインは浴室へと向かう。
昨日の今日で自身の姿に慣れるということはない。
裸になった自分を見ると、レインは赤面してしまう。
その身体は完全に女の子のものになってしまっているのだから。
「胸はやっぱり、さらしで何とかなりそうだけど……」
まともに鏡で見れば、やはり以前に比べると女の子っぽいというのは隠せない。
少し髪を切ればなんとかなるだろうか。
毛先も柔らかくなっており、完全に別物をいじっているようだ。
肌も若々しくてなんというか滑々としている。
さわっていると変な気分になるので早々に身体を洗って浴室を出た。
「……少し寒いかな」
そんな季節でもないはずなのに、なんだかそう感じることも多くなった気がする。
氷を扱う魔導師はそういう耐性は比較的高いはずなのだが。
荷物は明日からまとめよう――そう思いながらレインは工房の方へとうつる。
工房と言っても、部屋の中が通じている別室をそう呼んでいるだけだ。
「ワイバーンの素材の一部も受け取ったし、このあたりを削って……」
レインが始めたのは魔道具から付与された効果を解除する方法を模索することだ。
薬草から魔物の素材まで様々なものを調合して、効果がありそうなものを試していく。
試行錯誤を繰り返すのも魔導師としては当たり前のことだ。
完成した薬品は飲料とするか、直接身体に打ち込むものとして作成する。
今までもレインは何度か期待通りの薬品の精製に成功している。
今回だって上手くいくはず――それは、レインがまだ楽観的に考えている証だった。
昨日も同様に挑戦して解呪には失敗している。
尤も、呪いではなかったのでそもそも解呪ができないというのが正解だった、とレインは諦めていない。
作成した薬品は第七号。
付与された強化魔法を解除することができることが期待される薬品だ。
それを昨日からいくつも作り続けている。
「んくっ」
レインは一気に飲み干して――
「ぶふーっ!」
勢いよく吐き出した。
涙目になりながら思いっきりせき込む。
「まずっ! くそまずっ! 誰だ、こんなの作ったのは! 僕だよ、ちくしょう!」
舌をえぐるような苦みだけでなく、微妙な臭みもあってとても飲めたものではない。
ただ、こういう結果になるとその分効果は大きくなることがある。
意を決して、再びレインは残っていたものを飲む。
吐き出しそうになることをこらえて、今度は何とか飲み干した。
「……うっ、おえ、きもちわる……。けど、これでなんとかなる、はず……?」
そうして、レインはそのまま工房のソファに気絶するように横になる。
翌日、何も変化のない自身の身体を見てまたショックを受けることになるが、ワイバーンの素材の効果により昨日よりもさらに美肌になった。