表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/103

55.宣戦布告と後悔と

「や、やってしまった……!」

「いいじゃない。もう終わった事なんだし」

「他人事みたいに言わないでよ!」


 センは酒をあおりながら、レインの失態について慰めたいのか煽りたいのか分からない態度を取る。

 夜――まだ日が暮れたばかりだというのに、レインはがくりと膝をついた。

 結局、昼頃から渋々飲み会を始めたレインは、いつも通りの流れを辿った。

 センに挑発されて、レインはそれに乗る。

 飲み始めてから数十分程度で、レインのたかが外れてしまった。

 そこで――事件は起こった。


「大体さぁ、いつまでも逃げ出した弟子を追うなって話だよぉ」

「うんうん、その気持ちは分かるわ」

「センさんも追われていましたね」

「姉さんもしつこいのよ。油汚れかっての」

「姉を油汚れとは……エリィはそんな事考えないよな?」

「……」

「エリィ!?」

「とにかく! しつこいんだよ!」


 酔ったレインは普段なら言わないような事を言い始める。

 フレメアの愚痴から始まり、いい加減追いかけるな、という事を話し始めた時だった。


「だったら、今から宣戦布告しに行きましょうよ!」


 酔ったノリでセンはそういう事を言い出す。

 リースが咎めるように、


「いや、酔っ払いの絡み酒でそういう事をするのは――」

「よしっ! 言ってやるっ!」

「なに、レイン……君は正気か――いや、正気じゃないな」


 レインの姿を見て、リースがそう確信したように言う。

 だが、センがリースの肩に腕をかけると、


「素面のレインじゃ宣戦布告とか無理だって」

「そんな事は……あるか」

「そうでしょ? 毎回逃げる提案から始めるチキンなのよ」

「まあ確かにチキンではあるが」

「誰がチキンだ!」


 酔っぱらったレインは二人の話をほとんど聞いていない。

 対してセンとリースもレインを無視して話を進める。


「いや、だが決闘というのはギルドを通じた正式な通達をだな……」

「だから、ギルドの立会人を連れていけばいいのよ」

「しかし……」

「大丈夫だって。どちらにせよ決闘を申し込むつもりなら勢いがある方がいいでしょ? レインがビビって逃げ出したらどうするのよ」

「それは困るな」

「では、今から宣戦布告に行くという事ですね?」

「……本当に行くの?」

「行ってやるぞーっ!」


 エリィが問いかけると、レインがテンション高く答える。

 そこで、全員が頷いた。

 真面目に話しているようだが――実のところエリィ以外は全員酔っぱらっている。

 特に、リースやシトリアは一見すると酔っていないように見えてしまう。

 ギルドに立ち寄った時、センやレインのテンションを見て酔っていると思われたが、リースにシトリアとエリィの姿を見て、立会人を出してくれた。

 ギルドの決闘に関する立会――これは、冒険者同士でのいざこざが発生した場合に、双方納得のいく方法で解決できない場合に選ばれる。

 まずは冒険者同士の意思の確認から始まり、双方合意のルールの下で決闘を後日行う事になる。

 その勝敗によって、以後後腐れはないようにするというのが冒険者間での暗黙のルールだった。

 フレメアが果たしてそれに従うのか疑問なところもあったが、レイン曰く常識はないがギルドの方針はある程度守るらしい。

 フレメアとしても、ギルドを敵に回すほどの力があっても回せば面倒だという事だ。

 フレメアの泊まる宿の前にて、再びフレメアと対峙する――


「師匠! 僕に関わるのはもうやめてもらいたいんですよ!」

「……へえ。面白い事言うのね」


 改めて対峙したフレメアは、笑顔でそう答えた。

 酔ったレインは勢いに任せて宣言する。


「だからぁ、決闘を申し込みます!」

「決闘? ふふっ、そういう方向で来るのね」


 フレメアはレインから、何かしらの提案があると分かっていたようだった。

 フレメアの隣――エイナも黙って頷いている。


「姉さん、この決闘にはわたしの分も入ってるから」

「……そうか。ならば――」

「ええ、受けてあげるわ。それで、どういう方法で決めるのかしら」

「方法? 方法って……何かある?」


 レインが後ろを振り返る。

 酔った勢いだから、ルールも何も考えていなかったのだ。

 フレメアがくすりと笑いながら、一枚の紙をレインに手渡す。


「なら、これで決めましょうか」

「なにこれ?」


 レインがフレメアから提案されたのは、町で開かれる予定だったイベントについてだった。

 レインは目を細めてそれを確認しようとするが、


「嫌なら魔法の直接対決で――」

「あーっ! 師匠自分の都合のいい方で戦おうとしてますね! ダメですよ! それならその紙のやつでいいですぅ」

「お、おい。大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫。なんか楽しそうなイベントだったよ?」

「なら決まりという事で」


 ギルドの立会人に、フレメアがその紙を渡す。

 酔ったレインが決闘の内容を認めてしまい、センはそれに悪乗りして合意した。

 五体二で――フレメア、エリナ、レイン、センと過半数以上の合意があったためにその決闘が認められた。

 勝った方の言い分が認められるという決闘の条件で、レインが勝てばフレメアがレインに対して追いかけるなどの行為をやめる事とした。

 それは、エイナがセンに対しても同じだ。

 そして、負けた場合は――


「レインとセンは私達のもの、という事でいいのね?」

「望むところだ!」

「レインったら男前な返事ね……お姉さん感激しちゃう」

「本当に大丈夫なの……?」

「まあ、本人達がいいというのならいいのでは?」

「……場合によってはパーティが三人になる重大な問題な気もするが」


 他のメンバーの心配をよそに、決闘の承諾が行われた。

 そして帰宅後――酔いが醒めてきたレインが決闘の内容である紙を見て震える。


「ど、どうして止めてくれなかったんだよ!」

「だって、レインがノリノリだったから」

「うっ、あの時は酔ってたから……!」

「まあ、そういう意味だと私達も酔っていたが……合意してしまった以上は仕方ない」

「いや、だって……《水着大会》ってなんだよ!?」

「大丈夫、レインは可愛いから」

「え、そう――って、そういう問題じゃない! 僕は男なんだぞ!?」

「あー、その設定ね」

「なにその投げやりな感じ!?」

「いや、でもレインは男なのにどうするのよ?」

「……」

「え、何この感じ」


 エリィの発言に対し、レインを除いた三人は向き合って沈黙した。

 センにもばれている事をレインは知らないが、女の子である事実はすでにエリィ以外には隠せていない。

 そして決闘の内容――それは一年に一度、ギルド主催の町で行われるイベントの一つだった。

 水着で出場して優勝者を決める大会――それがレインの命運を決める決闘の舞台だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ