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51.救世主

 扉の向こう側は、とても信じられない光景が広がっていた。

 鋼鉄製のベッドから、人が一人入れそうなガラス製の入れ物。

 棚には何種類も液体が並べられ、医療器具と思しきものまで数多く揃えられている。

 問題は、鋼鉄製のベッドには枷が取り付けられているという事。

 とても誰かを治そうとか発言する人のものとは思えない。


「さ、そこに横になって」


 それでいて、フレメアは当たり前のようにそんな事を言った。

 今もリードは握られたまま、手錠もそのままにレインは逃げられない状態だった。


「し、師匠、一応確認しますが……僕は人間ですよ?」

「あははっ、レイン。私がそれくらいの事知らないと思って?」


 そう言いながら、ぐいっとフレメアはレインのリードを引っ張る。

 バランスを崩したレインの前に、フレメアが膝をついて優しく言い放つ。


「知っていて横になれと言っているのよ?」

「……そうですよね」


 レインの半ば諦め気味に頷いた。

 フレメアはそういう人物だ。

 常識があれば――宿にこんな器具の数々を持ち込んだりしない。

 見る人が見ればただの拷問部屋のようにしか見えないそこは、以前レインが見たフレメアの自室とほとんど一緒だから性質が悪い。


(こうなったら、もう最終手段にでるしかないか……っ)


 レインにとって、それは苦渋の決断だった。

 自分でフレメアにどうにかしてほしいと言ったのは事実だが、どのみちレインが何を言おうとこの場には連れて来られた気がする。

 だから、失敗すれば酷い扱いを受ける可能性を踏まえて――レインは抵抗する事にした。


「師匠、僕だって怒る時は怒るんですよ」

「あら、どうしたの? 突然」


 一瞬の隙をついて、リードを握っていた手から何とか逃れる。

 レインは手錠と首輪をされている状態でも、まだ足は自由だった。

 それに魔法だって使える。

 正直裸のまま戦って外に出るような事になればどうなるか――その心配もあったが、ここにずっといるよりはましに思えてしまった。


「もしかして、私と戦うつもり?」

「はい、その通りです」

「大層な自信ね……あなた、私に勝てた事があったかしら?」

「確かに……今までの僕だったら勝てなかったかもしれません」


 けれど、今のレインには自信があった。

 不本意ながらも手に入れた力――《最強》クラスの魔法があるのだから。

 レインはまさか、ここでこの力に感謝する事になるとは思わなかった。

 レインが臨戦態勢に入ったにも拘らず、フレメアの態度は変わらない。


「止めておいた方がいいわよ、レイン」


 子供の駄々をあやすような話し方だった。

 それがレインの神経を逆撫でするが、それでもいい。

 フレメアの動きを止められる魔法が放てればいいのだから。


「氷よ――」


 レインが詠唱を始める。

 だが、すぐに違和感を覚えた。

 首輪に軽く痛みが走り、レインが顔をしかめる。

 それでも詠唱を終えたレインの前に起きた現実は、信じられないものだった。


「あ、れ?」


 魔法が、発動しなかった。


「ねえ、レイン。私が何の対策もせずに、魔導師であるあなたを捕まえると思う?」

「……な、なんで……?」

「それよ」


 トントン、とフレメアが自身の喉を叩く。

 それは、レインの首輪に仕掛けてあるという意味だった。

 否、レインもそれだけで理解する。

 この首輪はただレインを引きずるためにつけたのではなく――魔法を使えなくさせる魔道具であるという事に。


(わざわざこんなものまで用意しているなんて……!?)

「うふふっ、最初の状態で気付いていると思ったけれど、やっぱりあなたは律義ね。魔法で抵抗するのは最終手段――そう考えていたのね」

「い、いや、その……」

「大丈夫よ、レイン。未遂だものね? あなたは何もしなかった――そうよね?」


 フレメアの問いかけに身震いする。

 何もしなかったのではなく出来なかった――ただそれだけだ。

 レインが魔法を発動できれば、今のレベルの氷を扱うレインを知らないフレメアには勝てたかもしれない。

 元々――レインはフレメアと同じ水魔法の使い手だったのだから。

 何も答えられないレインの下へとフレメアは近づいていき、


「ああ、もう横にならなくて大丈夫よ」

「え?」

「私が横にならせるから」


 レインの事を無理やり持ち上げて、フレメアはベッドの方までレインを運ぶ。

 今度こそ――完全に詰んだ。

 どうせ詰むなら抵抗しようなんて考えなければよかったという、そんな悲惨な考えすら浮かぶ。

 この状態もフレメアの予想通りなのだとしたら、やはり彼女には勝てないのではないかと思わされた。


「でも――やっぱり逆らおうとしたお仕置きは必要よね」

「……っ」


 にやりと笑うフレメアに、何も言い返せない――その時の事だった。

 コンコンッと隣の部屋をノックする音が響く。

 レインもフレメアも、それを聞いて動きが止まる。

 このタイミングで部屋を訪れる者といえば、宿の関係者くらいだろうか。

 助けを求めたら助かるだろうか――そんな事も考えていた時だった。


「あら……お客さんかしら」

「フレメア、部屋の中にいるか? リースだ。少し話があってきた」


 それは、レインにとっての救いの声だった。

新しくTS作品の連載も始めたので、お暇なときにそちらも楽しんでいただければと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃ興奮する…めちゃめちゃ興奮しますね…
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