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50/103

50.残された三人

 逃げ出したセンとレインに取り残されたリースは、しばらくその場で待機していた。

 すると、そこへ待ち合わせをしていたシトリアがやってくる。


「あれ、リースさんお一人ですか? 二人でお肉を買いに行っていたのでは――って、お肉はありますね」

「ああ、それは買ってある」


 リースの隣には、大きな肉の塊が置いてあった。

 シトリアが周囲を確認する。

 当然だが、この辺りにはセンもレインもいない。


「何て説明したらいいんだろうな……とりあえず、二人とも逃げた」

「逃げた? またおかしな話になっているようですね。しかし、レインさんだけならともかくセンさんもですか」


 レインについてはそういう事があってもおかしくはないとシトリアも思っている。

 リースについても、おかしくはない話だとは思っていた。

 先ほどレインの知り合いだという事で知り合った女性――フレメアは態度だけで言えば普通の人だったが、レインの様子を見るとどうなのか分からない。

 ただ、知り合いであるというのは事実だったようだ。


「まあ、しばらくすれば戻って来るとは思うが……今日戻って来るかどうかは怪しいな」

「センさんもですか?」

「どうだろう……センを追いかけていたのは、おそらくセンの姉だ」

「ああ、センさんがたまに言っていた人ですか? 逃げ出すっていう事は、あまり仲が良くないんでしょうか?」

「いや、追いかけるっていう事は仲がいいんじゃないか?」

「それはちょっとリースさんの考えがおかしいかもしれませんね」

「えっ、そうか?」


 そんな風に二人が話していると、そこへエリィがやってくる。

 両手に持ったカゴにはいくつか果物や野菜が入っていた。


「あれ、まだリースとシトリアしかいないの? ――っていうか、リースはセンと一緒に買い物にいったはずじゃないの」

「エリィ。ちょうどいいところに来た。お前は私に追いかけられたら逃げるか?」

「え、なにそれ……あたし追いかけられるような事した?」

「いや、例え話だ。私がお前を追いかけ回すような事はしないさ」

「まあ、内容にもよるけど追いかけられたら逃げるかも」

「そういうものか……」


 エリィに答えられ、リースは少し考える。

 妹と追いかけっこくらいは普通の事だと思っていた。

 さすがにエリィが嫌がるので実際にやったりはしないが。

 エリィにもセンとレインが逃げ出した事を伝える。

 すると、エリィは少し驚いた表情をしていた。


「え、レインって逃げてたの?」

「ん、どこかで見たのか?」

「見たっていうか、そうね。レインらしきものは見たけど」

「らしき、ですか?」


 シトリアの問いかけに、エリィが頷く。


「なんか、空飛ぶ水竜がいてさ。魔物か何かかと思ったんだけど、よく見たら人が乗ってて」

「そこにレインが?」

「メイド服着てたし、レインかなーって。前の人はなんかドレスみたいなの着てたけど」

「レインだな」

「レインさんのようですね」


 リースとシトリアが頷く。

 しかも、エリィの目撃情報により一つの事実が確定する。

 レインは、フレメアから逃げ出したが、捕まってしまったという事実だった。

 だが、連れていくという事に大人しく従ったのなら、それほど大きな問題ではないだろうとリースは考えた。


「しかし、フレメアという名前はどこかで聞いたような気がするんだよな」

「フレメアさん、ですか? そのレインさんの知り合いというのは」

「ああ、黒髪の女性で美しかった」

「そういう感想が出るのはリースさんらしいですが……」

「フレメアって……フレメア・コルトゥじゃないの?」

「知っているのか、エリィ」


 リースがエリィに問いかけると、エリィは答えた。


「知っているも何も、二人とも聞いた事はあるでしょ。フレメア・コルトゥ」

「いや、覚えはあるんだが」

「そうですね。以前聞いた事はある気が……」

「あー、まあもう結構前かも。あたしが冒険者になる前の話だけど、結構噂になってたじゃない。《狂気の魔女》って呼ばれてるSランクの冒険者がいるって」

「あー、町一つを水で沈めた事もあるとかいう冒険者か」

「さすがにそんな事をしていたらとっくに捕まっていると思います。実際には、町中に侵入した小型の魔物を見つけるために、町中全体に結界を張ったというのが正しい話だったかと。それで水浸しになったのが町を沈めたという誇張に繋がったのでは?」

「それもおかしいと言えばおかしいな……」

「冒険者というか、人としては異常な部類ではあるかと思います。他にもいくつかそういう話題はあったはずです」

「魔導師としては超一流、らしいけどね」


 つまり、今レインはそんな冒険者と一緒にいる事になる。

 町中全体に結界を張れるクラス――実際、リースから見てレインもそれに近い実力を持っているとは言える。

 それでも逃げ出すという事は、二人は過去に何かあったという事だろうか。


「少なくとも、そういう人物に捕まったのだとしたら放っておくべきではないのかもしれないな」

「そうですね……レインさんの事ですから、もしかしたら相手の方を裸にしているかもしれませんが」

「それだとレインの方がおかしい人みたいじゃない……」


 そんな話をしつつも、三人ともレインの事は心配していた。

 センの方は姉に追われているだけなのならば心配はない。

 だが、レインが《狂気の魔女》と呼ばれるフレメアに追われていたのなら――


「エリィ、どこへ飛んでいくのかは見たか?」

「高台の方面だったから、あの辺の宿だと《バーナル》とかじゃない?」

「あり得ますね。Sランクの冒険者でしたら、余裕で払えるレベルですし」

「よし、一先ずはそこへ向かうぞ」


 リース達はバーナルの宿を目指して移動を開始した。

 目的はまず話を聞く事だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さらわれたのに、こう呑気な雰囲気なのがとても良い
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