5.ドジッ子魔導師
空中で足場を作ればそこを跳び移り、リースはワイバーンを次々と倒していく。
一方、レインも同様だった。
ただの初級魔法でワイバーンを屠るレインはすでに注目の的。
いつものレインなら負けはしないにしろ、戦いには発展するだろう。
そうなる前に次々とワイバーンを撃ち落としていく姿に一番驚いているのは相変わらずレイン本人だった。
「これで、ラストだ」
リースがワイバーンの喉元を貫く。
そのまま地上へと落下してくる。
レインも氷の魔法を解除する。
小さな氷の粒となってそこら中に降り注ぐ。
(あの魔道具の影響か? 神代のものとか言ってたし……)
望まれたことを叶えるだけだと思っていたが、他にも効果があったのだろうか。
レインは副効果については知らない。
とりあえず、何か話しかけられる前に逃げてしまおう。
そう思ったところで、
「レイン、協力感謝する」
リースが普通に話しかけてきた。
こういう格好をしている時点で何かしらあったと察してもらいたいところだが。
何とか誤魔化そうとするが、言い訳が思いつかない。
「い、いやぁ……僕はレインではなくてですねぇ」
「……? 何を言っているんだ? そういえば、正体を隠して冒険者に再登録などどういうつもりだ。罪を犯したわけでもあるまい」
「うっ」
犯罪に手を染めたわけではない――それを完全に否定できるわけではない。
一応、魔道具をギルドの許可なく市場へと流通させる行為に加担しているのだから。
ただ、それで正体を隠しているわけではない。
「それに驚いたな。改めて近くで見て確信したが、君は女の子だったんだな」
「ち、違うっ! 僕は男だ!」
「なんだ、やっぱりレインじゃないか」
「あっ」
墓穴を掘ってしまい、完全に身バレしてしまった。
しかも、女になってしまっているということも。
リースからしても、実は女だったという風にしか思えないようだったが。
誤魔化しの効かなくなったレインは、リースに対し、
「と、とにかくっ! 僕がここにいたことは黙っていてくれ」
「まあ、別に構わないが……後で説明はしてもらうぞ。それと、ワイバーン討伐の報酬はいらないのか?」
「あ、あとで僕のところにでも送って?」
一応、そこはもらっておく。
ワイバーンを複数体となればそれなりのお金がもらえるはずだ。
踵を返してその場を去ろうとすると、
「あ……っ!」
ちょうどいいところにレインが砕いた氷の破片が落ちていて、つまずいた。
すてーん、と両手をあげて綺麗にこける姿を、その場にいた全員に見られる。
一気に視線が集中した。
「こけた」
「こけたな……」
「謎の魔導師がこけたぞ!」
(そんなに言わなくてもいいから……っ)
こけたのは自分のせいだから何も言えない。
先ほどから思ったが、どうにも転んだりしてついていない。
何か呪われているかのような――そう思った時、魔道具の存在が一瞬ちらつく。
(いや、さすがにそんなことはないよな……)
不運まで魔道具のせいにするのはよくない。
気をつければいいだけのことだ、とレインは気にせずに立ちあがる。
仮面のおかげで特に顔も怪我せずに済んでよかった――ピキッ。
「ピキ?」
後ろにいたリースが聞いた音を口にする。
レインも一瞬、何の音か分からなかったが――パリンッ、とそれが砕け散ると、レインの視界は広くなった。
レインのつけていた仮面が割れたのだった。
視線が集中している中で、何が起こったのか分からないレインに視線は集中している。
特徴的な銀髪をしたレインの顔を見て、多くの冒険者が驚きの声をあげる。
「おい、あれレインじゃないか?」
「女みたいな男の……でもいつもより女の子っぽくない?」
「《蒼銀》か、確かBランクじゃなかったか?」
「いや、あれはどう見てもSランク相当の……」
「Sランク相当なのに力を隠したドジッ子か……」
「……っ!」
具体的に何か属性を付与しようとしている者までいる中、レインは顔を真っ赤に染めて慌ててその場から立ち去った。
(何でこうなるんだよっ! しかも一回こけただけでドジ呼ばわりするなっ)
正体がばれてしまったこともそうだが、恥ずかしさもあってその場から逃げだした。
「さっきの魔導師の方……レインさんですか?」
「……ああ、そうみたいだが」
リリの問いに、リースも答える。
その日から、レインの噂は広まり始めていた。
実はSランクだったとか、ドジッ子とか、今まで以上に女の子っぽくなっていたとか――幸い女だと断定するような話はなかった。
しばらく家に引きこもっていたレインだったが、ギルドから送られてきたワイバーン討伐に関する報酬と同時に、『ギルド再登録の件について』という手紙が封入されていたことにより、またギルドへと向かうことになった。