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4.謎の即バレ魔導師

「ワ、ワイバーンの群れが来たぞ!」


 ギルドに駆けこんできた冒険者がそう叫ぶと同時に、ギルド内はざわついた。

 魔物にも危険度を指し示す指標がある。

 冒険者のランクのようなものだ。

ワイバーン――小型の竜種で、危険度はB級。

 Bランクの冒険者ならば単独で戦うことが可能ということだ。

 ただし、それが群れとしてやってきたのならば話は別だ。


(群れ……だとしたらAランク程度の冒険者が出る必要があるかな)


「私も行ってくる。すでに何人か向かっているだろうが」

「リースさん、ありがとうございます」


 リリとリースが話をしている。

 リースはAランクの冒険者だ。

 Sランクではないがギルド《紅天》には確か他にSランクが一人所属している。

 最強のギルドと名高い紅天が出るのならば、特に心配することもないだろう。

 そう思っていたが、


「グゥラァアアアアア!」


 外から、その鳴き声は聞こえてきた。

 明らかに人のものではない。

 ギルドの内部がざわつく。


「ワ、ワイバーンがここまで?」

「数十体規模の群れだったから……前線だけじゃおさえきれないんだ」


 リリの言葉に、先ほど報告にやってきた男が答える。

 それはもう群れというレベルを超えて、大群と化していた。

 凶悪な魔物が単独でやってくることはあっても、こうして大勢でやってくるということはほとんどない。

 冒険者達だけでなく、皆々外へと飛び出していく。

 レインもそれに続く。

 空では複数体のワイバーンが飛翔していた。


「ちっ、何をやっているんだ」


 リースが動く。

 建物の上に登って迎撃の態勢に入ろうというところだろうが、ワイバーンは高く飛翔している。

 リースは前衛タイプの冒険者だったはず――滑空をしてくるときくらいしか狙うタイミングはないだろう。

 レインならば、十分に狙える距離ではあるが、ここで目立ちたくはないという気持ちはあった。

 何か起こるまでは静観しよう。

 そう思った時、上空を飛ぶワイバーンが火球を吐き出した。

 それはちょうど、ギルド上部へと落下してくる。

 周囲を見渡す限りだと、あの攻撃を防げる冒険者はレインしかいなかった。

 近接特化のリースだけではワイバーンの火球をすべて防ぐのは難しいだろう。

 Bランクである魔導師のレインならば、相性は多少悪くても防ぐことはできる。

 一瞬ためらったが、ギルドの中には職員も残っている。

 今は緊急事態だ。


「氷結せよ、凝縮せよ、連なる壁となって顕現せよ――」


 詠唱を開始して、すぐに魔法を発動する。

 《アイシクル・ウォール》。

 氷の中級魔法であり、それなりの大きさの壁を作り出す防御魔法だ。

 降り注ぐ火球をいくつか防ぐ程度ならば問題ない――そう思ったが、魔法が発動した瞬間に強い違和感を覚えた。

 力が無理やり出てしまっているような、力んでいる感覚。

 レインはこの姿になってから、まともに攻撃魔法を発動していなかったので気付かなかった。

 自身が異常に強化されているということに。

 ――ゴォオオオオオオオオオッ!

 爆音とともに生成されたのは、もはや中級魔法というレベルのものではなく、


「な、なんだ……!?」

「氷の、山!?」

「すげえ、どんなレベルの大魔法なんだ……」


 ワイバーンの火球を防いだのは、数メートルはあろうかという分厚い氷の壁。

 それが何十メートルにもわたり、巨大な屋根となって降り注ぐ火球を防いでいた。

 ぶつかったところで、表面が多少削れるだけだ。

 周囲の冒険者達が驚きの声をあげる中、一際驚いていたのは――


「えええええええええっ!?」


 レイン本人だった。


(ぼ、僕か!? いや、こんなの上級魔法のレベルも超えているぞ!?)


 使ったのは中級魔法。

 それにも関わらず、威力だけで言えば上級魔法を超える威力。

 一瞬自分が使ったものではないのではないか、と疑ったが、魔法を発動した本人だからこそ分かる。

 あの巨大な氷の塊を作ったのはレイン本人だ。

 当然、多くの者が顔見知りのこの場では正体不明の冒険者希望である者に視線が注がれる。


(僕がやったと思っているのか!? いや、僕がやったんだけど! くそっ、訳分からんっ)

「今の魔法は君か?」

「えっ? ち、ちが……いや、違わないけど……」


 思わず素で答えてしまった相手は、《紅天》のリーダーであるリースだった。

 リースは驚いた表情をする。


「その声……昨日から違和感はあったが、レインか?」


 即バレである。

 レインはあたふたとしながら首を横に振る。


「ち、違うよ。僕はレインなんてやつ知らないっ」

「『私』から『僕』になっているぞ」

「……っ」


 レインはもう言い訳が思いつかない。

 そのまま黙ってしまうと、リースは上を見上げた。


「あのレベルも浮かせられるなら、足場も作れるな?」

「え、作れるけれど……」

「いくつか頼んだ。私も上に行って何匹かやる」


 リースが構えたのは槍だ。

 そのまま、跳躍だけで建物二階分を跳ぶ。


「や、やるとは言っていないんだけど……」


 そう答える前にリースは行ってしまう。

 身バレしている以上、断るわけにもいかない。

 巨大な氷の壁を砕いて操作する。

 ちょうどワイバーン達を追うように、それを上手く操作できることにも驚いた。

 以前に比べても、魔法を扱うことに一切の抵抗がない。

 このレベルの魔法を使ったという事実にも驚きだが、その後のコントロールも自然な形でできてしまっている。


(ほ、本当に僕がやっているのか……)


 リースが上空ですでに何体かワイバーンと交戦している中、危険を察知してその場から離れようとするワイバーンもいた。


(しょ、初級魔法なら……大丈夫かな)


 アイス・ショット。

 最も基礎的な氷魔法で、小さな氷の塊を飛ばす魔法だ。

 逃げるワイバーンを狙って撃つ。

 精製された氷はそれほどまでの大きさではない。

 中級魔法には驚いたが、こちらはそこまででもないようだ――そう思って加減なしで発動してしまった。


「カッ!?」


 目にもとまらぬ速さで、氷の弾丸は加速し、ワイバーンを貫いた。

 通常ならばもっと遅い攻撃のはず。

 今度は声をあげなかったが、


(えええええっ! 何あの速さ! 誰も避けられないだろ!)


 氷の操作をしながらワイバーンを打倒する――その姿を周囲の冒険者達から見れば、Sランクレベルの魔導師であると想像させるのは容易だった。


「な、何者なんだ……あの魔導師は……」


 すでにリースには正体を見破られてしまっているが、他の者にはまだばれていない。

 周囲のそんな視線をよそに、自身の力に驚き続けているレインがそこにはいた。

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