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39.仲のいい

 キノコ事件から数十分――キノコのある場所を抜けて、湿り気のある洞窟内を五人は歩いていた。

 レインは少し不機嫌そうに周囲を魔法で確認する。


「この付近も、特に問題はなさそうだよ」

「よし、先に進むか」


 リースの言葉に、全員が頷く。

 ただ、先行していたセンがリースとチェンジするように手で合図をしていた。


「レイン、そろそろ機嫌直して?」


 こちらへやってきたセンが不意にそんなことを言い出した。

 レインはばつが悪そうにセンの方を見る。

 不機嫌だということを、単純に悟られていたからだ。

 レインとしては極力出さないようにしていたつもりだが、どうにも隠すのが苦手になっていた。

 レインは小さくため息をついてから応える。


「別に、僕としてはもう怒ってないんだけど……」

「それが怒った言い方じゃない」

「いや、ほんとなんだって」

「そう? ならいいけど」


 センはレインからキノコが生えているのを見て、それはもう笑い転げていた。

 Sランクの冒険者を笑い殺せるんじゃないか、というくらいだった。

 レインとしては怒りたい気持ちもあったが、思い出すと恥ずかしい気持ちの方が大きくなるのでやめた。

 隣を歩くシトリアは平然とした顔をしている。

 シトリアからすれば、お腹よりさらに下――股の部分だったとしても女性同士ならばそこまで気にならないということなのかもしれない。

 意識している自分の方がむしろおかしいのではないか、という思いも少しだけ感じてしまう。


(そ、そんなことはない。だって僕は男なんだから)


 シトリアと一緒にベッドに寝たとき、レインは緊張していた。

 それはきっと男として女性と一緒に寝たからだ。

 そう思っていたはずなのに――


(誰かを好きになったことなんてないけど……女の子の方が好きなのは当然だ。だって、僕は男なんだし――って、今はどうなるんだ)


 ふと、疑問に思ってしまう。

 多少なりとも精神に影響は出ていることはレインも分かっていた。

 以前までは何事にも冷静に取り組めていたのに動揺しやすくなったし、センからも言われている通り、おそらくこのパーティの中で一番女々しい。

 それはレイン自身も薄々感じていた。


(女の子が好きな女……僕はそういうことになるのか?)


 今の状態だと、そうなってしまう。

 初めてそのことを意識した。

 もし仮に――そんなことは考えたくはないが、レインが元に戻れなかった場合の話だ。

 レイン自身は女の子の身体でも、男と一緒になるつもりはなかった。

 パーティを組むだけならまだしも、一緒に生活するとなると今は少し抵抗感がある。

 男のときだったらまだ良かったのかもしれないが。


(いや、そもそも僕は安定の生活がほしいだけであって、相手がほしいわけじゃないんだ。だから、大丈夫)


 レインが自身に言い聞かせるようにして、頷く。

 誰かを好きになるようなことは少なくともないだろう。

 レインはとにかく、この洞窟の魔物を早々に討伐して、元に戻ることを集中すればいいのだと考えることにした。


「レイン、平気なの?」

「え?」


 不意に声をかけてきたのはエリィだった。

 最初はツンツンしていたエリィがレインのことを心配している。

 レインとしては、上手く付き合っていけそうだから悪くはないと思っていた。


「少し顔色が悪そうだったから」

「まあ、洞窟入ってから色々あったし、ね」

「それはまあ、同情するけど。あんたって本当に運ないわね」

「僕だって好きでこうなったわけじゃないからねっ」


 レインがそう答えると、エリィは少しだけ俯いて、軽く深呼吸をする。

 何事かと思ったが、意を決したようにエリィが声を発した。


「ダンジョンのとき、あんたには世話になったから――今日はあたしが守ってあげる。不運だからね。あたし結構運良い方だから」

「あ、ありがとう?」


 守ってくれる――そう言ってくれるのならと返事をしたつもりだったが、唐突のことで疑問形になってしまった。

 近くにいたセンがいたずらっぽい笑みを浮かべてエリィに近づく。


「あらあら、エリィからそんな言葉が聞けるなんてお姉さん、嬉しいわ」

「な、なによ? 悪い?」

「嬉しいって言ってるじゃないの。うりうり」

「や、やめてってば」


 そんな風にいちゃつき始める二人。

 エリィの性格からするとセンとはあまり相性がよくなさそうだと思っていたが、意外と二人は仲がいい。

 いつから四人で組み始めたのかは知らないが、少なくとも紅天のメンバーはリースとエリィが始まりのはずだ。

 そこにセンとシトリアが入った――そう考えるとシトリアはまだしもセンの方は打ち解けるまで時間はかかったのかもしれない。


「なに、お姉さんの顔に何かついてる?」

「い、いや、二人とも結構仲いいなって思って」

「うらやましい?」

「いやそういうことじゃなくて……」

「わたしはいつでもウェルカムよ」

「そういうことじゃないって!」

「……センはこういう性格だって分かるでしょ」


 エリィの言葉に、レインも頷いた。

 センの性格だから、結局無理やり仲良くなってしまったと言いたいのだろう。


「あ、これ終わったらまた飲み会だから」

「えっ、そうなの?」

「いつもそうなのよ。エリィも今回は最後までいなさいよ」

「あたし、お酒はダメだから……」

「平気よ。もっとダメダメなのが目の前にいるんだから」


 ちらりとセンがレインの方を見る。

 エリィもそれを聞くと、


「まあ、確かにそうかも」

「言っとくけど、僕はそんなに弱くないからな!?」

「またそんなこと言っちゃってぇ。勝負する?」

「望むところだ……!」


 そんな安い挑発にまた乗ってしまったと後悔するのは、ほんの数分後のことだ。

 取り消ししようにも取り消せない無駄なプライドが邪魔をして、また勝負することを約束してしまったレインだった。

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