38.キノコ撤去
「はっ、ひ、そ、そんなところには普通生えないでしょ……! ちょっと、わたしを笑い殺す気!?」
「笑うなぁ!」
頬を真っ赤に染めて、レインが抗議する。
センはうずくまったまま、「ごめん、無理」とまた大声で笑い始める。
「いや、その、なんだ。そういうことも、あるよな。ふっ」
「そ、そうね。そういうことも、あるわよね。ふふっ」
肩を震わせて視線を逸らしているのはリースとエリィ。
笑い方は二人とも似ている――そんな風に達観してしまえればどれだけ良かっただろう。
恥ずかしさだけがこみ上げてくる。
(こんなの男に戻ったわけでも何でもないしっ!)
レインは涙目になりながら股間の部分をおさえる。
一本だけ、キノコがそこに生えているという事実は変わらない。
レインのそんな姿を笑う三人に対して、一人だけ笑わずに接してくれる人物がいた――シトリアだ。
「レインさん、とりあえず抜きますから……あちらの岩の陰の方へ行きましょうか」
「え、抜くって……これを!?」
「はい。抜かないと吸われちゃいますし、大きくなってしまいますよ」
「その表現やめてっ!」
「おかしなことを言ったつもりはないのですが」
恥ずかしそうにするレインに対し、至って真面目な表情のシトリア。
それが余計に恥ずかしくなってくる。
レインは首を横に振ると、
「い、いいよ。自分で抜くから」
「いえ、素人判断で抜くのは危険です。奥まで入るわけではないですが、下手に抜けば傷ついてしまうかもしれません」
「で、でも……」
「安心してください。痛くしないですから」
「はっ、ひひっ、その表現わざとでしょ!」
「センさん、笑いすぎですよ!」
ちょっと怒ったようにシトリアがセンに注意する。
センも謝ってはいるが、どうにもツボに入ったらしく、なかなか笑いはおさまらない。
「や、やばひ……腹筋死ぬ……い、息できなひ」
「ちょ、あんたまで笑わせないでよっ」
「シトリア、センが窒息しそうだ!」
「センさんなら大丈夫ですよ。さ、レインさん、こちらに」
「い、いや、やっぱり自分で……」
「ダメです。観念してください」
「うぐ……」
岩陰の方までレインは連れて行かれる。
レインはなかなか脱げずにいたが、シトリアの「引っぺがしますよ」という言葉を聞いて覚悟を決めた。
「んっ……」
服をたくしあげて、口にくわえる。
何かをくわえていた方がいいというシトリアの言葉を聞いてだった。
シトリアにはすでに裸体を見られている。
今更隠したところで何も意味はない、というのは不幸中の幸いなのかもしれない。
それでも、まじまじと見られていると緊張した。
シトリアはそっとキノコに触れる。
触れられても、その部分に感覚があるわけではない
「痛くないですか?」
「う、うん」
シトリアの触診が続く。
先っぽから根元の方へと手が動くと、シトリアの手が肌に触れた。
「ん、ふぅ」
「あ、痛かったですか?」
「いひゃ……」
服を口にくわえたまま、首を横に振る。
シトリアの手がひんやりとしていてくすぐったい――そんなことを言うのは恥ずかしく、ただ我慢するしかなかった。
「やはり表面に張っているだけのようですね。簡単に抜けると思います」
「しょ、しょれならはやく抜いてくれふ?」
「待ってくださいね。簡単にと言っても、肌を傷つけないようにはしないといけないので」
「……」
そんなことは別に気にしなくてもいい――そう言おうとも思ったが、シトリアにそれを言うと怒られそうな気がした。
レインはしばらく黙ったまま、シトリアの動向を見守る。
キノコ周辺の肌をさわさわと触れては、時折ぺりっという音とともに剥がれる。
むずむずとした感覚はあるが、我慢できないほどではない。
レインはちらりと後方を気にする。
セン達がこちらにやってこないかどうかを気にしていた。
「セン、しっかりしろ!」
「はひ……」
「人工呼吸とかした方がいいかな!?」
――心配はなさそうだった。
シトリアは急がず、だが可能な限り早くキノコを取り除いてくれた。
サッとそれを地面へと置く。
「あっ」
「どうしました? 完全に取り除いたはずですが」
「あ、うん。大丈夫……」
妙な脱力感となぜか喪失感もあるが、頭を振ってそれを誤魔化す。
無事にキノコは取り除かれた。
リース達のところへ戻ると、死にそうだったセンはかろうじて生きている状態に戻っていた。
「はあ……はあ……なんとかなったみたいね」
「どんだけ笑ってたんだよ……」
「レインの身体を張ったネタが強すぎたのよ」
「張ってない!」
「とにかく、だ。ここから気を付けて進むぞ。レイン、もう大丈夫だとは思うが……念のため言っておく。一番気を付けろよ」
「わ、分かってる。もうあんなことはしないよ!」
そう宣言した数分後に、つまずいた勢いでまたキノコが生えることになるレインだった。
センと、そしてエリィまでも呼吸困難で死にかけることになる。
唯一の良心――そう感じていたシトリアですら、二回目は吹き出していた。