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37.洞窟とキノコ

 うねりうねりと、洞窟の内部を黒い魔物は蠢いていた。

 ここはとても静かで、湿っていて、すごしやすい。

 魔物にとってとても快適な場所だった。

 ここに住んでいた以前の主とは戦いになることはなかった。

 魔物がやってきた時点で、そいつは早々に洞窟から抜け出して外へと出ていったからだ。

 強いものはその相手がどれくらい強いのか分かる。

 戦うことを選ぶのは無謀というものだ。

 こうして、魔物は新しい安住の地を手に入れた。

 元々住んでいた場所は少し煩く、危険の伴う場所でもあったからだ。

 魔物は、ここ数日は静かに洞窟内部で暮らしていた。

 だが、こちらの様子をうかがう何かがやってきているのを感じていた。

 魔物はより快適な場所を探して移動を開始し始めているところだったが、後から追われるのも面倒だと考えていた。

 ずるり、広い場所に出ると身体を動かして反転する。

 魔物が洞窟内に現れた侵入者を迎え撃つことにしたのだった。


   ***


「さて、レインのベトベトも取れたことだし先に進みましょうか」

「まだ完全には取れてないけど……」


 服の上がわずかに湿っていて、中も滑ついている。

 早く帰ってシャワーを浴びたいところだが、そんな理由で紅天のパーティは一旦戻ろうということには当然ならない。

 レイン一人ではこの洞窟から戻るのに少し心配があった。

 レインの魔法ならば当然、大型の魔物に対しては圧倒的な力を誇る。

 だが、数の暴力になると話は別だ。

 森の中では絶えず様々な方向から狙われることになる。

 元々のレインの実力ではまず単独で突破することは難しい森だった。

 だから、早々にこの依頼を達成して戻りたいという少し不純だがパーティの目的とレインの考えが一致することになる。


「暗い洞窟の中では特にシトリアの魔法が重要になるな」

「はい、周囲の視界の確保は任せてください」

「レイン、あんたもこういうところなら活躍できるんじゃないの?」

「え、僕?」

「ほら、迷宮でもやってたじゃない」

「ああ、探知系の魔法のこと?」

「あら、レインそっちの方も結構得意なの?」


 センの言葉に、レインは頷く。

 エリィが知っているのは当然だった。

 一緒に迷宮を攻略したのだから。

 実際、探知魔法はこうした狭い場所では有効だ。

 ただ、洞窟内部となると広い場所も当然出てくる。

 そうなると効果は薄くなってしまうのだが。


「そういうことならレイン、頼めるか?」

「うん、分かった」


 レインは素直に頷く。

 今のレインの魔力なら、ある程度広いところもカバーできるだろう。

 レインが魔法を発動して周辺を確認しつつ、目視でも警戒することになった。

 周辺にはやはり魔物が数体いるようだったが、近づいてくる気配はなかった。


「うん、特に問題はなさそうだ」

「こっちもオッケーよ」


 レインの魔法とシトリアの視界確保で洞窟内の安全を確認する。

 センがやや先の方まで歩を進め、確認を行っていた。

 パーティの構成としてはセンが先行する形で前に、リースが守る形で後衛に待機する。

 主に近接戦闘を得意としないレインやエリィを守る形だった。

 特にレインを中心に守ろうという動きは、かなり見られた。

 なぜなら本来後衛のシトリアですら、レインの近くに立っているからだ。

 感謝すればいいのだろうか――そんな複雑な気持ちにレインもとらわれる。


(いや、守ってくれるのはありがたいんだけど……)


 そもそも、パーティ内においては後衛でもある程度自分の身を守れるようにしておくのが普通だ。

 レインは狭い場所での一人の活動に特化しているため後衛でありながらも支援にはあまり向かない。

 正直、パーティ向けではない魔法ばかり覚えているのだ。

 そんなレインが期待されていることはやはり圧倒的な火力ということになる。

 だが、守られるような女性ばかりのパーティにおいて守られるポジションというのがレインにとっては複雑だった。


(何て言うか……これだと僕が一番女の子っぽくないか?)


 今はこの構成が一番安定するのは分かる。

 それに守ってもらえるという点については、レインはとても安心感もあった。

 その状態で冷静に考えてみると、唯一の男であるはずのレインが守られる立場にあるというのはレインとしてはあまり許容していいものではない気もしていた。

 最も、リースやシトリアは当然気にすることはないだろう。

 二人にとってレインは女の子なのだから。

 だが、センとエリィはどうだろうか。

 エリィはまだいいとしても、センは後々レインのことを煽ってくる。

 そんな気がしてならない。


「シトリア、そんなに近くにいなくても大丈夫だよ」

「え、急にどうしたんですか?」

「いや、急にというか……エリィだって守らないと、さ」

「……あたしは平気よ。リースだっているんだし」

「そのリースも何て言うか、僕よりに守ってない?」

「まあ、エリィはある程度自分で身を守れるからな。レイン、君は少し厳しいんじゃないか?」

「そ、そんなことない。僕だって自分の身くらい守れるさ」

「レインさん、気持ちはわかりますが、今はあなたの男らしさとかそういうのを気にしてる場合ではないですよ?」

「!? どうしてそれを……!」

「図星だったんですか」

「うぅ!?」


 シトリアの言葉に、レインは言葉を詰まらせる。

 エリィは少し呆れたような表情でレインを見ていた。


「あたしのことを心配してるのかと思ったら、そんなことね」

「い、いや、エリィのことを心配しているのも事実だよ」

「どうだか……」

「レイン、君がこうして付いてきてくれることに私達も感謝しているんだ。だから、そんな小さいことは気にせずに協力して進もう」

「僕にとっては小さいことではないんだけどっ」

「そういうところが小さいのよね」


 なぜか前衛にいるセンから突っ込まれ、レインは少し泣きそうな表情になりながらも黙ることになった。

 洞窟内をレイン達は進んでいく。

 やがて、少しあけた場所へと出ることになった。

 そこには、少し輝いて見えるキノコがいくつか生えていた。


「このキノコは……」


 シトリアが何かに気付いたようにセンへと声をかける。


「センさん! 一応気をつけてください! 魔法で守ってはいますが、これらは皮膚の表面に胞子を撒いて魔力を吸って成長するキノコです!」

「あら、これって酒場でも結構みるやつじゃない?」

「おつまみのキノコで出されることもありますね!」

「おつまみキノコ……」


 レインも見覚えがあるものだった。

 これといって目立つ形はしていないがやや細長く、上の部分がしっかりとしている。

 当然、レインも自身の呪いにも似た能力で守られている――そうレインは解釈していた。


「レインさん、一応キノコには触れないでくださ――って、触ってるじゃないですか!」

「あ、ごめん。僕も結構これ好きだから……」

「意外なところで緊張感をなくすな……」


 リースの言葉に、レインは少し申し訳なさそうにしてキノコから離れる。

 そんなレインの股の部分が微妙に盛り上がっていることに、リースが気付いた。


「レイン、それはどうした?」

「え――」


 リースの訝しげな表情に、レインもその視線の先を見る。

 そこに本来あるはずのものはレインにはもうない。

 だが、そこには別のものが生えていたのだった。


「は、え? キノコ……生えてるんだけど……」


 レインが確認すると、そこにあったのは洞窟内にあったキノコ。

 その言葉を聞いて――真っ先にセンが笑いだしたのは言うまでもないことだった。

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