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32.魚釣り

「やってしまった……」


 川まで向かう森の途中にはいっぱいの氷柱が並んでいた。

 昨日――酔った勢いで暴れたことは覚えている。

 どうにも歯止めが効かなくなってしまうようだ。

 レインとしては、今度は記憶を失わなかったことが不幸中の幸いであったが。

 こんなところで酒を飲むこと自体が間違いだったと反省している。

 一方のセンは、


「でも、昨日のレインはなかなかに男らしかったわよ。結構強そうな魔物にも臆せず魔法をバンバン撃っていたわ」

「うっ……」


 そう言われるのは複雑な気分だった。

 レインとセンはこうして森の中を抜けていき、ようやく目的地であるウィコス川へと到着したのだった。

 川を切るように流れる比較的大きな水流がそこにある。

 上流の方に行くとその分川は細くなるが、流れは速くなる。

 釣りをするなら、この付近の流れがちょうどいいくらいだった。

 意外にも、人がいた形跡はいくつか残されている。

 どうやら定期的に冒険者がやってきてここで釣りをするようだ。

 レインも覚えがある。

 ギルドの依頼の中にも、食材調達依頼というものがたまにあった。

 魚などの依頼ももちろんそこにある。

 そうした依頼を受けて川までやってくる者は少なからずいるのだ。

 この森や川までやってこられる冒険者の数はそれなりに限られそうだとは思うが。

 少なくとも、レイン一人ではまずやってくることはないだろう。


「さ、はじめましょうか」


 そう言うと、センは背負っていた荷物を広げる。

 すっと取り出したのは一本の短い棒だった。

 それを軽く振ると、ヒュンッという音共に棒が伸びた。

 そう、釣竿である。


「……意外としっかりしたもの持ってるんだね」

「まあね。結構川で釣るのは好きだもの。ちなみにリースを誘うと銛で捕り始めるから」

「銛……ふっ」


 その姿を想像して、レインは思わず噴き出してしまう。

 リースなら確かにそれでも違和感はなかった。

 ただ、同じくセンも釣りではなく川の中に入って直接斬りそうなものだが。


「センは川には入らないの?」

「うーん、わたしあまり泳ぎが得意じゃないのよね」

「えっ、意外だね」


 Sランクにもなると、水の中で魔物を狩ることも結構ありそうなものだ、と勝手に思っていた。


「そうかしら? レインはどうなの?」

「まあ、僕もそんなに得意じゃないけど……」

「じゃあ川には入らないように注意した方がいいわね。ここは真ん中の方はまあまあ深いから」

「分かった。気をつけるよ」


 もちろん、言われなくともレインは川の中に入るつもりはない。

 レインを使って魚を取るつもりなのかと思っていたが、センはレインにも釣竿を渡して、意外にも普通に釣りを始めた。

 餌は森の近辺でもよく見られる小さなワームだった。

 それを針につけて、川へと投げ入れる。

 センのフォームはとても綺麗だった。


(さすがSランクの冒険者――って関係ないか)


 けれど、参考にはなった。

 レインも見様見真似でセンのように投げいれようとする。

 ヒュッと針がローブに引っかかり、その勢いのままペロンとめくれた。

 しかも、ワームだけがなぜか服の中に入り、


「うわ、見えないっ――何か入ってるし! 気持ち悪っ! あ、だめ!」

「一人でなにしてるのよ……?」


 センにローブを直してもらい、服の中のワームも取ってもらう

 釣りを始める前からすでに終わりそうな勢いだったが、気を取り直してもう一度投げる。

今度はきちんと成功し、何とか始めることはできた。


「まあ、釣りは待つのが基本だから。一人より二人の方がいいのよね」

「そういうこと……それなら僕以外でもいいんじゃないの」

「いいじゃない。暇なんだし」

「勝手に決めないでよ!?」


 実際のところ、引っ越す準備をしにきてすでに片付けができていたというのなら暇ではあるが、それはそれでギルドから依頼を受けるとかやることはある。

 尤も、今はリースが話を聞きにいっているが。

 魚釣りといっても趣味でやりにきたわけではない。

 あくまでセンのおつまみを釣りにきたという話だった。


「そういえば、どんな魚を狙っているか聞いてなかったけど」

「んー? 《ウィコスサーモン》っていうここで見られる魚よ。産卵時期になるとさらに上の方まで流れていっちゃうけど。塩水で干すと良い感じの干物になるのよね」

「あまり聞いたことないな……」

「そうでしょうね。高級品よ? レインはあまり酒場でもお高いものは注文しないわね」

「……まあ、一応お金は貯めたい派だから」

「あら意外ね。どうして?」

「どうしても何も、後々のことを考えたら普通のことだよ」


 将来楽をするためにお金を貯めている。

 ただそれだけだった。


「それだけの力があるならもっと色々のことができると思うけど」

「別にやりたいとは思わないけどね」

「そう? お姉さん、結構期待しているのよ。わたしも冒険者としてもっと先を見られるんじゃないかって」

「……? それってどういう――」

「あ、レイン! 引いてるわよ!」


 聞き返そうとしたところで、レインの方の釣竿が揺れる。

 慌てて竿を引くと、


「うわっ、重!?」

「あら、この辺でその引きだといきなり当たりかも! 意外とついてるじゃない」

「意外とは、余計、だ!」


 ぐっと思い切り引くと、川から比較的大きな魚が飛び跳ねた。

 センはそれを見て頷く。


「おっ、あれが――」


 そんなセンの言葉を遮るように、さらに大きな魚がレインの竿にヒットした魚を丸々飲みこんでしまった。

 それはあまりにも一瞬の出来事だった。

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