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26.解除魔法

 依頼を達成して、今はレインの家に二人はいた。

 もう荷物もほとんどまとまっていて、明日か明後日には紅天の拠点へと引っ越すというところまで来ていた。

 そんな中、レインはシトリアの頼みを達成し、シトリアもまたレインの頼みを聞くことになっていた。

 レインにかかっている強化の魔法の類――それを解除すること。

 確証はなかったが、それがなくなればレインへの呪いにも似た効果がなくなるとレインは考えていた。

 それは知らずにうちに得ていた魔法の強化も失ってしまう可能性はあったが、レインはそれでももとに戻ることを選ぶことにした。


「それでは始めますよ」

「……うん」


 レインは深呼吸をし、そのときに備える。

 そんなレインを見て、シトリアは少し苦笑いをしながら、


「そんなに畏まられると、こちらが緊張してしまうのですが……」

「あ、ごめんっ」


 それほどまでに大事なことなのか――シトリアは少し疑問に思っていた。

 せっかくの魔道具の効果を失うことを、あまりお勧めのできることではなかった。

 それでもレインは依頼を手伝ってくれたので、シトリアもそれには応じる。


(本当は……その力で今後も手伝ってほしかったりしたんですけど)


 共に毒の湿地に行ける人間は少ない。

 レインならば、それほど気にせず一緒にいけるとシトリアは感じていた。

 ほとんど依頼を受ける人間のいないヘシス草――それは、高価な値段で取引される。

 ただ、シトリアが回収した中にはそれを寄付するためのものも存在していた。

 シトリアが調合したものを、せめて病気が自然治癒できるまでは使えるように、と。

 それはきっと平等なことではないけれど、シトリアにとって何もせずに病気で苦しむ子供たちがいることが見過ごせなかった。

 だから、こうして冒険者になったのだから。


(今は忘れましょう。レインさんの願いをかなえないと)

「では、始めます」


 改めて、シトリアが魔法を発動した。

 強化魔法の解除――聖属性の魔法には相手を妨害するタイプの魔法も存在している。

 本来は魔法を使える魔物に対して、これらの解除系の魔法を使用するのが普通なのだが、当然人間にも有効ではある。

 ただ、シトリアが危惧していることは、もしかするとレインにはそういう類の魔法ですら無効化する能力があるのではないか、ということだ。

 毒ではなく、あらゆる魔法に対する耐性――本人があれだけの氷の魔法を使用しても、特別仕様であった衣服だけが氷漬けになっていたことを考えるとあり得ない話ではない。

 どうして力を隠していたのか――シトリアにも憶測でしかないが、あれだけ大きな力を持っていれば寄ってくる相手も多いと考えたのだろうか。

 面倒事に巻き込まれたくないなら、力を隠すのは一番であると。

 そのシトリアの考えは実際間違っているわけではなく、レインは面倒事には巻き込まれたくないというタイプの人間だ。

 だが、隠している理由はどちらかと言えば何とか目立ちたくはないというところにあったが、それをシトリアが知るよしもない。

 そのときは一瞬で――シトリアが小さくため息をつく。


「終わりました」

「え、終わり?」


 レインが身体の方を確かめる。

 特に何があった、というわけではない。

 胸の部分などを触ってみるが、身体に変化があった様子はない。

 シトリアの方を不安げに見ると、


「一応、解除は成功しているようですが……」

「え、ええ!?」


 レインは驚きの声をあげる。

 シトリアの言葉を信じるなら、力だけは解除されて女の子の状態はそのままだということになる。

 そんな最悪な事態があり得るのか、と。


(う、嘘だ……そんなことって……)


 青ざめるレインを見て、シトリアは心配そうに声をかけようとする。


「レインさん、大丈――」


 そのときだった。

 レインの手首の方から、黒い模様が再び浮かび上がった。


「……! それは……?」


 シトリアが怪訝そうな顔で見るが、レインは逆にそれが希望に見えた。

 再び身体を流れる熱い感覚がある。

 以前魔道具を装備したときと同じ感覚だ。


(もしかして……これで元に戻れる……!?)


 レインは焦ることはなく、今度は解呪の準備もしない。

 時間が経つにつれて、息が少し荒くなり、顔が火照っていく。

 当然、そんな状況のレインをシトリアが放っておけるわけもない。


「レインさん、すぐにベッドに横になってください」

「ありが、とう。けど、大丈夫、だから」


 たどたどしい話し方をするレインに、より心配そうにするシトリア。

 レインは何とか、シトリアに分かってもらおうと説明した。


「これ、前にもあったんだよ。魔道具の、効果で……」

「魔道具の? その強化効果を得たときにですか?」


 シトリアの言葉に、レインが頷く。


「しかし、これを見る限りでは再び効果が発動しようとしているように見えますね……それに――」


 シトリアがおもむろにレインの手を取り、手首に巻いた包帯を解く。

 そこには、手首の模様から徐々に全身に広がる模様の元凶が目に見えた。


「これはレインさん自身が魔道具になっている状態じゃないですか。魔力の流れも不安定ですし……とても見過ごせる状態ではありません」


 シトリアはレインの身体を支えながら、ベッドへと寝かせた。

 そうして、そのままレインの服に手をかけようとする。

 レインは焦って、シトリアの手を掴んだ。


「な、なにするの?」

「何って……模様の広がり方を見るんです。服を脱がないと分かりませんよ」


 それを聞いて、レインは身体を起こして抵抗しようとする。

 今はまだ見られるのはまずい――もしかしたら元に戻れる前兆なのかもしれないのだから。


「ま、待って! 本当に大丈夫、だからっ」

「そう言われても……」


 シトリアの手を握るレインの力はとても弱い。

 シトリアが心配するのも無理はなかったが、レインは何としてでも見られたくなかった。

 そんな様子を見て、


「分かりました。ただ、状態は確認させてもらいます」

「状態……?」

「レインさんの精神状態も含めて、魔法で鑑定させてもらいます」


 聖属性の魔法ではないが、そういう類の魔法が存在する。

 あくまで精神的に異常な状態にないかというのを見る魔法らしいが、レイン自身は落ちついているつもりだった。


「分かった……」


 レインは小さく頷いてそれに応じる。

 特に問題はないはず――レインはそういう確信があった。

 今にも意識は飛びそうだったが、レインは何とか耐えている。

 いや、以前よりはマシな状態であるというべきか。

 シトリアがレインのお腹に手を当てて魔法を発動する。

 少しだけくすぐったい感覚がお腹から広がっていく。


「……これは」


 シトリアが少し驚いた表情でレインを見た。

 思わず、レインもシトリアの方を見る。


「何か、おかしなこと、でも?」


 レインの問いにシトリアは少し悩んで答えた。


「興奮状態にありますね、しかも性的な意味で」

「え、ええええ!?」


 それを言われて一番驚いたのは、レインであった。

最近ちょっと普通な感じだったなと思ったんですよ。

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