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23.依頼の報酬

 迷宮からまた数時間かけて三人は地上へと戻ってきた。

 戻りながらも何度かレインの不運は発生したが、さすがに面子が面子なので大きな出来事が起こることもなく町へと戻ってこれたのだった。

 早速ウィリアムをクレアの元へと送っていくと、


「ウィリアムっ!」

「クレア!」


 そんな二人で名前を呼び合い、お互いに駆けだした。

 金色の鎧に身を包んだままでは抱き合うと痛いのではないかと思ったが、バキンという音とともに抱き合う瞬間に鎧がパージされた。


(そういう風に脱げるの!?)


 レインとエリィが心の中で同じ驚きの声をあげる。

 何とも突っ込みどころがある再会ではあったが、無事に依頼は達成した。


「ありがとう、レインさん。おかげでまた彼と出会うことができたわ」

「いえ、そんなたいしたことは……」


 実際そんなにすごいことはしていない。

 何せ、ウィリアムは普通に元気だったのだから。

 レインとエリィが合流しなければもっと長い間迷宮にいたかもしれないが。


「依頼料は後で支払うから、ほしい金額を言ってちょうだい?」


 レインはそれを待っていたわけだが、この状況はとても言いにくい雰囲気があった。

 後ろからエリィが見ている状態で、なおかつクレアとウィリアムはこれから結婚するという二人だ。

 ここで高値を言えるほどレインの肝は座っていないし、そこまで非情でもない。

 小さくため息をつくと、


「ローブ代だけ払ってもらえれば……」


 それで妥協した。

 それくらいはもらってもいいだろうとレインは考えたのだ。

 探してもらったのに、とクレアは申し訳なさそうにし、迷宮でも手伝ってもらったとウィリアムも同様に依頼料を支払うと言っていたが、あくまで帰ってくること前提での依頼だった。

 ローブ代くらいが妥当だろうと判断した。

 二人と別れ、レインはエリィと共に帰路につく。


「普通に依頼料をもらうかと思ったのに」

「まあ、常識の範囲ってやつかな」

「後でもらっておけばよかったなんて言わないでよ」


 そんなこととっくに思ってる、レインは心の中で答えた。

 やや落ち込むレインを見て、エリィはぷっと吹き出して、


「しょうがないわね。今度あたしがご飯くらい奢ってあげるわよ」

「いや、女の子に奢ってもらうほど困ってはいないよ」

「そう? じゃあ奢ってくれるの?」

「いや、奢ってください……」

「ふふっ、いいわよ。奢ってあげる」


 そんなやり取りをして、エリィとレインは別れた。

 なんだかんだ、二人は打ち解ける形となった。


(結局、紅天のパーティに落ち着きそうだなぁ……)


 安定した生活という意味では、収入源では困らないかもしれない。

 危険は伴うが、その分報酬は大きいパーティだ。

 ただ、その収入の多くは飲み代や装備代に消えてしまっているようだが。

 レインは家に戻ると、すぐに穴のあいたローブや服を脱ぎ捨ててベッドに横になった。

 すっかり慣れてきてしまって、一人のときは裸のまま横になっても特に支障はない。

 もちろん、他人に見られるわけにはいかないのは変わらない。


(何か大事なこと忘れてるんだよなぁ)


 レインは目を瞑って考える。

 裸でいると少し肌寒いとか、はやくシャワーを浴びて寝ようとか、そんなどうでもいいことばかり頭を過る中で、レインはもっとも重要なことを思い出した。


「戻る方法探すんだった!」


 紅天に入ってすぐに色々あったために忘れていた。

 もっとも重要なことだというのに。

 ばれないことばかり考えていたが、それではいつまでたっても元には戻れない。

 戻る方法が分かったわけではないが、レインにはまだ戻すことができる可能性のある人物を知っていた。


(シトリア……今度彼女に相談してみよう)


 遠まわしに、そういう付与魔法の類を解除できるかどうか相談してみる。

 レインは再び、自身の今の目的を再確認したのだった。


   ***


「はあ、なんだか結構疲れたわ……」

(けど、悪くなかったかも)


 エリィは疲れを感じながらも、あまり経験のなかった迷宮でのことを思い出していた。

 レインのことを思うと、なぜか少し顔が熱くなる。

 エリィからしてみると、自分の身も気にせずに庇ってくれたというところがとても強く印象に残っていた。


(女みたいだとは思ったけど……少しはかっこいいところもあるわね――って、何考えてるのよ!)


 頭を横に振って、軽く深呼吸をする。

 こんな浮かれた気持ちではいけないと、いつも通りの表情で帰路につく。

 エリィが家に戻ると、リースが少し驚いた顔をして出迎えた。


「どうした、エリィ」

「……? 何が」

「いや、随分ご機嫌だと思ってな」


 エリィはそう指摘されると、はっとして顔を赤くする。

 エリィは普段通りのつもりだったが、無意識のうちに、他の人から見てそう感じるような表情をしていたということだ。

 そして、その状態で町中を歩いてきたという事実に、恥ずかしさがこみ上げる。


「な、なんでもないわよっ」

(何かあったな……)


 レインとのことだろうと何となくリースは察した。

 あれだけパーティに入れるのは嫌がっていたが、戻ってきたこの雰囲気を見るに、悪くはない感じになったようだ。

 むしろ、エリィの態度だけ見れば姉としてふと気になってしまうことがある。


(エリィは異性との付き合いがないからな……。レインのことを男として意識しているのなら……)


 もし、そうだとしたらそれはエリィを傷つけることになるかもしれない。

 そんなことを思いながらも、今はエリィとレインが仲良くなれたという事実を喜ぼうと思うリースであった。

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