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22.対スライム

 レインはすぐに二人に合図をした。

 前方からやってきた黄土色のスライムを全員が視認する。

 すぐに動こうとしたのはエリィだった。

 火の魔法によって先手必勝を狙ったのだろう。

 だが、ウィリアムとレインが同時に制止した。


「な、なんで止めるのよ」

「よく見て。あいつ中に魔道具がある」


 レインの言葉を聞いて、エリィは目を凝らす。

 黄土色で分かりにくいが、確かに真ん中より少し下のところに何かあるのが分かった。


「あれがどうしたのよ」

「要するに、あれが僕達の狙いだ」

「……え、あれを狙うの?」


 エリィが驚いた表情をするが、ウィリアムの方は分かったように頷く。

 迷宮において出会えることは珍しい。

 エリィは今、そのままあのスライムを倒そうとしたが、それでは中の魔道具を破壊してしまう可能性がある。


「動きを止めつつ、中身を狙うんだ。スライムだと位置が真ん中だと少し狙いにくいけど――」


 話している間に、スライムの方が動いた。

 うにょうにょと槍のように身体をいくつも伸ばし、三人の方へと攻撃を仕掛ける。

 エリィは防御系の魔法を得意とする魔導師ではない。

 ウィリアムは剣士だ。

 ゆえにどちらも回避を選択するところだが――三人の間に氷の壁が出現する。

 分厚く大きな壁はスライムの攻撃を通すことはなかった。

 ひやりと少し身体が冷える感覚をエリィは感じる。

 目の前で見ると改めて凄い――これがレインの扱う魔法だということはすぐに分かった。


「僕があいつの動きを止める。その隙に何とか取り出して見てくれ」


 パキリと氷の壁が崩壊すると同時に、ウィリアムが動いた。

 槍状となったスライムの攻撃の先端から伝うように凍っていく。

 スライムの動きは鈍くなっていた。

 ウィリアムはそのままスライムへと斬りかかる。

 液状の身体は簡単に飛散するが、大きさはそれなりだ。

 それに、元に戻る速度もそれなりにある。


「さすがに簡単ではないか」

「――なら、あたしがやるわ! 少し離れていて」


 今度はエリィが動く。

 エリィが放ったのは広範囲に対して攻撃を行う火属性魔法の《ファイア・ブレス》。

 単独で動くスライムには有効打にはなりにくいが、今はそれが良かった。

 水分が蒸発するような音と共に、湯気のあがった身体でスライムが動く。

 レインの氷による足止めは溶けてしまったが、そのサイズは先ほどに比べると小さくなっているのが分かった。

 レインはエリィの方を見て頷き、


「これを繰り返せばいけるかも!」

「ええ!」


 だが、再びスライムが動いた。

 今度は槍状のものではなく、自身の身体から直接放つ弾丸のようなもの。

 先ほどよりも圧倒的に速い攻撃に、エリィの反応が少し遅れる。

 魔導師は詠唱を必要とする。

 その分、防御などをする場合にはより早く反応速度が求められる。

 エリィ自身も魔導師タイプであり、こうした狭い場所での戦闘には慣れていない。


(避けられない――)


 エリィがそう思ったとき、レインがエリィの前に手を伸ばした。

 ばしゃりと飛沫となってはじけ飛ぶが、攻撃力としてはそこまで高くはない。

 だが、布地のローブはすぐに溶け始める。


「な、何やってるのよ!?」


 驚くエリィに対し、レインはちらりと腕の方を見る。

 アラクネのときもそうだったが、溶解液の類ではレインの身体が溶かされることはない。

 シトリアから聞かされたが、レインには非常に高い魔力による耐性が備わっているらしい。

 身体から離れても動くスライムはやや気色悪くはあるが、それでも攻撃を受けないのはメリットだった。


(うん、問題なさそうだ)

「大丈夫、僕にはこういうの効かないから」

「そういう問題じゃ……!」

「話は後だ!」


 ウィリアムの言葉でレインが再び動く。

 地面を冷気が走る。

 スライムの動きが再び鈍くなる。

 その時、周囲から別の魔物も出現した。

 それに反応するのはウィリアムとレインだ。


「エリィ! またスライムへの攻撃を頼むよ! その後僕が動きを止める!」

「ああもう! 分かったわよ!」


 やってくる魔物を迎撃しつつ、スライムへの攻撃は怠らない。

 これを繰り返すと、やがてスライムの再生速度も鈍くなり、攻撃も弱くなってきた。

 ウィリアムが再びスライムの胴体を切る。

 魔道具まで剣先が届いた。


「もらった!」


 ウィリアムはそれを器用にすくいあげるように魔道具を取り出す。

 それと同時に、スライムの色が元に戻り、みるみる小さくなっていく。

 魔道具を吸収した状態が解除されたのだ。


「ウィリアム! こっちだ!」

「ああ!」


 レインの合図と同時に、ウィリアムがこちらへと戻ってくる。

 すでにレインは準備をしていた。

 そのまま後から追ってくる魔物やスライムの攻撃をすべて無にする――


「《フロスト・ゾーン》!」


 地面も壁も、氷が支配していく。

 近づいてきた魔物や魔道具を持っていたスライムも含めて、すべての動きが停止した。

 氷漬けの状態――本来は足止め程度の威力しかないはずの魔法だったが、これはこれで攻撃魔法のように扱えて便利だとレインは感じた。


「これで一先ずは撤退かな」

「ああ、鑑定してもらわないと分からないけど、あのスライムの状態を見ればおそらくがそれなりの効果があると思う」


 レインはエリィの方へと近づいていく。

 エリィは少し怒ったような表情をしていた。


(あれ、何か怒ってる?)

「だ、大丈夫?」

「……それはこっちの台詞よ」

「え?」

「腕、本当に何もないのね?」


 そう言われて、レインは先ほどのことを思い出す。

 スライムによって右腕の方の布地は溶けていた。

 そういえば、先ほどまでもぞもぞとしていた感じが腕にあったが、今は――


「……あ」


 よく見ると飛沫があちこちに飛んでいて、腹部の方などが見え隠れしていた。

 レインはコホンと咳払いをしながらさっとローブで身体を隠す。


「大丈夫だよ?」

「なら、いいけど……」


 男らしいような女らしいような――レインの態度を見ているとエリィは何とももやもやとした気持ちだった。

 それでも、助けてもらったことは事実だ。


(あたしが言えた義理じゃないかもしれないけど……)


 パーティにいてもいいかな――そんな風に思ったエリィであった。

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