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21.恋心のような

 AランクとBランクの冒険者が三人。それだけの戦力が揃えば迷宮の攻略など余裕で、すぐに稼いで戻れる――そんな甘い話などあるわけもなく、迷宮における探索は難航していた。

 主に魔物相手に苦戦しているというわけではない。

 目ぼしい遺物が見当たらないのだ。


(そもそも、ウィリアムの持っているやつを普通に横流しすればそれなりの額にはなるんだけど……)


 レインは一人でそう考える。

 もちろん、違法なことだ。

 ウィリアムの性格から考えるとそんなことはしないだろうし、そもそもそんなことを提案すればエリィからもどんな目で見られるか――


(正攻法で稼ぐなら隠し部屋のようなものを見つけるか、あるいは《レア》な魔物か……)


 前者はレインにとっては少し――というよりかなり苦い思いをした話になってしまった。

 そこで見つけた魔道具の効果で、女の子になってしまったのだから。

 けれど、元々の効果を考えればかなりの値段になるはずだった代物でもある。

 そういう類のものが見つかる可能性が迷宮にはある。

 後者はもっと確率は低いが、レアと呼ばれる魔物がいる。

 これらは高い魔力の遺物に誘われて、それらを持ち歩いたり、時には食べてしまったりすることがあるのだ。

 そうすると、その魔物自体は異常なまでに強くなったり、何かしら魔法のような効果を周囲に振り撒いたりするが、それが目印となって分かる。

 何か強力な魔道具を持っているのだろう、と。

 主に魔物の持つ感覚によって見つけられたものであるため、その効果も疎らではあるが、倒せばそのままの魔道具が手に入ったりする。


「中々見つからないな」

「そうね……正直、なめていたわ」


 ウィリアムの言葉にエリィが頷く。

 黄金の戦士であるウィリアムはどうやら見た目こそ目立つが迷宮の冒険者らしくあまり疲れを見せていない。

 レインも同様だった。

 対してエリィは少し疲れの表情が見える。

 太陽の光を一切浴びることのできず、独特の雰囲気を持つ迷宮に数時間以上いるのは、慣れない人にはきつい場所だった。


「エリィ、無理せず休んだほうがいいよ」

「だ、大丈夫よ」


 レインの言葉に、エリィは首を横に振る。

 なぜか少し頬が赤かった。


(熱でもあるんじゃ……)


 レインが心配そうにエリィを見る。

 すると、エリィは嫌そうな顔をしながら、


「ジロジロ見ないでよっ」


 そう言ってそっぽを向いてしまった。


(心配してただけなのに……まあ、大丈夫そうかな)


 レインはエリィの様子を見て、すぐに迷宮の探索の方に意識を集中する。

 一方のエリィは、迷宮の探索からレインの方へと意識がうつってしまう。


(何よ、急に優しくしたりして……)


 迷宮に入ってから、少しずつレインのことが気になり始めていた。

 それは慣れない場所ということや、男と一緒という二つの要因から始まったつり橋効果のようなものだったが、ふと意識してしまうとどうしてか、気になってしまう。

 エリィは性格からして他人に対してきつくなりやすかったが、出会ったばかりのウィリアムの事情を知って無条件で手伝うなど根はやさしい性格をしている。

 良くも悪くも純粋であるエリィは、レインに対するこの気持ちがもしかすると、恋愛的な何かではないかと一瞬感じてしまった。


(あり得ない……あり得ないわ。どこにそんな要素があったのよっ。わ、私がこんな女男に――)


 そう思って、またレインを見る。

 男のはずなのに、フードの先から見える横顔はやはり、女の子のように見える。

 正直言って、エリィから見ても可愛く見えるほどだった。

 そんなレインの実力が、エリィを超える魔導師であるという事実。

 初めてあの氷の魔法を見た時、驚きや嫉妬よりもまず《憧れ》を抱いた。

 あんな風にすごい魔法を使える魔導師になって、姉と共にパーティで活躍する。

 それがエリィの目標だったからだ。


(けど、それだけで……)


 エリィが聞いていた話では魔法の力はすごいが基本はドジというものだった。

 ドジというか、確かに不運ではあるが、今のエリィと共にしているレインは迷宮では頼りになる人物であった。

 ギャップというものを強く感じると、人はより心を揺さぶられる。


「……」

「エリィ、本当に大丈夫?」


 覗き込むようにレインが話しかけてきた。

 エリィは驚いた表情をしたが、すぐに怒った顔で、


「大丈夫だって言ってるでしょっ」

「ご、ごめん」


 思わずそう声をあげる。

 レインはすごく申し訳なさそうにエリィから距離を取った。


(あ……怒るつもりなんてなかったのに……)


 すぐに謝ろうかと思ったが、レインは気がつくと先の方へと進んでしまっていた。

 エリィの方を、黄金の鎧を着たウィリアムが見ている。


「な、何よ?」

「がんばれ」

「何よ!?」


 ウィリアムの言葉に、また炎でも出しそうな勢いで声をあげるエリィ。

 そんな後ろの騒ぎを耳にして、レインは小さくため息をつく。


(迷宮で騒ぐなよ……)


 声が響いて凶悪な魔物でもやってきたらどうするんだ――そんなことを考えたとき、前方からそれはやってきた。


(まさか……あれは……)


 レインは思わず息をのむ。

 黄土色の身体をした、大きなスライム――見た目だけでなく強力な魔力を宿しているそれはレアな魔物であるということは一目瞭然であった。

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