20.ウィリアム発見
迷宮に入ってから数時間――相当なスピードで二人は奥の方へと進んでいた。
けれど、一向にウィリアムの気配は掴めないどころか、他の冒険者にすら出会うことはない。
迷宮の広さを考えれば当然と言えば当然のことだが、どうやら今日はこのあたりを誰かが通ったというわけでもなさそうだった。
「……ねえ、本当にここにいるの?」
エリィの言葉に、レインは少し考える。
ウィリアムはこの迷宮に行くと言い残していなくなった。
だが、それからもう数日は経過している。
確かに別のところへ移動していてもおかしくはない。
ただ、一つの迷宮にこもっていてもおかしくはない期間でもある。
それに、一度外に出たのなら町の方へ戻っているだろう。
だから、ウィリアムはまだ迷宮内にいると考えるのが自然だ。
けれど、闇雲に潜っていっても無駄に時間はすぎるだけだ。
レインとしては、このまま潜っていて見つからなかったとしても、きっとウィリアムは勝手に戻ってくると考えてはいた。
それをエリィに伝えるのは憚られたが。
「おそらくここにいるのは間違いない。けど、見つけるのはやっぱり難しいね」
「だから受ける人もいないんだろうし、ギルドも対応に困っていたんだと思うけど……」
迷宮でいなくなった人探しというのは何とも不毛な依頼だった。
それこそ迷宮でいなくなったかどうかも分からないのだから。
レインはもう少し進んで、それでも見つからなければ一度引き返そう――そう考え始めた頃だった。
「あれ、そうじゃない?」
「あっ」
鎧を着た男が、奥の方で左右を確認しているのが見えた。
――普通にいた。
依頼のときにウィリアムの容姿については聞いている。
一応、中身が金髪の男であるということも分かっているが、そもそも鎧を着こんでいるのでそれは分からない。
だが、装備についても聞いている。
全身金色――それほどの目立つ男はきっと、迷宮でなくとも一人しかいないのだろう。
「ウィリアムっ! ……でいいのかな?」
「む、君たちは?」
レインが近づいて声をかける。
やはりウィリアムだった。
鎧どころか武器まで金色だ。
《光石》と呼ばれる迷宮内を照らしてくれる特殊な石よりも、彼自身が輝いているように見える。
迷宮に入って時間は経っているはずだが、とてもきらきらしていた。
(……やっぱり、心配するほどの話じゃないな)
レインの思った通りだった。
レインはウィリアムに、クレアから依頼を受けて迎えに来たという事情を伝える。
ウィリアムは驚いた声をして、
「そんなに時間が経っていたのか……まだ三日くらいかと」
「ああ、分かるよ」
「ええ……?」
ウィリアムの言葉に納得するレインに対して、眉をひそめるエリィ。
迷宮を探索する冒険者は気がつくと時間を忘れてしまう。
宝探しをする子供の気持ちは常に忘れない――そんな冒険者達が集まっているのだ。
「さあ、一緒に戻ろう」
「いや、まだ戻れない」
「なんだって?」
クレアが帰りを待っているというのに、ウィリアムはまだ迷宮にこもるという。
さすがにウィリアムは見つけたけど連れ戻せなかった、では依頼を達成したとは言い難い。
後でウィリアムから説明してもらえばそれでいいかもしれないが、せっかくここで出会えたのなら連れて戻りたいところだった。
「どうして戻れないんだ?」
「俺はここにクレアへ渡す結婚指輪の資金を用意するためにやってきたのだ。まだ買うには足りない」
「結婚指輪か……」
クレアが婚約していると言っていたが、どうやらウィリアムが迷宮に潜ったのは正式に結婚するための資金を稼ぐためだったようだ。
そういう事情ならば、無理に連れ戻すことをするつもりはない。
ただ、クレアに何と説明したものか。
結婚指輪の資金のために迷宮を探索していたよ、などと報告すれば雰囲気ぶち壊しだ。
レインも一応、それくらいの常識は備えている。
どうしたものか、と考えていると、
「だったら私達も一緒に探すわ」
エリィがそんなことを言い出したのだった。
「えっ」
「……? どうしたの、そんな驚いた顔して」
もちろん驚く。
特に稼ぎにもならない話を普通にしようというのもそうだが、エリィがそういうことをするとも思わなかったからだ。
「いや、悪いよ。今あったばかりの二人に。ましてやクレアの依頼でこんな面倒をかけてしまって……」
「別に構わないわ。困ったときはお互い様だし、それにおめでたい話じゃない? 応援してあげるのは当然だと思うけど」
エリィがちらりとレインを見る。
レインも何とも言えない、という表情をしていたが、正直断りにくい雰囲も出ていた。
それに、エリィとの仲も普通になってきていたので、わざわざ壊すようなこともする必要はないとレインが考えた。
やがて静かに頷き、
「そ、そうだね」
ぎこちない笑顔で答える。
こうして、ウィリアムも含めて三人で迷宮探索をすることになった。
いつの間にか、エリィから認められなければパーティから抜けられるかもしれない、という考えをすっかり忘れてしまっていたのだった。