19.迷宮探索2
レインは迷宮内においては頼れる冒険者――エリィもそう感じ始めていた頃だった。
レインの頭上に、かけた壁が落ちてきて、レインの頭部に直撃する。
大きさはそれほどでもないので、少し痛そうにしている程度だったが。
他にも転びそうになって罠を踏みそうになるなど、何かと目立つところがあった。
(やっぱりドジなのかしら)
(おかしい……迷宮に嫌われたみたいだ)
そんな二人の違った考えはあるが、それでもレインの迷宮攻略における慎重さが何とか生きた。
迷宮内でも戦闘は発生する。
迂回したところで避けられない場合だ。
ある程度の感覚を掴んでいた。
力めば尋常ではない速度で初級魔法は飛んでいく。
本当にふっと突きだす程度に魔法を発動すると、威力は抑えられる。
それでも、迷宮内にいる魔物はほとんど一撃だったが。
(この中であの威力を出したら崩壊しかねないからね……)
一方、エリィの方も迷宮は初めてと言う割には魔法の調整は上手く、広がりすぎないように発動していた。
エリィは炎の魔法の使い手だ。
BランクといってもAランクによるところもあって、魔力の操作から魔法の質まで普段のレインを上回っている。
ただ、エリィにとってはレインの方が上であると感じているという、何とも言えない状況であった。
「Aランクのウィリアムなら結構奥まで進んでいるはずだね。少しペースをあげようか」
「分かったわ」
いつの間にかそれなりの協力関係を結べている。
数日間も中にいるつもりはない。
レインは最短ルートでウィリアムの生存を確認して戻るつもりだった。
(……とはいえ、ここの魔物も弱いわけじゃない)
レインは更に警戒を強める。
だが、強めたところで地味な不運を避けることはできなかった。
また天井から小さな岩が頭にふってくる。
「……っ」
(うわぁ、やっぱこいつ相当な不運ね)
少し引き気味にエリィがレインを見る。
冒険者にとって運というのも重要な要素の一つだ。
迷宮探索ではもちろん、お宝を発見するには根気だけではなく運も必要になる。
今回は遺物探しという目的はないにしろ、迷宮探索を得意にしているという割にはレインの状況はあまりよくなかった。
(呪い……まさか呪われているのか? いや、でもあの魔道具はそんな効果は……それとも、僕がこうなることを望んでいたやつがいる……!?)
疑心暗鬼になりつつあるレインとそれを心配そうに見つめるエリィ。
(はっ、何であたしがこいつの心配なんか……)
そう思ったところで、エリィは顔を横に振った。
思えば女みたいな見た目といってもレインは男だ。
それをこんなところで二人で探索するなんて――
(デート、みたいな? いやいや、ないでしょ)
そもそもデートというのは町中で行われるものだ。
けれど、紅天に所属するエリィにとっては、共に冒険をすることができる異性と一緒に迷宮に潜るのはそれに近しい何かであるように感じられた。
(初デートがこんな女男で、しかも大分不運なやつなんて、あたしも相当不運なのかしら)
――とはいえ、一緒に行くといったのはエリィの方だ。
それを嫌がるというのはさすがに失礼だとエリィも考えていた。
(まあ、ここではそれなりに頼りになるみたいだし、認めてあげてもいい、かも)
ここまでで、エリィはレインに対する評価が少しずつ変化し始めていた。
エリィがレインを見ていると、またしても頭部に岩が落下する。
「……っ」
「……ふふ」
「今笑った?」
「なっ、笑ってないわよ!」
なぜか怒られたレインはため息をつきながらも迷宮を進む。
レインの望みは、ウィリアムが早く見つかることにあった。
体調を崩してしまったのでちょっと短めです。