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103/103

103.落下

 センとリースは『ブラッド・ピーク』の背中に乗ると同時に、それぞれ言葉を交わさずとも狙いをつけた――両羽の根本だ。


「よっと――あら?」


 センの素早い一撃。彼女の剣は鎧のような硬さを持つ魔物でも両断することを可能としているが、『ブラッド・ピーク』の羽根は刃を通さず、リースも同様に槍を弾かれる形となった。


「こいつ……相当硬いな」

「普通に柔らかく見えるけど……って、もしかして攻撃を受ける瞬間に硬質化してる……!?」

「ちっ、厄介だな……とっ」


『ブラッド・ピーク』が大きく身体を揺らし、背中に乗った二人を振り落とそうとする。

 だが、それぞれに羽根を掴んで、バランスなどもはや取れないはずの場所でもしっかりとその場に踏みとどまった。


「魔法組の出番よ! こいつの羽根、物理はあんまり通らないから!」


 センが大きな声で叫び、次の降り立つのはレインを含めた四人だ。

『ブラッド・ピーク』より上空――氷の足場にいる四人のうち、三人はすでに降りる準備はできているが、レインは少し後方にいた。

 そして、すぐにフレメアに捕まる。


「この上空でも逃げようとするなんて、とことん根性がないのねぇ」

「に、逃げようとしたんじゃないですよ。あんまり高いから腰がひけて……」

「どのみち根性がないわ」

「うっ」


 バッサリと切り捨てられる。


「そろそろ氷の床の勢いも収まってきました。いよいよ落下するでしょうし、頃合いでしょうね」


 シトリアが冷静に言うと、三人に先んじてエリィが先頭に立ち、


「先に行くわよ、レイン!」


 勢いよく飛び出して行った。


「エリィ……!? マジか……!」

「あら、あの子の方がよっぽど根性あるわね」

「うぐっ」


 さらに突き刺さる一言。

 エリィは『ブラッド・ピーク』に向かいながら、


「来なさい、『イフリート』!」


 上空で魔法を発動した。火の巨人が現れ、すぐに『ブラッド・ピーク』が気付く。

 大きな身体を翻して迎え撃とうとするが、


「あたし一人でも、地面に叩き落としてやるわ!」


 気合の入った言葉と共に、『イフリート』が両の拳を合わせて大きなハンマーでも振り下ろすかのような勢いで――『ブラッド・ピーク』の嘴と衝突した。

 バツンッ、と何かが千切れるような轟音と共に、『イフリート』の両腕が弾け飛ぶ。


「……嘘!?」


 エリィは驚愕に満ちた表情を浮かべた。

『イフリート』は彼女が持つ最大級の魔法であり、実際その強さは誰もがよく知っている。

 魔力消費量という問題はあれど、発動さえできればそこらの魔物に打ち負けるような代物ではないのだ。

 落下の勢いまで合わせたというのに、『ブラッド・ピーク』はその名の象徴である嘴によって、いとも容易く打ち破って見せた。


「落ち――」


 エリィはすでに『ブラッド・ピーク』の大きな身体の範囲から外れてしまっている。

 このままでは落下する――すぐに動いたのはリースだ。

 背中から飛び出すと、エリィの身体を掴んだ。


「レイン!」


 リースの合図――何が言いたいのか、すぐに分かる。


(距離はあるけど……!)


 レインは即座に氷の足場を空中で作り出した。

 ちょうど、リースとエリィの落下する先に、だ。

 その足場に降り立つと同時に、リースが勢いよく蹴り出して、再び『ブラッド・ピーク』の背中へと戻った。


「危なかった……」


 レインは思わず、安堵の溜め息を吐く。

 リースがエリィを助けるために飛び出すのは当然のこととしても、まさかレインに頼って戻ろうとするとは考えもしていなかった。

 咄嗟に反応できた自分を褒めてやりたい、と思うところだ。


「いい連携ね。仲間との信頼関係を築けているわ」

「へ、へへ、ど、どうも」


 改めて師匠に褒められるとなんだか照れくさく、変な笑いが出てしまう。


「笑い方がむかつくから落とすわ」

「へ、ちょ、嘘――」


 ひょいっとまるでゴミでも投げるかのようにフレメアはレインを放り出し、


「次はあなたの番よ。頑張りなさい、レイン」


 激励の言葉を受けながら、レインは『ブラッド・ピーク』の下へと叫びながら落下していった。

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