102.空中戦の始まり
「……やっぱりやめた方がよくない?」
いよいよ作戦実行――というところで、相変わらずレインの弱気な発言が光った。
上に行くメンバーはフレメアを含めて紅天のメンバーと合わせて六人。
レインの作り上げた氷の足場と、巨大な『アイス・ゴーレム』の準備はできた。
全員が配置についたところで、やはり『上に投げる』という作戦は危険すぎる。
「また始まったわね、レイン……男らしくないわよ?」
呆れたように、センが言う。
『男らしくない』と言えばいつでもレインが挑発に乗ると思ってはいけない。
「う、うるさいな。もっと安全な方法がないかって話を――」
「レイン」
不意にレインの言葉を、フレメアが遮った。
ビクリと身体を震わせて振り返ると、無表情のままレインを見つめる彼女の姿があった。
「分かるわね?」
「は、はい! やります!」
何も言わずとも、彼女の言いたいことが分かる――これ以上、駄々をこねるようなことがあれば、今の作戦よりももっと悲惨なことが待っている、とフレメアは言いたいのだ。
レインは『アイス・ゴーレム』を動かし始めた。ゆっくりと腕を振るい、勢いのままに――上空へとレイン達を放り投げる。
「やばい! は、速いよ、これ!」
「あんたが投げたんじゃない!」
勢いのあまり涙目になるレインに対し、エリィの突っ込みが冴えわたる。
レインとエリィは氷の足場に座り込んでいるが、残りのメンバーはこんな中でも立っていた。
「この速さならすぐに到着するな。私とセンは奴の背中に乗る!」
「羽根が斬れたら最高ってところね」
「私は二人を援護します」
セン、リース、シトリアが『ブラッド・ビーク』の背中へと行く。
残りの三人は魔法でとにかく攻撃をすることになる。
当然、氷の足場に待機していられる時間はなく――攻撃をできる機会はほとんどない。
『ブラッド・ビーク』を地上に引きずり下ろすために、どれだけダメージを与えられるかの勝負になる。
空中戦で仕留められれば御の字だが――それは難しい、という判断だ。
『――』
『ブラッド・ビーク』がこちらの動きに気付いた。
大きな身体を旋回させると、両羽を大きく羽ばたかせる。
逃げられる――そう思ったが、『ブラッド・ビーク』は巨大な羽根を飛び道具のように飛ばしてきたのだ。
「うわ、攻撃してきた!?」
「ちっ、イフリ――」
「『アクア・ランス』」
エリィよりも早くフレメアが反応し、『ブラッド・ビーク』の攻撃を的確に迎撃していく――慌てる様子など微塵もなく、冷静な対応だった。
「さ、さすが師匠……!」
「驚いている暇があったらすぐに相手の動きに反応なさい。死にたくなけばね」
やはり、フレメアは間違いなく魔導師としては最高峰で――レインなんかよりずっと強い。
フレメアのおかげで『ブラッド・ビーク』を射程内まで捉えると、センとリースが動き出した。
「それじゃ、わたし達は先に行くわね!」
「え、まだ止まってない――のに!?」
レインが言い終える前に、センとリースの二人は跳躍し――『ブラッド・ビーク』の背中へと降り立った。
どこまでも行動の早い二人だ。
「私はもう少しだけ様子を見たら行こうと思います」
「う、うん。それがいいと思う……」
シトリアは二人を見送りながらポツリと呟いて、レインも同意した。
「さ、やるわよ、リース」
「ああ、大物相手は腕が鳴るな」
戦闘狂の二人が先陣を切り、戦い始まった。