101.作戦
「作戦は単純。『ブラッド・ビーク』は上空にいる限り、こちらから手を出すことはできないわ。そして、奴が一番油断しているのは上空にいる時。だから、直接そこを叩くわ」
「直接叩く? そんなことが可能なのか?」
フレメアの言葉に反応したのはリースだ。
あまりに空高く飛翔している『ブラッド・ビーク』には、いかにフレメアと言えど魔法を届かせることはできないのだろう。
そして、すぐに降りてこないのは――レイン達の戦闘を見たからだ。
近づけば魔法での攻撃があるから、『ブラッド・ビーク』は攻め方を考えている。
今、この瞬間が一番の隙というわけだ。
「レインの魔法で上まで行くわ」
「え、僕の魔法で? そんな魔法ないですけど……!?」
急に振られ、レインは思わず驚きの声を上げる。
確かに、レインの力は必要と言われたが――さすがにできないだってある。
レインには異常な魔力があれど、氷の魔法は対空に優れているわけではないからだ。
「馬鹿ね。少しは頭を使いなさい」
「……いや、思いつかないです」
「はあ、分かったわ。やり方は単純、大きな『アイス・ゴーレム』を作りなさい」
「『アイス・ゴーレム』……? まあ、魔力を込めれば大きいのは作れますが……」
「そして、次に作るのは私達の乗る足場ね」
「足場……?」
すでに嫌な予感しかしなかった。
「もう分かるでしょう。『アイス・ゴーレム』に投げさせるの」
「何を?」
「私達を足場ごと。こんなに細かく説明しないと分からない?」
「分かりたくなかったんですよ! これ師匠の作戦だってバカのやることじゃないです――いたいっ!」
背中を思い切り、フレメアに叩かれて思わず叫ぶ。
倒れたところを、さらにお尻まで引っぱたかれ、レインは涙目になりながら抗議する。
「布が薄いので本当にやめてください……!」
「あら、柔らかいから叩きやすくてよかったわ」
「わたしも叩いちゃおっと」
パチン、とフレメアに比べれば優しいが、何故かセンがレインに追撃を加えた。
「なんで!?」
「ノリよ、ノリ。パーティ以外のメンバーがレインを叩いてるのにパーティメンバーが叩かないのはおかいいじゃない」
「言ってることが怖い!」
「すぐ話を脱線させない! つまり、レインの『アイス・ゴーレム』で全員を打ち上げて、上空で一気に決着をつける……そういうことでしょ?」
エリィが問いかける。
言葉にするのは簡単だが、場所は上空――はっきり言ってしまえば、相手の土俵に自ら突っ込むのだ。
「ええ、そういうこと。しかも、短期決戦ね。失敗したら、こっちが飛んでくることを学習するから、さらに高く飛ぶでしょうから」
「……上等じゃない。レイン、あんたがしっかり飛ばしなさいよ」
エリィはやる気だ。
思えば、エリィだってリースの妹――戦いを好むのは姉妹揃って同じということか。
「そうですね。動かれる前にやる……妥当な作戦でしょう」
「よし、話はまとまったな」
「楽しくなってきじゃない。お姉さん、頑張っちゃおうかしら」
――むしろ、レイン以外は全員やる気だった。
だが、彼女達の言う通り、仕留めるのなら早い方がいいのだろう。
「ああ、もうっ。僕もやればいいんだろう? まったく……」
「なにちょっと怒ってるのよ。『ブラッド・ビーク』の討伐って結構お得じゃない」
「……どういうこと?」
センの言葉に、レインは大きく反応した。
「冒険者いっぱい集めないと倒せないレベルの魔物なのよ? 素材だってかなり高く売れるわ」
「それ本当?」
「レアい魔物はみんなそうよ。やる気出た?」
レインは小さく溜め息を吐き、それでも立ち上がって構える。
「べ、別にお金がほしいわけじゃないけど……まあ、やってやろうじゃないか」
――どう見てもお金が欲しいだけだが、レインのやる気はアップした。
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