表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/138

背の高い転入生 1

 教育再生法に参加した私は、これから小学生として学業に従事しなければならないらしい。

 37歳にして小学生という身分である、しかしこれはけっこう辛いものがある。

 私が小学生に混じって勉学にいそしむ姿を想像だにできない。



 通うべき小学校は、実家のそばの母校になるらしい。

 実に25年ぶりだろうか、当時の記憶はすでにあいまいで思い出せない。


 実家はどちらかというと田舎といってよい、(はず)れた場所にある。

 都心から片道2時間くらいかかり、会社への通勤はできないことはないのだが、かなり厳しいものがあった。

 社会人になった時、すこしの間は実家から通っていたが、なにかと不便なので早々にあきらめて一人暮らしにしてしまった。


 今はそんな場所へ向かうために電車に揺られている。


「なんでこんなことになったのだろう?」


 ぽつりと愚痴がもれる。

 今にして思えばあの聞いたこともない『再教育課』というのは、定年退職を迎えるまで役人を囲んでおく、窓際部署(まどぎわぶしょ)のようなものだったかもしれない。



「ブーン、ブーン」


 携帯が鳴る、ポケットから取り出してみると、それは今の現場の親方からだった。

 どういいわけをすればいいのだろう? 考えてはみたもののすぐに答えはでない。

 しかし待たせておくのは大変に失礼なので電話にでる。


「もしもし鈴萱(すずがや)です」


「おお鈴萱君か、なんだか突然会社を休職することになったんだって」


「はいすいません、そういう成り行きになってしまいました。

ご迷惑をおかけして申しわけありません、なんとお詫びを言って良いのか……」


「いやいや課長から話をきいたよ、なんでも教育再生法とかなんとかで5年間みっちりと勉強しなおすんだって。えらいじゃないか、がんばりなよ」


「はい、がんばります」


「正直いうと君がいなくなると困るし、さみしい部分もあるが勉学の為ならしょうがない。

まあ落ち着いてきたら飲もうじゃないか連絡をくれよ」


「はい、必ず連絡を差し上げます、色々とありがとうございます」


「では失礼するよ」


 そう言い残すと電話はきれた。私に気をつかってくれている、ありがたいかぎりである。

 だが勉強とは小学生のそれで、やりなおしたところで何か得るものはあるのだろうか……



 しかし5年間という話は伝わっていたな、課長は内容を知っていたのか。

 かなり長い期間なのだが『受けてくればいいんじゃない』とか気軽に言ってくれる。

 まったく課長という人は……


 モヤモヤとした思いを巡らしていると、列車は目的の駅へと到着する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ